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''死の海''を再生したい。1.5坪の小さな店から始まった釣具屋の挑戦

Gyoppy!編集部

釣具販売店「ポイント」の髙宮俊諦(たかみやとしあき)さん

福岡県北九州市。県内では2番目に大きな都市で、1901年に世界遺産である官営八幡製鐵所(かんえいやはたせいてつしょ)が創業して以来、重化学工業地帯として発展してきた。

今日の美しい海や川、山など豊かな自然を目の前にすると想像できないが、産業の興隆に伴い、北九州市は危機的な問題にぶつかる。それが公害問題だ。

1950年代から始まり、高度経済成長期にあたる1960年代には国内最悪の大気汚染を記録。一帯に多くの工場が建ち並ぶ洞海湾(どうかいわん)は漁獲量ゼロの"死の海"と化した。

1960年、
1960年、"死の海"だった頃の洞海湾

そんな日本最大規模の公害問題に立ち向かったのが、釣具販売店「ポイント」の創業者・髙宮義諦(たかみやよしあき)さん。

釣具販売店「ポイント」の外観

今回お話を聞いた義諦さんの息子である俊諦(としあき)さんは、父の意志を継ぎ、今も積極的に環境保護活動を行っている。

「企業が環境保護をしている」というと慈善事業と思われるかもしれないけれど、親子にとってはそうではない

「釣りを楽しむフィールドである北九州の海や川に、生き物を戻したい」という思いで環境保護活動に尽力してきたのだ。

堅苦しく感じられがちな環境保護。それをあくまで、北九州の自然を愛し、釣り好きを増やしたいという大前提のもとに行う親子の姿は、海や川のことを考えていく上で、大きなヒントになるかもしれないと感じられた。

釣具屋による、本気の環境保護

今回お話を聞いた髙宮俊諦(としあき)さん

髙宮 俊諦(たかみや としあき)

1947年、福岡県北九州市出身。株式会社タカミヤ代表取締役会長。同社副社長だった1993年、創業者で実の父・髙宮 義諦(たかみや よしあき)さんの急死により社長に就任。2016年、社長を退き、会長に。公益財団法人 日本釣振興会会長。公益財団法人 タカミヤ・マリバー環境保護財団理事長。釣具販売店「ポイント」は、九州を中心に全国に68店舗を展開する。

── なぜ、髙宮さんは環境保護活動に力を入れているのでしょうか。

経緯から話しますと、1950~1960年代にかけて起こった北九州市の公害問題に対して、会社として取り組み始めたのがきっかけです。北九州市はものづくりの拠点として大きく発展する一方で、それまで豊かだった自然が公害により危機的な状況に瀕しました。

沿岸に大規模な工場が林立する洞海湾は生き物がまったく棲めない"死の海"となり、古くから母なる川として親しまれた紫川(むらさきがわ)は異臭が漂う"黒い川"と化したんです。

── "死の海""黒い川"......。相当ひどい状況だったんですね。

「このままではいけない。元の美しい海と川を取り戻そう」という強い意志を持った多くの市民が立ち上がるなか、私の父親も積極的に環境保護活動に取り組んでいました。

その活動の中で、1985年に父親が会長、私が副会長となり立ち上げたのが「紫川に鮎を呼び戻す会」。発足当初は20名くらいの本当に小さな環境保護活動グループでしたが、今はM-CAP連絡協議会(紫川カムバック鮎プロジェクト)と名称は変わり、1,500名までその数を増やしています。


── 1,500人。髙宮親子はまさにリーダーですね。

釣具店を営んでいたから、釣りを楽しむフィールドである川や海に生き物を戻そうと思っただけです。公害による環境汚染が進む中で「とにかくこのひどい状況をなんとかしないと」と考える人が増え、官民一体となって北九州の自然を再生させる機運が高まりました。

── その結果、今や世界でも高く評価される環境モデル都市・北九州市が生まれたと。

当時「鮎が大事か、鉄が大事か」と盛んに議論され、結果、企業側も鮎の産卵期の紫川からの夜間の取水(*1)をストップするなど、紫川の環境保護活動に協力するようになりました。こういった点も北九州が環境モデル都市になり得たひとつの要因だと考えています。

(*1:取水とは、海や川から用水路や水道管、工場など導水施設に水を供給すること)

── もちろん髙宮さんたちの取り組みもその一助になったわけですね。

一助になれていたら、うれしいですね。「紫川に鮎を呼び戻す会」が「タカミヤ・マリバー環境保護財団(以下、マリバー)」の前身となったわけですが、実は同会を立ち上げるずっと前から、私の父親は「日本釣振興会」に加盟し、魚を増やす活動だったり、釣り場の保全整備などに携わっていました。

そういった活動を行っていたこともまた、北九州市の自然環境を取り戻す原動力になっていったんだと思います。

タカミヤ・マリバーの活動写真
タカミヤ・マリバーの活動写真

── マリバーや日本釣振興会では具体的にどのような活動を行っているのですか?

