海の豊かさを守ろう gyoppy!

女性の強みを生かした元看護師・漁師妻の働き方改革

Gyoppy! 編集部

噴火湾鮮魚卸龍神丸の営業・広報の舘岡志保(たておか・しほ)さん

「漁師直送の鮮魚」を全国に売り込み、漁師の「営業担当」として活躍している女性が北海道にいる。噴火湾鮮魚卸龍神丸の営業・広報の舘岡志保(たておか・しほ)さんだ。

東京生まれ東京育ち、看護師として働いていたキャリアウーマンが、漁業に興味を持ち、北海道八雲町落部(おとしべ)に移住。漁師である舘岡勇樹さんの妻となり、漁村に新しい風を起こしている。

しかし「生産者」である夫と、「消費者」である志保さんの意見は衝突することも多く「家庭内バトル」となることも。「漁業の素人に何が分かる」という厳しい声に、志保さんは「素人だからこそ新しいことができる」と言い切る。

漁師が直接、加工・販売をすることの価値付けに成功した秘訣や、女性が漁業で活躍するメリットを志保さんにうかがった。

漁業の素人だからこそ、新しいことに挑戦できる

笑顔でインタビューを受ける志保さん

舘岡志保(たておか・しほ)

噴火湾鮮魚卸龍神丸の営業・広報。平成30年12月に漁業プロデューサーとして起業。Navire noir(ナヴィルノワール)代表。自身の経験から漁師や農家の6次化起業や商品開発、販路開拓のアドバイザーとしてコンサルタントを行う。水産庁の取り仕切る「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」の"水産女子"の一員。

── 看護師として働かれていた志保さんが、漁業に興味を持ったきっかけは何だったんですか?

6年前まで、東京で働きながらシングルマザーをしていたんですが、忙しくて、ゆっくり料理をしたり、魚をさばくようなこともできなかったんです。その頃は、看護師として在宅医療に関わっていました。

そこで高齢者の方の「外出も食事も自由にできないのに、長生きしても仕方がない」という声を聞くことが多くありました。でも、医療としては薬を処方したり、延命するしかない。私自身の考える「理想の生き方」と、医療の方向性が違っていると感じていたんです。

そんなとき、現在の夫(舘岡勇樹さん)の話を聞いて「人間らしく生きているな」と感じられました。1次産業の中でも、漁師さんは本当に「その日限りの命」なんです。喧嘩をして殴り合いをした人と、次の日は笑ってハイタッチできる。都会にはなかった生き方に魅力を感じて、漁業や漁師さんに興味を持ちました

夫から「魚価が低迷しているから自分で魚を売ったほうがいいんだけど、やり方が分からない」と相談を受けて、在宅医療事業所の営業として働いた経験を生かせるんじゃないかと思いました。漁業については素人ですけど、その世界のシガラミがまったくわからないことが「逆に強みになる」と思って

はじめは「ルール違反じゃなければいい」という方針だけで、魚の売り込みを始めました。全国の料理屋さんや、魚を買ってくれそうな会社を自分でインターネットで検索して「漁師から直接魚を卸したいんです」と電話をかけ、アポイントを取りました。

── 完全に飛び込み営業だったんですね。

相手も最初は「女性なのに魚の営業をしている、この変な人は何?」っていう印象だったでしょうね(笑)。「漁師直送」という点が、料理屋さんにとって「新鮮な魚を使っている」というイメージになるので、魅力を感じてもらえたようです。

「いいものなら使いたいから一度送ってみて」と言ってくれるお店があって、そこから取り引きにつながっていきました。

漁港に立つ志保さん

生産者代表の夫と消費者代表の妻、家庭内バトル

── 営業を始めて、特に大変だったことは何ですか?

夫は漁師で生産者代表、私は消費者の代表だから意見がぶつかるんです。家庭内でも常に戦いでした(笑)。

私が「直接売り込もう」と営業を始めたときは「そんなことが簡単にできるなら俺がとっくにやってるよ」と言っていたんです。でも、素人だからこそ固定観念がなく「ここに卸してみたら?」と動くことができます

消費者が「丸のままの魚が扱いにくい」というなら「内臓を出して少し加工してあげよう」と考えて、「じゃあ、加工場をつくろう」と提案しました。 

── 加工場を作るとなると、数千万円とか、大変な費用が掛かりそうです。

固定観念があると大がかりなものを想定してしまいますけど、自分たちで使うものなんだから最低限度の設備があればいいんです。ただ、保健所の許可を取るための設備投資に、最低でも300~400万円の費用がかかることがわかりました。「創業補助金」を申請して、なんとかかたちにすることができたんです。

── 加工場では、どんな商品をつくられているんですか?

5年前に「桜ガレイ」の商品化を始めました。落部の漁業組合が昔、赤ガレイを「桜ガレイ」としてブランディングしていたんですが、結局、放ったらかしになっていたんです。夫が専門で獲っているのが赤ガレイだったので、これを自分たちの商品にできないかと思って、漁業組合に名前を使っていいか許可を取りました。

「桜ガレイ」は、赤ガレイを桜の葉で挟んだ商品です。そのまま真空急冷をかけているので、どんな調理にも使っていただけます。ちょっと高めの料理屋さんや、ふるさと納税の返礼品にも入れていただいています。

── 加工場を持つことで、実際にはどんなメリットがありましたか?

