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無花粉スギで花粉症はなくなる!? 実は進化している山の現状

Gyoppy! 編集部

季節性アレルギー性鼻炎、いわゆる花粉症。眼球ごと洗いたくなるような目のかゆみに、やる気や集中力を削がれるくしゃみや鼻水。収束を見せないコロナ禍の中、周囲の厳しい視線を気にして、くしゃみを抑えるのに苦労していた人も多いのでは。

花粉症を引き起こす原因物質の代表格といえば、スギ花粉。憎たらしい存在に思われるスギですが、昨今では"花粉を飛散しないスギ"である「無花粉スギ」なるものに、どんどん植え替えられていっている、って知っていましたか?

「もしすべてのスギが無花粉スギになれば、花粉症がなくなるのかも!?」という期待を胸に秘め、無花粉スギに関する疑問を、林野庁森林利用課の神山真吾さんにぶつけてきました。

花粉症から人類を救う救世主、現る?

── 「無花粉スギ」があると知ったのですが。ズバリ、無花粉スギが普及すると、日本からスギ花粉症はなくなりますか?

花粉症の原因は、まだ科学的にも完全には解明されていないのですが、大気中の汚染物質や食生活の変化など様々な原因があるといわれ、その中で、スギ花粉は花粉症の原因のひとつになっています。花粉がない、あるいは花粉が少ないスギに植え替え、花粉を出す発生源が減少すれば、花粉症の低減にはつながっていくのではないかと考えられています。

── 今は無花粉スギの割合はどれくらいなのでしょうか?

無花粉スギと花粉が少ないスギを合わせた割合なのですが、現在、全スギ苗木生産量に占める割合は約5割となっています。また、令和14年度までにその割合を7割にすることを目指しています

参考リンク:花粉の少ないスギ苗木の生産量等の推移|林野庁

今後は、木材として利用できるスギを伐ったあとに、林業として活用できる条件のいい山には花粉の少ないスギを植え、山奥や急斜面は広葉樹が入り交ざった、自然に近い森林などへの誘導を目指しています。

── 日本では花粉症に苦しむ人が多いのに、なぜスギはこんなにたくさん植えられてきたんでしょうか?

スギの歴史を振り返ってみますと、日本では古来より植えられ、木材として利用されてきました。戦時中から戦後の復興期にかけて木材の需要が急増し、伐られてハゲ山になっていた頃は、洪水や土砂崩れなどの問題もたくさんありました。そこで木材として利用しやすいだけでなく、成長が早く、造林技術が地域に根付いているスギが植えられたんです。

一方で、スギ花粉が花粉症の原因であることは1960年代に研究で明らかになりました。スギ花粉は、植えてから25年から30年でたくさん飛ぶようになります。戦後に植えたものが、1970年代から花粉をたくさん飛ばし始め、花粉症が社会問題になりました。

現在は政府としても、原因究明や予防・治療法の開発、花粉飛散量の観測などの花粉症対策を、関係する省庁が連携して取り組んでいます。そのうち林野庁では、花粉の発生源となる森林を、花粉の少ない森林へと転換するための対策を進めているところです。

無花粉スギが示す、未来の森の可能性

提供:森林総合研究所 林木育種センター

── 無花粉スギは、人間が開発したものなんですか。

無花粉スギ自体は、平成4年に富山県の神社に植わっていたスギの中から初めて発見されました。その後の研究で、スギの中には無花粉に関連する遺伝子を持つものが自然の中で一定の割合で存在することが分かり、また、その遺伝子を持つもの同士を人工交配させると、無花粉スギが生まれることがわかりました。この特性を利用して、無花粉の性質を持ちつつ、より林業に適した品種の開発が行われてきました。

また、無花粉スギに加え、花粉が少なく、成長も通常より1.5倍以上良いなどの特性を持つ苗木の開発も進められており、これらの中には、従来であれば50年かかっていたものが、30年くらいで木材としての利用が期待できる、成長が優れた苗木もあります。無花粉や花粉の少ない苗木をより普及させていくためには、このような林業的にもメリットがある性能を併せて持つことが重要と考えています。

── 現在、開発されているスギは花粉症も減らせるし、木材として活用する上でも有能ということはわかったのですが、環境によかったりもするんでしょうか?