マリバーでは主に北九州市域内の河川の美化・清掃事業、稚魚の放流、ホタルやカワニナの飼育放流、水辺の自然と青少年とのふれあい事業などを行っています。

とくに市内の300超の河川、海岸線におけるゴミの収集活動・清掃活動に力を入れていて、財団で2台のゴミ収集車を所有しています。マリバー号の名で親しまれている車両で、年間300日以上活動していますね。

日本釣振興会の活動
日本釣振興会の活動

「日本釣振興会」の活動もほぼ同じですが、日本全国が活動の場だけに規模が違います。会が発足して48年間で放流した稚魚の数は優に億を超えているでしょう。

陸上の清掃も年間2000回以上は取り組んでいますし、海底や湖底といった大規模な清掃活動も行っています。

日本釣振興会の活動

── すごい。それらの活動がなかったら、今の日本の川や海の状況は違ったかも。

そういった取り組みや自然を大切にする考え方を広めるために、一般の方々に向けた活動も行っているんですよ。好評なのが、釣り体験教室や釣り大会です。今年は10月に「北九州釣り祭」と題し、国土交通省や北九州市と連携して規模の大きいイベントを初めて開催したんです。

釣り教室や魚のさばき方教室がメインの催しで、100名を募集したんですけど。あっという間に定員に達するほどの人気で、170名の応募があり、結局は断りきれずに定員を増やして受け入れました

このイベントも「日本釣振興会」が主催ですが、行政や漁協の方々の協力があってこそ実現したイベントです。今後はこういったイベントを全国各地でたくさん行いたいと考えています。

漁師を巻き込み地域活性

── 漁協や行政に協力を仰ぐときに、考え方や思いのすれ違いはないのですか?

北九州市においては、今まで一切ないですね。漁師さんも非常に友好的で、トラブルになったことがない。行政は、他の団体やイベントと不公平になってはいけないので当初はやや慎重でしたけど、今では協力的です。さまざまな方々が協力してくれるのは、ひとつにマリバーの活動を長年続けていることが大きいと感じています。

清掃車のマリバー号
環境保護活動の一環として、行政と協力し、ごみ収集も行う

私たちは河川や海岸線を年間300日以上、マリバー号で清掃しています。その地道な活動を行政はもちろん、漁師さんたちが快く思ってくれているからこそ、今こうしてみなさんと良好な関係性が築けています。

さらに、「西日本釣り博」の効果も確実にあったかと。これは2年に1回、西日本で行っているイベントです。2016年には約20年ぶりに北九州市で開催したんです。この年は来場者25,000名をマークし、さらに2018年は31,500名と、過去最高の集客を2回連続北九州市開催で記録しました。

大人1,200円と入場料が必要なイベントにも関わらず、ここまで集客できたのは主催した私たちもビックリしました。同じように行政も驚かれたようで、「釣りが観光資源になるのではないか」という方向性が見えてきたんです。

西日本釣り博「つりよかステージ」の様子
西日本釣り博「つりよかステージ」の様子

釣りを観光資源とした日本初の取り組み

── 釣りを観光資源にするというのは、どういったことでしょうか。

2018年6月からスタートした「北九州 釣りいこか倶楽部」というプロジェクトを通し、釣りというアクティビティを今までなかった観光資源として発信しています。簡単に言うと、「道具一式レンタルあり。船着港まで小倉駅から10~15分と近く、関門海峡を含め釣り場も港から近い。場合によってはガイドをつけることができ、釣りの経験がない方でも楽しめますよ」というツアーです。

船釣りの様子

── それは楽しい取り組みですね。

長年、釣具販売を専門としている中で、ゴミやマナーの問題など、釣りにネガティブなイメージを持たれることを、私たちは目の当たりにしています。例えば、周りに釣りを教えてくれる人がいない、魚を釣ってもさばき方や調理方法がわからない、魚によって釣り方や道具・場所が違う、道具が高価など、さまざまな課題があります。

それをクリアにして、純粋に釣りを楽しんでほしいという思いから、利用者の要望にできるだけ応えられるよう、細かくプランを設定しています。極端な話、手ぶらはもちろん、釣った魚の調理、宿泊するホテルの用意まで、オールインワンで楽しんでいただくことも可能な海釣りプロジェクトにしているんです。

── それだけ聞いても、釣りの楽しさに目覚める人が増えそうです。

北九州市にはさまざまな"海"があります。玄界灘、豊前海、響灘、山陰沖、関門海峡。風向きや潮流といった自然条件に左右されることなく、どこかの海でほぼ確実に釣りが楽しめるという地理的な優位性も生かしていくつもりです。

