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ウナギを食べ過ぎると絶滅するらしいけど、結局食べていいの? 専門家に聞く4つの質問

Gyoppy! 編集部

うな重
画像:アフロ
「おこうぐらいで酒飲んでね、焼き上がりをゆっくり待つのがうまいわけですよ、うなぎが」
池波正太郎

食通で知られる作家・池波正太郎が、『男の作法』でウナギについて記した一節。タレの香ばしい香りが食欲をそそり、「待つ時間すらも乙で楽しい」と思わせるほどに"美味い"のがウナギという存在。

ウナギの蒲焼きは江戸時代に登場したそうですが、奈良時代に編纂された『万葉集』にも、夏バテにウナギが良いと薦めている一首があります。

「石麻呂に 我れ物申す夏痩せに よしといふものぞ 鰻捕り喫せ」
大伴家持

これほどまでに日本人に愛されてきたウナギ。

土用の丑の日に美味いウナギを食べようと思ったら、高級な鰻屋は敷居が高い。けれど、最近はチェーン店の定食屋やコンビニエンスストアのメニューにも、うな重は並んでいます。

これだけ流通していたらさぞかし大漁なのか?

と思いきや、ニホンウナギは環境省や国際自然保護連合(以下、IUCN)で絶滅危惧種に区分されています。ニホンウナギだけでなく、ヨーロッパウナギやアメリカウナギも同様、世界中でウナギは絶滅の危機が危惧されています。

それを知ってしまったら、誰もが持つであろう「食べていいのか、ダメなのか、どっちなんだ?」という疑問。それに応えてくれる書籍がその名もずばり『結局、ウナギは食べていいのか問題』(岩波書店)。著者の海部さんに「実際、どうなの?」と4つの質問を投げかけてみました。

海部健三(かいふ・けんぞう)さん

中央大学法学部准教授・Zoological Society of London(ロンドン動物学会)名誉保全研究員。1973年東京都生まれ。98年に一橋大学社会学部を卒業後、社会人生活を経て、2011年に東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程を修了し、博士(農学)の学位を取得。16年より現職。専門は保全生態学。主な著書は、『わたしのウナギ研究』(さ・え・ら書房)、『ウナギの保全生態学』(共立出版)。近著に『結局、ウナギは食べていいのか問題』(岩波書店)。

【質問1】実際のところ、ウナギは食べていいの?

海部健三(かいふ・けんぞう)さん

絶滅危惧種だからといって、ウナギを食べることを制限する規則は存在しないので、「食べていいのか、いけないのか」という問題は個人の倫理観にしたがって決定するものです。しかし、その決定を行う際に基礎となる知識が必要だと思います。

IUCNのレッドリストでは、最も絶滅の危険度が高いとされる「深刻な危機」(Critically Endangered,CR)、「危機」(Endangered,EN)、「危急」(Vulnerable,VU)の3つのカテゴリが「絶滅危惧種」とされています。

ニホンウナギの場合は、身近な河川や沿岸部にも生息する生き物ですが、急激に減少しています。2014年に発表されたIUCNのレッドリストでは、2番目に危険度の高い「危機」に区分されました。

では、ニホンウナギを食べるのは、同じ絶滅危惧種の「危機」に区分されているトキを食べるのと同じかというとそうではありません。絶滅危惧種は、大きく2種類にわけることができます。圧倒的に数が少ない希少な生き物と、急激に減少している生き物です。

ニホンウナギは数は多いのですが急激に減少していて、現在は減少を止めるための適切な管理が行われていません。つまり、このままでは"絶滅してしまう可能性がある"というわけです。私の見解としては、食べる量を抑制するとともに、ニホンウナギが健全に成育できる環境を取り戻す必要がある、と考えています。

【質問2】「食べられているウナギの半分以上は違法なウナギ」ってホント?

藪をかき分けて川に降りていく姿
奄美大島での調査を行う海部さんら研究チーム

結論からお伝えすると、本当です。その年によりますが、国内で養殖されているニホンウナギのうち、半分から7割程度のウナギが、不適切に漁獲・流通したシラスウナギから育てられています。前提から順番に説明していきますね。

まず、人間が食べて消費するスピードが、生物が子どもを産んで増えるスピードを超えてしまうと数は減少してしまいます。ニホンウナギが減少しているということは、消費のスピードが、ニホンウナギが増えるスピードを超えているということです。このため、食べる量を抑制するとともに、ニホンウナギが健全に成育できる環境を取り戻す必要があるのです。

