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「作るのは簡単だけど、売るのは難しい」漁村の女性たちが生んだ大ヒット調味料

JF全漁連

万能調味料「ごまだし」が入った「ごまだしうどん」

大分県の南東端に位置する佐伯市鶴見は、豊後水道に面し、多種多様な漁業が営まれ、特に巻き網漁業は県下最大、東九州でも有数の水揚げを誇る。

豊後水道という恵まれた海域から揚がる新鮮な魚介類は鶴見の宝だ。しかし、経営悪化に加え、地元の食卓ですら、魚が登場することが減っていることを憂えた漁村の女性たちが起業化グループを立ち上げた。

起業化のきっかけ

入り組んだ入り江と里山に張り付くように家が点在する小さな漁村風景が広がる。古い倉庫の入口に、小さな看板「漁村女性グループめばる」(以下、めばる)が掲げられていた。代表を務める桑原政子さんの長男が経営する巻き網船団・漁勢水産の古くなった倉庫の中に、小さな事務所と加工場があった。

漁村女性グループ「めばる」

大分県内でも、魚の消費量が目立って減少していた。日々、ご主人が捕ってくる魚を目の前にして、桑原さんは悩んだ。

「どうしたら、地元の皆さんに魚を食べてもらえるのか」。できることから実行しようと、同志を募り、「漁師と食卓の懸け橋になろう」と2004年、女性グループを立ち上げた。「めばる」の誕生だ。

桑原政子さん
近くの漁村にある「しらす料理の豊洋丸」に通う桑原政子さん

悔しさをばねに

最初は、国から補助を受けた活魚トラックで県内各地を回り、鮮魚や、手作りのアジやサバの開きなどを販売した。試行錯誤しながら、道の駅やイベントを駆け回った。

佐伯市の「道の駅やよい」に出店したときのこと。鮮魚が売れなかった。今さらだが「観光客は鮮魚を買わない」と気付かされた。鮮魚の売り上げが伸びず、目標金額に届かなかったことで県庁から苦言が出た。桑原さんはその時、人目もはばからずに大泣きしてしまった。苦言を呈されたことが悲しかったのではなく、自分で設定した販売目標に届かなかったことが「悔しくて歯がゆかった」と振り返る。

そこから一念発起して考えた。漁家ならどこの家にでもある「ごまだし」が思い浮かんだ。焼いた魚を、ごまや調味料と一緒にすり合わせた佐伯の伝統調味料。魚から良いだしが出て、お湯で溶くだけで美味しい「ごまだしうどん」ができる。野菜をあえたり、炒めものの隠し味にしたり、さまざまな食材に使える万能調味料だ。

ごまだしうどん
ごまだしうどん

これを瓶詰にして滅菌処理すれば、常温保存もできるようになると考えた桑原さんは、さっそく行動に移した。「売れるようにするには見た目も大事」と、安く引き受けてくれるデザイナーを探し、瓶に貼るラベルを作った。アジから始め、エソやタイなど数種類のごまだしを製作した。一目で分かるよう瓶の上に魚ごとに色を変えた色紙をかぶせ、ひもで結んだ。

エソのごまだし
エソのごまだし

数々の賞を獲得

「ごまだし」は大ヒットとなった。2007年には大分県主催「ワンコイン・パッケージ農林水産物創出事業求評会」で優秀賞を、また農林水産省選定の「郷土料理百選」にも選ばれた。08年、全国青年・女性漁業者交流大会消費・流通拡大部門で農林水産大臣賞を受賞。12年には日本野菜ソムリエ協会主催「調味料選手権」で優勝した。

この活躍で、地元のみならず全国のマスコミから注目が集まった。2016年には、TBSテレビで放映されていた『所さんのニッポンの出番』に取り上げられ、その年の売り上げは2350万円まで激増した。スタートした04年の60万円から一気に40倍もの売り上げとなった。

ごまだしを瓶に詰める様子
もくもくと「ごまだし」を完成させていく女性たち

受賞したり、マスコミに取り上げられることよりうれしいのは「魚価が上がったこと」と桑原さん。もともとの目的は「家族が捕ってきた魚をもっと食べてほしい」。今では佐伯市の鶴見市場に通い、購入した魚の下処理をして焼き、冷凍保存する。こうすれば、魚が少ない時期の注文にも対応できる。

魚の下処理
市場で仕入れた魚は加工場の外で下処理されている

女性活動が成功する秘訣を伺うと「価格の付け方とデザインの統一性」だと言う。女性たちはどうしても安い値を付けがちだが、「それは逆。適正な市場価格に見合った金額にしなければ長続きはしない」ときっぱり。そこには、自分たちの商品への愛情や誇りがあふれている。

「福山のプロポーズを断る?」

都内を中心に展開している高級食料品・カフェチェーン「ディーン&デルーカ」から声がかかった。桑原さんにとっては名前も知らない店だった。最初に電話がかかってきたとき、訳が分からず「詐欺だろう」と思って切った。2度目も断った。そのことを娘さんに話したら「福山雅治のプロポーズを断るようなこと」と叱られた。3度目の電話で商談が成立し、現在は都内数店舗に出品している。

DEAN & DELUCA(ディーン・アンド・デルーカ)マーケット有楽町に並ぶ「ごまだし」
DEAN & DELUCA(ディーン・アンド・デルーカ)マーケット有楽町に並ぶ「ごまだし」

めばるの主なメンバーは4人。平均年齢70歳。焼いた魚をミンチにし、しょうゆなど調味料を加えて、40~50分煮詰める。ずっと鍋をかき混ぜ続ける重労働だ。そこへ大量のすりごまを加え、風味が飛ばないうちに熱いまま消毒した瓶へ詰める。全て手作業で行われている。

「ごまだし」は焦げやすいので、大鍋で40分以上絶えずかきまぜなければならない重労働
「ごまだし」は焦げやすいので、大鍋で40分以上絶えずかきまぜなければならない重労働

桑原さんは「地元だけでは先細りしてしまう。外へ売り先を探さないと」と、県内外の商談会にも積極的に参加する。

「作るのは簡単だけど売るのは難しい。次を考えないと」――桑原さんの目は、遠い未来を見つめている。

夕日

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