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「自分を信じて続けること」あつれきも乗り越えて、地域の伝統食がヒット商品に

JF全漁連

梶賀のあぶり
(写真提供:梶賀コーポレーション)

人口164人、平均年齢61歳(2018年8月末現在)――三重県尾鷲市の南端に位置する梶賀町の人口台帳。尾鷲市内から海岸線をたどると、大小いくつもの岬やトンネルを越えなければ着かない、過疎化が進む小さな漁村だ。

梶賀町
梶賀町

暗いトンネルを抜けると梶賀浦が目に飛び込む。魚市場を囲むように集落が広がる。透き通って底まで見える美しい海が印象的だ。かつては遠洋カツオ・マグロ漁業の基地であり、捕鯨も行われていたという梶賀の漁業は、今は定置網が中心となっている。

活動から事業への一歩

そんな梶賀町の伝統食「梶賀のあぶり」に今、注目が集まっている。市場で売れない魚を保存するために、内臓や頭を取った魚を塩のみで味付けし、桜や樫の薪火であぶったものだ。もともとは地域内で消費されていたが、尾鷲市などの勧めもあり、試験的に町外で販売してみたら、予想外の反響があった。

梶賀のあぶり
梶賀のあぶり(写真提供:梶賀コーポレーション)

「梶賀のあぶり」で町の活性化を図ろうと、婦人会の活動として2009年から商品化・販売の取り組みを開始した。紙で巻くだけから、真空パックに包装を変えるなど工夫をこらし、市内の直売所や観光施設などで販売できるようになった。11年からは、尾鷲市の特産品頒布会「尾鷲まるごとヤーヤ便」への納品も始め、県外の消費者にもPRできるようになっていた。

販売は順調だったものの、生産力の不足や不漁時の原料確保、販売に対する知識不足などから事業の拡大に向けて一歩踏み出せない状況だった。これを打開しようと2012年、婦人会を中心とした「梶賀まちおこしの会」を発足させたが、それだけでは拡大につながらなかった。

あぶりの作り方

まちおこしの会の代表を務めている中村美恵さんは、「10年間、足踏み状態だった。活動も頭打ち」と当時を振り返る。それに「拾ってきた魚をあぶって売っている」という心無いこともよく言われたという。拾ってきた魚とは、定置網の水揚げ時、規格外のため残ってしまう小魚だ。小さなサバ「鯖子」が「梶賀のあぶり」の定番商品。中村さんたちは、そんな苦労を乗り越え、10年間活動してきたのだ。

地域おこし協力隊の中川さん

2016年、地域おこし協力隊として若者2人が梶賀町に赴任して来た。そのうちの一人、中川美佳子さん(40歳)は、三重県津市で生まれ、東京の大学を卒業し、大手ファイナンスに就職した。そこで子会社経営の業務に携わったことがきっかけで、中小企業診断士の資格を取得。その後も、起業や会社経営に関わる仕事がしたいと考えているときに、尾鷲市が地域おこし協力隊の隊員を募集していた。昔から、三重県は良いものがたくさんあるのに、PRがうまくないと思っていた。三重県の産業振興の手伝いができたらと、梶賀町への移住を決意した。

梶賀町の古民家を借り受け、地元の人が集まれる拠点を作った。その古民家がかつて網元の家だったことから、「網元ノ家」と名付けた。中川さんの任務は「梶賀町の海産物の販路拡大」「地域住民との連携構築や活動の拠点づくり」「地域情報のSNS等の活用による発信」。

網元ノ家での集合写真
網元ノ家で。後ろ中央が中川美佳子さん

中川さんは拠点づくりを完了すると、まちおこしの会のメンバーと一緒に、生産体制や商品改良にとりかかった。梶賀の大型定置網漁が夏場の4カ月間休漁する間の原料確保については、すでに尾鷲市内で養殖されるブリを使うことで補完していた。

商品改良では、常温保存できるよう真空パックの工程を改良し、販路を広げることができた。

まちの駅での「梶賀のあぶり」の販売
まちの駅「薫るあぶりの駅」に認定

中川さんは消費者ニーズに合うよう、食べ切りサイズのパック作りを提起した。メンバーからは「こんなに少しで売れるの?」――気前のいい漁師町で食べ切りサイズは考えられなかった。中川さんは根気よく説得し、少量包装での販売に踏み切った。

メンバーたちは、中川さんと働くことで、販売するということを学んでいく。少量包装したあぶりが「高過ぎる」と地元から非難されたこともあるが、「適正価格」と乗り切り、ヒット商品と化した。

町全体が出資して株式会社化

「梶賀まちおこしの会」は2017年5月、「株式会社梶賀コーポレーション」と名を変えた。商売していくにはNPO法人より株式会社の方がやりやすい。中小企業診断士としての決断だった。代表取締役社長に中川さん、取締役会長に中村美恵さん、副社長に中村貴美代さんが就任し、それ以外のメンバーたちはパート従業員として働く。

網元ノ家

出資は地域から一株一万円で募り、200万円を集めた。もう200万円は役員が出資し、純粋な梶賀生まれの株式会社となった。設立して1年半がたち、初年度より出資者に配当を出すことができた。

中川さんは県内外を駆け巡り、観光・商業施設への出品を増やしていった。同時に通販や直販、イベント出店、SNSを駆使して「梶賀のあぶり」の知名度を高めた。2017年、全国青年・女性漁業者交流大会で水産庁長官賞を、翌18年には農山漁村女性活躍表彰で水産庁長官賞を受賞し、宮内庁への納品も果たした。

「地域とのあつれきはいろいろあったけど、辞めなくてよかった」と中村美恵さん。ほかのメンバーからも「自分を信じて続けることが大事」「地道に続けることで得るものは大きい」と続く。「この子(中川さん)が来てから、毎日が本当に楽しくなった」。

農山漁村女性活躍表彰で水産庁長官賞を受賞
農山漁村女性活躍表彰で。中村美恵さん(右)と中村貴美代さん

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