加工品を手掛けることで、商品を通年で安定供給できるようになりました。最近は漁獲量が減っているし、何より漁業は天候に左右されるので、商品の安定供給ができないんです。それに消費者は「丸のままの魚」より「袋から取り出して焼けばいいもの」をチョイスしますよね。

海から上げた魚をそのまま加工に回せば、新鮮なうちに加工ができるし、それを「漁師」がやることでさらに価値が上がると思います。これからは「漁師こそ加工場を持つべき」だと思いますね。

水産加工品を持つ志保さん

漁業における、女性の働き方を変えたい

── 女性が漁業に関わるメリットを実感されたことはありますか?

商品開発や、パッケージの部分ですかね。消費者として魚を買うのは女性が多い。スーパーで買い物をしたり、空港でお土産を買うときに「女性が何を基準に選ぶか」という目線が重要になります。

ほとんどの魚の加工品のパッケージは、干物だったら「干物」と筆文字で書いてあるだけ。そこをオシャレなパッケージに変えると、一気に売れたりするんです。イクラを詰める瓶をハート型にしたり、そういう視点を持っているのが女性の強みだと思います。

── たしかに、女性ならではの視点ですね。

あと、漁師さんは漁があるから、どうしても時間がない。営業して販路を広げたり、誰かに会いに行くような時間はとてもじゃないけれど取れません。

だから「6次産業化(*1)」を進めたくても難しい。そこに女性が入ることで、加工や、営業の役割を担うことができます。私が体験したことですが、女性が営業したほうが意外と相手が興味を持ってくれることも多いんです。

(*1)1次産業(生産)の担い手が、2次産業(食品加工)、3次産業(流通・販売)を取り入れて収入を向上させる取り組み。農林水産省が奨励している

取材は都内で行った。取材後の食事会中、積極的にお店に営業する志保さん
取材は都内で行った。取材後の食事会中、積極的にお店に営業する志保さん

お客さんと直接関わることで、魚の扱い方が変わった

── この5年間で、志保さんの活動に対する周囲の見方は変わって来ているんでしょうか?

最初は「漁師の嫁のくせに何をやってるの?」という感じでした。でも、去年くらいからだんだんと、地元の漁師さんに「どうやって販路をつくってるんだ?」と質問や相談を受けるようになりました。

漁師さんたちも「今のままでは子どもたちに漁業を継がせてあげられない。どうすればいいのか」と危機感を覚えているんです。需要をつくるために、漁師さんたちと動いたりしていますね。

── 勇樹さんは、加工や販売に関わることをどう感じていたんでしょうか?

最初は、消費者からの要求を受け入れるのが難しかったようです。生産者が持っている基準と、消費者の求めているものって違うんですよね。

夫は「獲った魚を新鮮なうちに卸している」というプライドがある。それなのに料理屋さんなどの消費者から「神経締めした魚のほうが使いやすい」と言われると、「活き締めで鮮度を保っているのに、どうして文句を言われるんだ」となってしまうんです。

一度、取引先の料理屋さんにうかがって、活き締めの魚と神経締めの魚を食べ比べしたことがありました。そこで味の違いを実感したり、お店でお客さんが自分の魚を食べているのを見てから、彼の中で意識が変わっていきました。消費者に対する「感謝の気持ち」が生まれたんですね。

(※編集部注:締め方は適材適所で、魚の種類によって適切な締め方は異なる)

それまでは、組合に魚を出してしまえば、その先は分からなかった。魚は単なる卸すだけのモノだったから、扱いも雑だったんです。でも今は、自分の魚が料理に変わって、お客さんが喜ぶことを実感できたので「消費者に喜んでもらうためにどうすればいいか」を考えて対応するようになりました。

漁師と議論を交わす志保さん

女性の参入で、漁業をもっとカラフルに

── 志保さんの今後の目標を教えてください。

漁業に関わる女性を増やしていくことで、浜をもっと楽しいものにしていきたいですね。代々続いている漁村で「将来、漁師になりたい」という子が減っているのがとても寂しいんです。漁業が活性化して、浜がまた楽しい場所になれば、自分たちが今やってることも意味が出てくると思います。

漁師のお嫁さんや、それ以外の女性が漁業に参入することで「自分だったらこういうのを買う」とか「子どもにこんなものを食べさせたい」とかいろんな視点が生まれます

漁師さんたちも新しいことをしたいと思っている人は多いですよ。外から来た人がきっかけとなって、ムーブメントを起こしていくしかないと思っています。

── 漁業は本当に男社会ですから、女性が入ることによって変わりそうです。

男性同士だと、漁師さん対漁業組合など、お互いの立場がある。だからどうしても、聞く耳を持てなかったりすることがあるんです。

そういう場合、女性のほうが筋道立てて、柔らかく話すことができる。そうすると「話聞くよ」とつながっていくと思います。男社会だからこそ、女性という「異文化」が入ることで、新しいことを受け入れる姿勢が生まれるんじゃないでしょうか。

笑顔の志保さん

取材:長谷川琢也
文:都田ミツ子
編集:くいしん

\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、海のイマを知ってもらうことが、海の豊かさを守ることにつながります。

  • facebookでシェアする
  • twitterでツイートする
  • LINEで送る
  • はてなブックマークに追加
  • Feedlyに登録する

海の関連ニュース

ABOUT US

Gyoppy! は、ひとりでも多くの人に、海と海にまつわる人、もの、ことに興味を持ってもらうこと、海の課題に関心を持ち、解決へのアクションを起こしてもらうことで、海の豊かさを次世代へつなぐことを目指します。

TOP