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プラごみにおける希望? セブンイレブンも採用した海で分解する新素材

Gyoppy! 編集部

PHBH製品

2020年7月1日から、全国の小売店でレジ袋の有料化がスタート。

年々、日本でも台風や異常気象に関する被害が増えており、地球温暖化の観点からも、「ごみは減らしたほうがいいに決まっている」となんとなく考えている方も多いのではないでしょうか。

ただ、「ごみの中でもなぜプラスチックごみが特に問題視されるのか?」を明確に説明できる方はまだまだいないのではないでしょうか。

その答えは、「海洋マイクロプラスチック」の問題なんです。プラスチックごみは、ポイ捨てや埋め立て地から流出することなどによって、海に流れ出てしまっています。海に流れ込むプラスチックごみの量は年間800万トンにもなり、自然に分解されないため日光や波で劣化して細かくなり、海に溜まり続けます。

これにより何が起きるかというと、海鳥や魚がエサと間違えて食べて健康を害したり、ウミガメの体にプラスチックごみが絡まって死んでしまったり......。また、マイクロプラスチックが有害物質を吸着し、魚が海水から体に取り込み、その魚を人間が食べる......ことによって、マイクロプラスチックに付着した有害物質が人体に悪影響を及ぼすと言われています

2016年のダボス会議(世界経済フォーラム)では、「このままでは2050年には海の魚の総重量よりも、海洋中のプラスチックの量が多くなる」という衝撃的な試算も。

そんな中、Gyoppy!編集部が見かけたのが、「セブンイレブンが何やら新しい素材のストローを採用した」というニュース。開発したのは、株式会社カネカ。

その新素材は、海水中で微生物によって生分解され、最終的に水と二酸化炭素に還る「カネカ生分解性ポリマーPHBH(以下、PHBH)」です。

PHBHの評価は高く、第3回「バイオインダストリー大賞」も受賞しています(第1回大賞受賞者は、ノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶 佑氏)。

海で分解する素材だったら、海洋マイクロプラスチックの問題は、解決できちゃう?という疑問を携えて、カネカのPHBHの事業開発責任者である武岡慶樹さんに、開発秘話や、カネカの目指す環境貢献について、話を聞いてきました。

自社工場の敷地内で、世界初の微生物を偶然発見

常務執行役員Green Planet推進部長・武岡慶樹さ
常務執行役員Green Planet推進部長・武岡慶樹さん

── 「カネカ生分解性ポリマーPHBH(以下、PHBH)」は、海水中で微生物によって生分解されるプラスチック素材として、海洋マイクロプラスチック問題(以下、海洋MP)の解決に大きく貢献すると考えられています。はじめに、開発のきっかけを教えてください。

弊社では約30年前からバイオポリマー(*1)の研究を開始したのですが、その頃はまだ海洋MPの問題は現在ほどは認識されていませんでした。弊社はそれ以前から地球環境に優しい技術革新に取り組んでおり、石油資源に依存しない環境負荷の少ないプラスチックを提供したいという思いから研究をスタートしました。

(*1)ポリマーとは。化学分野で言うところの、重合によってできる化合物。重合体。繊維に用いられるナイロンや、レジ袋に使用されるポリエチレンなどの合成樹脂がそれに当たる

── 海洋MPが認識される前から研究が始まっていたんですね。PHBHは微生物が植物油を摂取し、ポリマーとして体内に蓄えたものを取り出した100%植物由来の材料であるということですが、どのように開発されたのでしょうか?

自然界の中に、ポリマーを体内に蓄積する微生物がいることは、1920年代に発見されていました。そこで弊社では1990年頃から、ポリマーを作り出す微生物を探し出すため、様々な場所から土を採取して探索していきました。

そして1991年に自社の高砂工業所の敷地内の土からPHBHをつくる微生物を発見したんです。過去に見つかっていた微生物とは違う種類のもので、世界初の発見となりました。

── 自社工場の敷地内とは、すごい偶然ですね。微生物が体内に蓄積するポリマーはごく微量とのことですが、それをどうやって量産化していったのでしょうか?