正直、「花粉が少ないスギだから環境にいい」というわけではありませんが、花粉が少ないスギには、先ほどお話ししたように成長が優れたものがあります。成長速度が早いということは、山地災害の防止や二酸化炭素の吸収など森林が持つ公益的な機能の維持・向上にもつながります。

── なるほど。山も持続可能な形に変化させるための工夫がなされているんですね。

人が木を植えた山というのは、人が最後まで面倒をみてあげる必要があります。下草の刈り取りのような重労働など、木を植えた初期は一番手がかかります。ですが、農業や漁業と同じように林業の現場も高齢化が進み、山を守り育てる人も減ってきています。

その現状の中で、成長が早い苗木を植えることで、手をかける必要のある時期が短くなり、省力化にもつながります。山を守る人たちに、未来への可能性を示すことで、林業を続けて行きたい、やってみたいということにもつながると考えています。

木も人と同じように少子高齢化が進んでいます。持続的に利用していくためには、若い森も必要です。また、二酸化炭素の吸収などの機能も若い木のほうが高い。そのような中で、たとえば屋久島など長い年月をかけて育まれた大事なところは守り、木材として活用できるところは、新しい時代にあった木を植え、「伐って、使って、植える」というサイクルをきちんと回していくことが重要ですね。

花粉の少ないスギを植える植樹祭に参加した際の神山さん
花粉の少ないスギを植える植樹祭に参加した際の神山さん

── スギやヒノキのような「針葉樹」ではなく、「広葉樹」に植え替えたほうがよい、という意見も世の中にあるようですが、本当のところはどうなんでしょうか?

一般的に、広葉樹よりもスギやヒノキのほうが成長が早いため、CO2を多く吸収してくれます。

また、広葉樹は植えたらほったらかしでよいイメージがあるかもしれませんが、広葉樹も針葉樹も、植えれば大きくなるまでは保育作業を行わないといけませんし、シカやネズミなどの食害対策も必要になります。

その上で、針葉樹は広葉樹よりも早く成長します。成長に優れ、花粉の少ない苗木を植栽することで、下刈りなど保育に要する期間を短くして、低コスト化を図ることも期待されているんです。

一方、広葉樹の森林の方が、生物多様性が豊かだという指摘もあります。地域や森林の状況に応じて、針葉樹や広葉樹、またそれらが入り混じったような森林が、バランスよく配置されることが大事だと思います。

実は進化している木材利用

提供:林野庁

── 木材の利活用に関してもう少し聞かせてください。現在は、木材を利活用できる範囲は広がっているのでしょうか?

大前提として木材利用のボリュームゾーンは、やはり住宅です。でも現在は、人口減少により住宅そのものの需要が減っています。このような中、木材の耐火性能や耐久性能などについても研究開発が進められ、従来は木材の活用が少なかった中高層建築物での木造化や木質化の事例が見られるようになるなど、活用の幅が広がっている側面もあります。

さらに、プラスチックや金属の代替材料としても、木の主成分を原料とした新たなバイオマス素材が期待されており、自動車のボンネットなど内外装部品等への実用化に向けた開発が行われています。

── 10年から20年ほど前でしょうか、「マイ箸」がブームになりました。当時、割り箸は使わないことが環境に優しいとされていましたが、最近はあまり話題に上がらないように思います。結局、割り箸は使ったほうがいいのか、使わないほうがいいのか、どちらなんでしょうか?

結論からお伝えすると、割り箸であるかマイ箸であるか問わず国産の箸を積極的に使っていただくのがよいかと思います。日本では割り箸のために木を何十年もかけて育てることはなく、柱にはならない端材などを使用していますので、むしろ資源の有効活用と言えると思います。

国産で割り箸を作る取り組みは、森林の現状を知ってもらうなどメッセージを込めているものが多いんです。国産材でつくられた箸を使うことによって、少しでも売上に還元されれば、森林整備や地元の雇用に活かされます。消費者のみなさまにはこうした身近な取り組みを通じて、積極的に日本の林業を応援していただけたらうれしいです。

豊かな自然を当たり前だと思っていないか

── 植林や木材に対する様々な取り組みを伺ってきましたが、そもそも日本は環境意識が低いと言われがちです。未来にどのように期待しますか?

農業や漁業などでは、その食材をどのように育成・捕獲し、流通していくのかという持続可能性が、今は注目され始めていますよね。

世界中で地球温暖化や生物多様性が問題になっていますが、私たち消費者も消費の側面から環境に目を向け、社会全体の機運が高まっていくことで、世の中全体が持続可能な方向に変わっていくのかなと思います。

── 消費者の選択も大切ですね。

日本には、自然豊かな山林があり、農作物が育ち、海では魚が獲れ、人の営みがあります。世界の環境を守る上でも、日本の恵みを持続可能な形で活用していくことが重要です。また、消費者の方は、食べ物の産地などは比較的関心が高いと思いますが、木製品についても、その原料がどこから来たものかなどについて、もっと注目していただけたらと思います。

途上国の森林破壊による森の減少がよく話題になるので、日本も森が減っているとイメージしている方も多いと思いますが、日本の森林はそもそもすごく豊かです。しかし、その豊かさを保つためにも、森林を効果的かつ持続的に活用する必要があることを、私たちも伝えていく必要があります。

\ さっそくアクションしよう /

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