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豊かな未来のきっかけを届ける

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世界初!? クラゲコラーゲン配合の化粧品は、あなたの肌と海を守ることにつながる

Gyoppy! 編集部

クラゲ

ゆらゆら、ふわふわと神秘的に漂うクラゲ。女性を中心に人気を博し、ここ最近は水族館で特集展示が増えるなど注目が高まっている一方、「漁業」「レジャー」「工業」という3つの面で、海の"厄介者"扱いされてしまっている側面も。

あるときは人気者、あるときは厄介者ーー人間の都合で、ここまで両極端な見られ方をする生物も珍しいのではないでしょうか。

「クラゲだって、"厄介者"と呼ばれるために生まれてきたわけじゃない。なんとか役立ててあげたい!」

そんな想いを胸に、クラゲの有効活用を目指し、専門に研究するベンチャー企業があります。

それが、大量に廃棄されるミズクラゲから、生コラーゲン「JelliCollagen」の発見・抽出に成功した株式会社 海月研究所です。

なんとたった4名の社員で、世界で唯一クラゲ由来のコラーゲン及びムチンを抽出・製造販売しているというから驚きです。

コラーゲンは化粧品原料として発売されていますが、今後もクラゲの研究を続け、医療、食料、肥料など、多岐にわたる有効活用を目指しているそう。人のためになるものを作る、それが海のためにもなる。そんなハッピーサイクルを作られた海月研究所の馬場崇行さんに、お話を伺いました。

馬場崇行さん

株式会社海月研究所CTO、博士(理学)。クラゲと縁のない生活を送っていたが、漁業にもたらす被害を解決すべく理化学研究所にてクラゲの研究を始める。その後、株式会社海月研究所の設立メンバーとして、世界ではじめて、クラゲからコラーゲンとムチンを抽出することに成功。それぞれ「JelliCollagen」「JelliMucin」として製造販売中。

「Suiko」の公式ホームページ
生コラーゲン「JelliCollagen」を使った化粧品のブランド「Suiko」の公式ホームページ(タンゴ株式会社)

クラゲを使って、漁師さんを助けたい

馬場さんの研究風景
馬場さんの研究風景

── そもそも、クラゲの研究を始めたきっかけを教えてください。

10年ほど前にエチゼンクラゲの大量発生が問題になっていて、漁師さんから「なんとかできないか?」と相談をいただいたんです。クラゲは漁業、レジャー、工業の3つの観点から"厄介者"といわれますが、発想を逆転させると、使われていない資源が、タダ同然で大量に手に入るということ。

当時、理化学研究所時代の研究室のボスがヒアルロン酸の研究をしていたんですが、ヒアルロン酸ってかなり高額な素材なんですよね。「そんなものがクラゲにあればいいなあ」と思ったところから、研究が始まりました。最初は網を持って、海にクラゲを取りに行ったりもしましたよ。

── クラゲにお宝があれば、というのがスタートなんですね。

結局、ヒアルロン酸はなかったのですが、その研究過程でムチンというタンパク質を発見・抽出することに成功したんです。ムチンは、膝の関節疾患の治療薬などに使われる可能性があり、医療にも役立つ素材。

クラゲには以前よりコラーゲンも多く含まれることが知られていましたが、実はクラゲって、99%が水分で、ムチンが0.01%、コラーゲンは、その10倍の0.1%存在するんです。そこで、まずは多く抽出できるコラーゲンから事業化しようという話になりました。

── それが、「JelliCollagen(クラゲコラーゲン)」ですね。海月研究所が化粧品原料用途としては世界で唯一抽出・製造販売を手がけられているんですよね。

コラーゲンといえば美容にいいじゃないかということで、化粧品を作ることになったのですが......海月研究所は、社長含め4人いる社員は全員男性なんです。だから化粧品に明るいスタッフがおらず、ひたすら調べたり、いろんな人に話を聞いたり。試作した石鹸をみんなで使って、「こっちのほうがしっとりする」とか感想を言い合ったりしましたね(笑)。

SUIKOの製品
画像引用元:株式会社 海月研究所 クラゲコラーゲン基礎化粧品

── クラゲって、美しく、フォトジェニックで神秘的で、ファンが多い生物ですよね。その人気をマーケティングに取り込もうという意図もあったんですか?