最初に発見された微生物が体内に蓄積するポリマーは、体重の約30%程度でした。それを体重の90%程ためられるように微生物を改良し、培養する研究を重ねました。そして、微生物からポリマーを取り出し、様々な用途の製品に成形・加工する技術の研究にも苦心しました。

微生物が発見されてから、2011年にPHBHの生産実証設備が稼働するまで、20年近く掛かっています。そこから試行錯誤を繰り返して、2019年には年間5000トンの生産能力を持つ設備を竣工させることができました。今後はできるだけ早く年間1.5~2万トンのレベルに上げ、この先10年間で年間10万~20万トン規模の生産キャパシティを持ちたいと考えています。

PHBH工業化を実現した、カネカの2つの強み

PHBHを使った製品
PHBHを使った製品

── 2016年頃から海洋MPの問題が認識され始め、生分解性プラスチックの需要が世界中で高まっています。バイオポリマーを開発する企業が数ある中で、カネカが世界で初めてPHBHの工業化に成功できたのはなぜなのでしょうか?

PHBHを作り出すためには、2つの分野で高い技術が必要です。ひとつは、微生物を増やすための発酵培養の技術。2つめは微生物から取り出したPHBHを製造加工するための、高分子の製品加工技術です。

カネカは創業以来、この2つの技術開発を中核にして発展してきました。とくに発酵技術では世界でもトップレベルにあると自負しています。その2つの分野の技術者が、同じ企業内で緊密に連携を取りながら研究開発を続けられたことが大きかったのだと思います

── 開発まで20年近く掛かったということなのですが、企業として長期間投資し続けることができたのはなぜなのでしょうか?

弊社は創業以来、技術の自社開発をとても大切にしてきた会社です。

30年前に研究を始めたときは、今日のような、海洋MPが注目される世の中が来るとは予測していませんでした。それでも「いつかこの技術が世の中のお役に立つんだ」と信じるDNAがある、諦めない会社だということが1番大きい理由だと思います。

プラスチックごみ問題解決には、一般の人の理解と協力が必要

── PHBHは、今後どのような形で社会に生かされていくのでしょうか?

使い捨てプラスチック製品にPHBHが使われることで、正しい回収ルートから万が一漏れて自然界の中に置かれたとしても、海の中や土の中で微生物によって水とCO2に分解されることで環境汚染を防ぐことができるようになります。

すでに昨年から、セブンイレブンさんの約半分の店舗で、PHBH100%で作られた使い捨てストローが使われており、2020年6月からは、新商品「カフェラテスイーツ」に付属する太めのストローはすべて、PHBHでできたものを導入されています。資生堂さんは、化粧品の容器にPHBHを使うよう開発を進められています。

ストロー

── すべてのプラスチック製品がPHBHで作られる日は来るのでしょうか? そうすれば海洋MP問題の解決に近づきそうなものですが......。

プラスチック製品は世界で莫大な量が生産されています。それがPHBHに置き換わるには、まだ長い時間が必要だと思います。また、PHBHは環境負荷が非常に少ない素材ですが、「環境負荷がゼロ」というわけではありません。なぜなら海水中でストロー1本が完全に生分解されるのに約3ヶ月はかかるからです。

ですから、1番大切なのはプラスチック製品ができるだけ大切に長く使われ、廃棄するときは正しく分別して回収され処理されることだと思います。そして、使い捨てプラスチック製品はPHBHのような生分解性ポリマーでつくるというのが有効なのではないでしょうか。

── PHBHを使うだけではなく、使い捨てプラスチックを減らしたり、分別回収するという基本的なことが大切なんですね。カネカさんのような大企業の取り組みとしては、今後どういったことが重要だと思いますか?

ひとつには、環境循環型社会の確立に貢献していくことだと思います。例えばPHBHをつくるためには植物油を用います。それを循環型に持っていくために、弊社と食品メーカーさんが協力して、廃食用の植物油を提供していただく。それを使ってPHBHを作って、食品トレーを製造し、また食品メーカーさんがそのトレーに製品を入れる。このようなサスティナブルな取組みを検討しています。

── この記事を読んでくれるような、ふつうの人々の取り組みとしては、何が大切だと思われますか?

みなさまにバイオプラスチックなどに関する正しい知識を持っていただくことが非常に重要だと思います。それが分別回収への協力や、使い捨てプラスチックはできるだけPHBHのような環境負荷の低いものを選ぼう、ということにつながるのではないでしょうか。

環境貢献には、企業、個人に関わらず、なんらかの努力やプラスのコストを支払うことが重要だという意識が先進国で高まっています。我々も、PHBHだけでなく太陽光発電など環境に貢献する様々な取り組みをしています。

そういったことを一般の方に知っていただき正しくご理解いただくことが、環境循環型社会の実現に向けた大きな助けになると思っています。

カトラリー

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