アディダスが取り組む、海の課題解決。スポーツの力で美しい海を守る『adidas x PARLEY』
プラスチック。
食品の梱包材、コンビニの袋、電化製品やクレジットカード、玩具にまで使われ、いまや私たちの"便利な生活"とは切り離すことのできない存在だ。
その一方で近年、関心が高まりつつあるのは、プラスチックによる海洋汚染問題。
例えば、道端に落ちていたコンビニの袋や、プラスチックストローが水路へ落ちたとき、行き着く先は"海"。これらは有機物のように自然に消滅することなく、何らかの形で残ってしまう。これが海洋生物のヒレに引っかかったり、細かくなったプラスチックを魚が誤嚥してしまったりと、生態系にも悪影響を及ぼしているという。
空気中に漂うマイクロプラスチックや、生き物の食物連鎖から巡り巡って、私たちは毎週平均、クレジットカード一枚分のプラスチックを体に取り込んでいるという研究結果も出ている。海洋汚染は決して他人事ではない。
ここで、あるウェブサイトの一文を紹介しよう。
「毎分トラック1台分ものプラスチックが海に捨てられていることになります。このペースで汚染が続くと、2048年までに魚よりも海中のプラスチック廃棄物のほうが多くなると科学者たちは予測しています」
発信しているのは、あのスポーツブランド「アディダス」だ。
アディダスは環境保護団体「Parley for the Oceans」とともに、海のプラスチックごみをリサイクルしたシューズやウェアを開発。2024年までに、リサイクルポリエステルへと段階的に移行することを宣言している。
スポーツをする人はもちろん、シューズやウエアなど、私たちにとっても身近なブランドであるアディダスが、環境保護について発信することにはどんな意味があるのだろう。
そんな疑問を胸に秘めて、私たちはアディダス ジャパンを訪れた。お話を伺ったのは、ランニング商品に関するマーケティング活動をしている部署を取りまとめる、西脇大樹さんだ。
プラスチックごみから作ったプロダクト『adidas x PARLEY』
── アディダスではプラスチック問題に取り組んでいるとのことですが、このプロジェクトが誕生した経緯を教えてください。
前提からお話させていただくと、アディダスの企業理念は「Through sport, we have the power to change lives」。日本語でいうと、「スポーツを通して、私たちには人々の人生を変える力があります」。
これには、アディダスの製品を使っていただくことで、「アスリートに良いパフォーマンスをしてもらう」ことはもちろん、「昨日よりも今日の方がいい結果を出せる」「嫌いだったスポーツが好きになった」というように、人生がいい方向へ変わっていくことをサポートしたい思いが込められています。
これまで、スポーツブランドとファッションブランドの両軸で商品を生み出してきましたが、それ以外にも、人々の人生や、世界をより豊かにするために社会貢献できることはないかと考えていました。そこで着目したのが、海に流れ出ていくプラスチックの問題です。2015年にアメリカで「Parley for the Oceans」という環境保護団体が生まれ、アディダスも創設メンバーの一員として加わりました。
── 「Parley for the Oceans」は、具体的にどんな活動をしている団体なのでしょうか。
主に海岸や川など、海につながるところでプラスチック廃棄物を回収している団体です。アディダスとしても一緒にできることを模索して、海洋のプラスチック廃棄物を原料にしたプロダクトの開発に取り組むことになりました。そうしてできたのが『adidas x PARLEY』というプロダクトラインナップです。
シューズのアッパー部分は、海岸や海沿いの地域で回収されたプラスチック廃棄物をリサイクルした素材で作られています。
参考:プラスチック・スマート ULTRABOOST PARLEY
── ブランドイメージ向上のため、慈善団体に寄付するという話は聞きますが、アディダスでは具体的に製品化しているんですね。
スポーツカンパニーとして、寄付だけじゃなく、他にできることも見つけていきたいんです。そこで、私たちはブランドの魂である商品と海を守っていく活動を結びつけることはできないかと考えました。
このシリーズは2016年から日本でも発売されはじめ、その後はシューズの他にスポーツウェアも誕生しました。例えば、今僕が着ているこれも、Parleyの素材を使ったものなんですけど。
── 従来の素材に比べて、デメリットはないんでしょうか。
機能性の面でデメリットはないですが、回収したプラスチックをアップサイクルして作るので、少しコストが上がってしまいます。それでも商品を購入してくださるのは、Parleyとのコラボ商品であることに賛同して、価値を感じていただける方たちですね。
プロダクトの機能やデザイン、価格追求の実証として、プロの方に試合などで着ていただき、プロモーションも行なっています。2016年には、サッカーの世界的なビッグクラブであるレアル・マドリードと、バイエルン・ミュンヘンの2クラブで、Parleyの素材を元にしたユニフォームを選手に着てもらい、アピールしたりとか。
これらは素材表示でいうと「リサイクルポリエステル」になるのですが、アディダスでは、2024年までに全製品をこのリサイクルポリエステルに移行することを目指しています。
── 時間もお金もかかると思うのですが、実際のところ採算はとれるんですか?