もちろんです。ただ、クラゲについてアンケートを取るとけっこうイメージがわかれるんですよ。女性からは比較的いい印象をいただけるのですが、男性にはあまり印象がよくない。ふたつの面があるのは面白いなあと思います。

── 少し前にカタツムリ由来の美容成分が流行りましたが、使うまでに、最初は勇気が必要でした(笑)。その点、クラゲは、キラキラ、プルルンとしていて、肌につけるものとしてポジティブなイメージがありますね。

そうですね。いま市場には牛、豚、魚の鱗のコラーゲンが主に出回っているのですが、海外ではクラゲのコラーゲンを使って再生医療を目指すベンチャーがいくつか生まれているんです。人間の皮膚や関節の組織と親和性が高いので、期待されています。

── 既存のコラーゲンと、クラゲのコラーゲンは、どんなところが違うんですか?

牛、豚のコラーゲンは、そのほとんどが皮膚やアキレス腱、骨のような硬い組織からとられているんです。仔牛や仔豚などは組織が柔らかく、水に溶けやすいコラーゲンがとれますが、とても希少なものになっています。一方、クラゲは無脊椎動物で、硬い組織がありません。ほとんどが軟らかい部位からとれる水に溶けやすいコラーゲンです。

つまり、牛、豚のコラーゲンは水に溶けないのでお酢に浸けたりして溶かすのですが、クラゲのコラーゲンは水溶性が高く、水に近いんです。その特徴を活かしたまま加工することで、高い吸湿力・保湿力を発揮できます

そして最近の研究では、クラゲのコラーゲンは、豚のコラーゲンより表皮の再生効果が期待できることもわかってきました。化粧品のCMっぽくいうと「ハリ・ツヤ」などの効果が見込めます。

── 反響は、いかがでしたか?

「クラゲのコラーゲン!?」と、びっくりされた方が多かったですね。定期購入をしたいというお声もあり、使用された方にはご満足いただけているのではないかと思います。クラゲのコラーゲンは、皮膚にいい素材であることは間違いないと世界中でいわれていますが、なかなかそういう素材はほかに見当たらないと思います。

「くらげコラーゲン」と記載されたパッケージ

── クラゲを獲りすぎて、問題になることはないのでしょうか?

世界的に被害を与えているのは事実ですが、完全にクラゲを駆逐してしまうのも問題です。クラゲは5億年くらい前から存在していると言われていて、ペンギンやアホウドリ、ウミガメなど、いろんな生き物のエサになっています。しかもただ食べているのではなく、比較的好んで食べているという報告もあるんですよ。

── それは、生き物にとって「おいしい」ということなんですか......?

人間にとっての味覚と同じかはわかりませんが(笑)、もともとがゼリー質のものなので、消化に負担がかからないんじゃないかと言われていますね。だから、一定量のクラゲは生態系のなかで必要なんです。大量発生してしまったときなどに人間がクラゲの量をコントロールしていく、それが海洋資源の保全につながるのではないかと考えています。

── 御社のサイトに"「いずれ、海の生物はクラゲだけになってしまう!」と危惧している海洋学者もいる"と記載があり驚いたのですが、実際にそういう話もあるんですか?

あくまでひとつの説ですが、そう言われているジャーナリストさんもいらっしゃいます。まず、人間が魚を取り尽くすのがひとつ問題です。そして、クラゲが大量発生すると、稚魚や魚卵を食べてしまう。

本来、小さいうちはクラゲも魚も食べる、食べられる関係なのですが、魚を取り尽くすとクラゲを食べる魚がいなくなってしまいます。ひとたびクラゲが数的に優位になってしまうと、どんどん生態系が傾いてクラゲだけになっていくんじゃないか、ということですね。

化粧品の工場
化粧品の工場。真ん中にある樽のような設備で、クラゲを加工している

環境問題をビジネスで解決

── 毎日クラゲと向き合っていたら、海の環境課題に思いを馳せることも多いのではないでしょうか?

漁師さんから「クラゲがたくさん来るときは、魚もたくさん来る」「クラゲがいなくても、ハリセンボンが大量発生することもある」など、いろんなことが起きていると伺いました。

今、私たちの研究対象はクラゲですが、たとえばほかの生物が大量発生したり、未知の問題が起こったりしたときにも、何か応用して、対応できるのではないかと考えています。特に日本は島国なので、海の環境をなんとかしていきたい。いろんなかたちで海に関わっていきたいです。

── 私たちの生活に身近なことで、海洋マイクロプラスチックごみの問題もありますよね。

最近、EUがクラゲの粘液を使って、海にバラバラに浮いているマイクロプラスティックをくっつけて回収する、大々的なプロジェクトを始めようとしていると耳にしました。本格的に始めるために、クラゲの養殖も話に挙がっているくらい。世界ではそういうことが始まっているんです。

── 御社のサイトに、バイオマス(動植物から作られる資源)利用の原則「5F」についての図がありました。これは、海月研究所が目指すところなのでしょうか?