それには提携している遊漁船の力が不可欠。初めての釣りにチャレンジする方々にとって、遊漁船選びは難しいでしょうから、事務局にお任せいただければ、最適な遊漁船を手配するようにしています。

── 漁師の方々にとっても副業という意味で、「北九州 釣りいこか計画」の遊漁船はひとつの選択肢になりますよね。

そうですね。北九州市内にはおよそ100隻の遊漁船が存在しているのですが、「北九州 釣りいこか計画」ではお客様へのおもてなしや、サービスシップに優れた、共に協力して頂ける遊漁船20隻を、第一弾として選定させて頂きました。

やはり初めて釣りを体験しに来られた方に気持ちよく楽しんでいただきたい。それにはお客様とじかに接する船長のサービスやおもてなしの心は不可欠です。

その考え方から、船長に対して接客やおもてなしなどサービス教育も独自に行っています。今後は遊漁船も、ただ良い釣場を知っているというだけではダメな時代になってきたのではないでしょうか。

「ポイント」という名は表に出る必要はない。受け継がれる先代の思い

受け継がれる先代の思いを話す髙宮さん

── 先ほどお話に出た釣り教室も「北九州 釣りいこか計画」もそうですが、レンタルの道具類はどこが用意されているんですか?

そのあたりは「ポイント」で用意しています。

── なるほど。活動について調べていて不思議だったのですが、「ポイント」の名前はまったくといっていいほど出てきませんね。

われわれが表に出る必要はないと思っています。われわれが抱いているのは純粋に釣りというレジャーを好きになってもらいたいという思いだけ。利益を上げることが目的じゃないんです。この考え方は、先代である父親が当社に根付かせたもので、現在も会社全体に脈々と受け継がれています。いわば当社のDNAみたいなものです。

道具のレンタルなど釣り公園の運営に当社が一部協力している部分もありますが、それをPRに使おうとは一切考えていません。これもまた先代の教えによるところが大きいですね。

── 先代はどんな方だったんでしょうか?

子どもの頃から釣りが好きな人でした。現在の小倉北区の常盤橋で釣りを楽しんでいる大勢の人を見て「これからはレクリエーションの時代になる。なかでも釣りは日本人にとってかけがえのない趣味になる」と考え、昭和24年に釣具屋を開きました。国鉄を辞めてまで釣具屋として生きていこうと考えたわけですから、相当な熱意だったんでしょう。

── 当時の国鉄って間違いなく安定が約束されているような公社ですよね。すごい熱意だと感じます。

創業して2年くらいは、ひとりも来客のない日が多くあったと聞いています。3畳ほどの広さから釣具屋をスタートし、卸業へ進出。高度成長時代の第1次レジャーブームにも乗り、順調に卸業務の拡大を進め、昭和43年のスーパーダイエー小倉店出店を機に小売りが伸びたという経緯があります。

── 大変な苦労をされたのかと思いますが、そんな中でも公害問題に独自に取り組んでいったことに感銘を受けます。

先代も私も、海や川が大好きでしたから。当時あったのは純粋にその思いだけですよ。逆にその考え方は私自身今も変わっていませんし、当社の社員にもその気持ちだけは持ち続けてほしいですね。

釣りを観光資源にすることで、漁師も恩恵を得られる

インタビュー中の高宮さん

── 「北九州 釣りいこか計画」がスタートしたのは2018年6月。開始から半年ほどですが、手応えはいかがですか?

手応えは非常に感じています。利用者数は伸びていますし、海外からの観光客の方が利用するケースも多い。先日は中国人観光客の方々に30名ほどの団体でご利用いただき、とても喜んでいただきました。

国土交通省では現在、既存の港湾施設を活用した、釣り文化の振興を進めています。そういった意味では「北九州 釣りいこか計画」は成功モデルのひとつとなりました。海と遊漁船、レンタル品の確保などができれば、どの自治体でも同じような形で取り組んでいけますから。

── 協力体制さえ整えられれば、どの海でも実現可能な観光モデルですね。

今まで北九州市の観光は通過型で、宿泊する方々は少なかったんです。一方、「北九州 釣りいこか計画」を目的に来られる方々は長期滞在される場合が多いんです。

滞在するということは、釣り以外でもショッピング、食事などを楽しんでいただけますよね。そういった意味では経済効果も非常に大きなものになっています。最終的には定住人口を増やす一助になる取り組みにしていくのが目標です。

海外では海や川が眺望できる場所にあえて家を建て、その景観を楽しみながら暮らすのがステータスのひとつになっています。一方で日本人は川や海に背を向けるような形で暮らしてきたと私は感じているんです。

海や川に面していることは実はとても価値があるということを感じていただき、そこにもっと関心を持って、そして感謝しながら暮らすことが当たり前になっていくとうれしいですね。

インタビューを終え笑顔の高宮さん

文章/諫山力
編集/くいしん
写真/戸高慶一郎

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