慈善事業としてやっているわけではないので、この製品できちんとビジネスとして成り立つようなコスト構造になっています。やはり、ここから利益を生みだしていかないと、企業としてサステナブルに商品を出していけないので。
── こういった商品を購入することが、プラスチックごみを減らすことにつながっていくのはめちゃくちゃいいですね。
賛同していただけるのは、とてもありがたいです。2017年から世界中の都市で「RUN FOR THE OCEANS」というランニングを通じて海洋環境保護に貢献できる活動を行なっているんですが、参加者の伸び率がとても高くなっています。世界的にも環境への関心が高まっているといえるんじゃないでしょうか。
ちなみにこのイベントは、時間や距離を計測できるアプリである「Runtastic(ランタスティック)」を使用して、開催期間中、参加者が1キロ走るごとに、アディダスが1ドルを「Parley Ocean School」に寄付するというものです。寄付金は、子どもたちが海を守ることの大切さを学ぶための、啓蒙活動などに使われます。
参考:プラスチック・スマート Run For The Oceans
── これからの世界をつくる次の世代に伝えるのは、とても意味のあることですね。
「A.I.R.戦略」でプラスチックを「回避」「回収」「再設計」する
── 企業としてさまざまな取り組みをされていくなかで、社内でも意識が変わったと実感することはありますか?
実は、ある時を境に弊社の自販機からペットボトルがなくなったんですよ。本社の屋上にあるカフェでも、プラスチック容器やプラスチックストローでの提供が廃止されました。
── えっ!
その代わりに、全社員に再生素材からできたタンブラーやエコバッグが配られまして。社員の間で、環境に対する意識が高まってきている実感はありますね。
── すごくいい取り組みですね。とはいえ、いきなりペットボトルがなくなって不便じゃなかったですか?
人間って適応能力が高いなと思ったんですが、意外と不便さは感じていないんです。ペットボトルがないなら缶で飲めばいいし、タンブラーでしかドリンクを提供してもらえないなら持っていけばいい。
生活に対してインパクトの大きいことをした方が、意識が変わっていくのは早いのかもしれません。本当に必要なものなのかどうかを考え、選び取ること。僕らもいろんなものをなくされて気付かされたというか(笑)。
こういった取り組みを誇りに思い、それがアディダスで働くモチベーションになっている人もいるみたいですよ。
── これもParleyの取り組みと関わりがありますか?