そうですね。クラゲは成分的に燃料としての活用は難しいのですが、飼料や肥料、繊維などの開発は実施していきたいです。通常の5Fは、付加価値として一番上にくるのが食品(FOOD)なのですが、クラゲの場合はさらに上に化粧品、医療があるところが面白い。

また、5Fを考えるときに一番大事なのは、大量発生したクラゲの全量を使うことです。ムチンやコラーゲンを抽出するためだったら、網に入った少しだけ使えばいいんですけど、それだと漁師さんの被害軽減にはならないですから。

海月研究所は小さい会社なので、まずは「JelliCollagen」に付加価値をつけるところからスタートして、ゆくゆくは全量を肥料や飼料などにも展開していきたいです。

付加価値の表。付加価値の高い順に、医療品、化粧品、食品、遷移、飼料、肥料、燃料。
画像引用元:クラゲのメリット|株式会社 海月研究所

クラゲ人気の背景

── 素朴な疑問ですが、ここ数年、メディアでクラゲを見る機会が増えているように感じます。クラゲ人気は近年、高まっているんでしょうか?

そうですね。一般の方からすると、クラゲはカラフルなのでSNSに映えるというのも人気になっている理由なのかもしれません。

もともとクラゲは山形県の加茂水族館、新江ノ島水族館の展示が有名で、今年はサンシャイン水族館、すみだ水族館、京都水族館もクラゲの大型水槽をリニューアルオープンしました。サンシャイン水族館の、クラゲの担当者・杉本巧樹さんいわく、飼育技術の向上も、この盛り上がりのひとつの背景ではないかと。

加茂水族館に、クラゲ飼育のパイオニア的存在の奥泉和也館長がいらっしゃるのですが、包み隠さず飼育について教えてくださるので世界中から関係者が学びに来ています。また、クラゲは、魚と違って少ない量の水で飼育できるので、都内で海水があまり使えない場所にも適しているんでしょうね。

── 飼育方法の確立は、養殖スキルでもありますよね。天然と養殖、どちらからも確保できる資源って強いですよね。

そうですね。いまも世界の沿岸では資源としてクラゲ漁がされているんです。それらの地域は、資源が減っていけば養殖もしなくてはならないと考えているようです。

── なるほど。今後、海月研究所さんではどんな取り組みをされていきたいと思っていますか?

いろいろな可能性をクラゲが秘めていると確信できる状況になってきました。そんななかで私としては、特に医療材料の開発を生きているあいだに盛り上げたいと思っています。

じつは、日本では奈良時代くらいからクラゲを食べる文化があって、古い書物にもクラゲ料理が載っているんです。「海月」という美しい漢字表記もあり、もとは日本人にとって馴染みのある生き物だったはず。

今一度、クラゲと人間のつながりを見つめ直し、ポテンシャルに溢れたクラゲをより身近に感じてもらって有効活用できれば、素敵な未来が待っているのではないかと思っています。

株式会社 海月研究所

"うっかり"環境問題解決に参加できるってスゴイ

美容や医療にも活用でき、養殖して増やすこともできる。クラゲって、とんでもなくポテンシャルを秘めた存在なんですね。

海が抱える環境問題はあまりに壮大で、正直、真剣に向き合えば向き合うほど、「どこから何に手を付ければいいの?」「私のアクションでなにか変わるの?」と、考え込んで身動きが取れなくなってしまうことも......。

でも! そこで目を背けるのはもったいない。

たとえば、「キレイになりたいから使う」という気軽な気持ちで化粧品を買うことが、環境のためになる。そんな風に、"うっかり"環境問題解決へ参加する方法もあるんです。

「クラゲだって、"厄介者"と呼ばれるために生まれてきたわけじゃない。なんとか役立ててあげたい」という馬場さんの言葉の裏には、クラゲだけではなく、人類への優しい想いが溢れていると感じました。

\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、海のイマを知ってもらうことが、海の豊かさを守ることにつながります。

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