そうですね、関連しています。Parleyでは、「A.I.R.(エアー)戦略」でプラスチックを減らそうとしているのですが、これにアディダスも取り組んでいるんです。
まず「A.I.R.」の「A」は、「Avoid=プラスチックの使用を回避する」という意味です。
アディダスでは2016年にプラスチック製ショッピングバッグを廃止し、FSC認証を取得したリサイクル可能な紙を使った紙製バッグに移行しました。また、社内でペットボトル使用を取りやめたこと、マイボトルやエコバッグを配布したこともこの一環です。
次に「I」は「Intercept=回収」。
Parley For The Oceansと協同し、プラスチックが海へ流出するのを阻止しています。
最後に「R」は「Redesign=再設計」。
海岸や海沿いの地域で回収されたプラスチックごみをアップサイクルし、ポリエステル織糸「PARLEY OCEAN PRASTIC」を生成します。これを使用した製品を開発・販売することで、プラスチック廃棄物が、新たな価値を持って生まれ変わります。
── 最近、アパレル企業がプラスチック製のショッピングバッグをやめて話題になっていましたが、アディダスでは2016年と早い時期に廃止されていたんですね。世界的な企業が取り組むことで、かなりのプラスチックを削減できているのでは。
プラスチック製バッグは毎年約7000万枚の削減になり、社内でペットボトルの使用をやめたことが40万トン以上のプラスチック節約につながりました。
2016年のプラスチックバッグ廃止時には見向きもされませんでしたが、今は同じ取り組みをしたいと考える企業も出てきました。先駆けて取り組んできたことで、他の業界や団体への影響力になっていると実感しています。
若い世代のサステナブル意識について
── プラスチック汚染問題への注目が高まっていると思うのですが、何かきっかけがあったんでしょうか?
今年に関していえば、G20と重なっていたので、メディアの関心がそこに向いたのかなと思いますね。
あとは私見ですが、若い方が就職先を選ぶときに、企業にサステナブル意識があるかどうかをすごく大事にしているように思います。弊社でもインターンの学生さんや、新卒の子たちと面接する機会があったときに、「何か質問はありますか?」と言うと、すごくナチュラルに「御社は環境問題に関して何か取り組んでいることはありますか?」って聞かれるんです。
いい人材を採っていくという意味でも、こういった取り組みが求められるようになっていくのかもしれません。
── 環境問題への取り組みなどをしなければ、儲けられない世の中になってくるのかもしれませんね。今後の展望を聞かせてください。
今年の4月に、ゴミを出さないことを目的として100%リサイクルできる素材で作られたシューズ『FUTURECRAFT.LOOP』のプロトタイプを発表しました。すべて同じTPU(熱可塑性ポリウレタン)素材で編まれていて、接着剤も使用しないためリサイクルが可能なんです。
シューズを履いていただき、次に買ってくださるときには交換して、それをまたリサイクルへ回して別のシューズを作れたら、将来的には廃棄の量を減らすことができる。これは2021年の春夏に販売開始を目指しています。
毎年、世界中で何百万、何千万足とシューズを出していますが、僕らは最終的に行き着く先まで考えなければならないと思うんです。
── 私たち消費者に望むことはありますか?
あくまで無理のない範囲で活動に賛同していただけると嬉しいです。
シューズを買うときに、好きなデザインや機能などを犠牲にすることなく、「少しでも環境にいいほうを選べるなら......」という選択肢を提示していけたら。そこは妥協せずに、我々が努力していくべきところですね。
究極的には、プラスチック廃棄物をリサイクルした商品を出せなくなるほど、海をきれいにすることができたら、というのが私たちの目標です。
まとめ
不必要にプラスチックを使うことや、不意に落としてしまったり、ポイ捨てしてしまったプラスチック製品が、「環境へ悪い影響を与える」というニュースをよく目にするようになった。
とはいえ、日々忙殺されながら暮らしていくなかで、そんなことまで考える余裕はないし、「一部の意識高い人たちが言ってることでしょ」と、思わないこともない。けれど、そのままで、本当に大丈夫なんだろうか?
そうしたときに、誰もが知っている大手メーカーが、こうして環境について考え、製品とともに発信することにはとても大きな意味があるように思えた。
「ちょっと待って、もう少し余裕ができたら考えるから」を、これまで繰り返してきた。
でも、「ちょっと待って」を続けた先にあるのは、次の世代の子どもたちが生きていく世界だ。いきなりすべてを変えていくのは難しいかもしれない。けれど、私たちが向き合うべきときが、すでにきているのではないだろうか。
-
文栗本千尋
Twitter: @ChihiroKurimoto
Facebook: Kurimoto1852
-
編集くいしん
Twitter: @Quishin
Facebook: takuya.ohkawa.9
Web: https://quishin.com/
-
撮影友光だんご
Twitter: @inutekina
Facebook: tomomitsudango
\ さっそくアクションしよう /
必要なものを買うときに、環境に配慮した商品を選ぶことは、美しい海をはじめとした地球環境を守ることにつながります。