ニホンウナギの完全養殖は研究所の実験で成功しているものの、莫大な費用がかかるため、商業的な利用にはまだ時間を要します。流通しているすべての養殖ウナギは、海洋の産卵場で孵化した卵から産まれた子どものウナギ(シラスウナギ)が沿岸域までたどり着いたところで捕獲され、養殖場で大きくなったものです。シラスウナギの捕獲は各都道府県で管理され、およそ20cm以下のウナギの捕獲は禁じられており、全長約6cmのシラスウナギはその規制対象に含まれています。

養殖のためのシラスウナギ捕獲には、都道府県知事の特別採捕許可を受ける必要があります。しかし現状では、無許可で行う密漁、許可を受けた漁業者の過少報告(無報告漁獲)などの違法行為により、半数程度が不適切に流通しています。さらに、国外で漁獲されたシラスウナギが輸入される際も、原産国から密輸されている可能性が高いと考えられています。

シラスウナギが高値で取引されるため、密漁や密輸・無報告漁獲が発生するわけですが、それによって現在では、シラスウナギの漁獲実態が掴めなくなっています。ニホンウナギの正確な数字が掴めなくなっているため、持続可能な消費限度を設定することが難しくなっているのです。

【質問3】今後、消費者がウナギに関してできることは?

ウナギの稚魚
調査で捕獲されたニホンウナギ

ひとりの個人の力は大きくはありませんが、たくさんの声が集まれば、産業界や政治に対して影響を与えることができます。「ウナギを食べられる未来がいい」「違法行為の関わったウナギを食べたくない」と、ウナギ関連の業界や政治の世界に対して届けることで、状況は変わっていくと期待しています。

現状では、消費を削減するべきです。同時に環境を回復していく努力も重要ですが、環境の回復には時間がかかってしまいますね。消費削減は即効性が期待できると考えます。

では、消費量を削減するために、消費者にどう意識を持ってもらったらいいのでしょうか。ヨーロッパやアメリカの場合は、NGO(非政府組織)の国や企業に対する訴求力が強く、その根本にあるのは消費者、一般市民の環境やサスティナビリティに対する考え方があります。逆に日本はNGOの力が弱く、企業や政治に対しプレッシャーをかけることが難しい状況です。

日本ではイオンが、環境に配慮した水産物の国際的な認証制度であるMSC(海洋管理協議会)認証やASC(水産養殖管理協議会)の認証を受けた商品を扱う先駆者的な企業です。海外の場合にはハイエンドのマーケットやスーパーが環境問題やサスティナビリティを気にしていますが、イオンのような比較的価格帯の低いスーパーがリードしている日本の事例は特殊ではないか、と私は思っています。ではなぜイオンが、サスティナビリティを気にしているのでしょうか。

イオンの担当者に伺ったのですが、イオンは世界中に展開しているので、サスティナビリティに関する部分で失敗すると強い批判を受ける可能性がある。だから海外からのプレッシャーを感じ、サスティナビリティに関して責任感を持っていると。

MSCやASC認証商品を扱うことで、自社で直接調査を行うのではなく、クリーンな原料や労働に関して保証することができます。つまり企業として、海外で負けないためにやっているわけで、私はそれでよいと思っています。

日本の場合は、食料品を扱う多くの企業が、国内の消費者のニーズに合わせて商品を展開しているわけですが、食べ物というと「安心・安全」、そして「価格が安いこと」「美味しいこと」が求められます。これらはすべて自分の利益です。そこに環境のため、地球のため、未来のためといった視点はどの程度存在しているでしょうか。現在は、日本のハイエンドマーケットがサスティナビリティの考え方に取り組んでいるようには見えません。そこに北米・ヨーロッパとの大きな違いを感じます。

もうひとつ、消費者にできることがあるとするなら、基礎的な知識を学ぶことがあります。消費者の方が知識を得るためには、身近に学びやすい環境をつくることが必要とされます。このような問題意識から先日、小学校4年生以上を対象とした『ウナギいきのこりすごろく』というワークショップ用の教材をNGO日本自然保護協会と共同開発しました。なるべくわかりやすい形で、なおかつ根本の部分が抜け落ちないような教材となるよう、議論を重ねて作成しました。

ウナギいきのこりすごろく

【質問4】ウナギをいつまでも食べることができる状態とは?

川でウナギの調査をする様子

数十年前には、"当たり前"に河川や田んぼにたくさんのウナギが生活していました。ウナギをこれからも食べることができるようにするには、今の状況から、昔存在した"当たり前"の状態に戻す必要があります

ウナギの数が減少しているのはなぜかというと、人間がウナギに悪影響を与えているからです。人間が悪影響を与えているからウナギが減っているのなら、その悪影響をなるべく減らしてあげることが、まずは必要です。

人間がウナギに与えている悪影響とは、過剰に獲って食べることや環境を改変していること。しかし、状態を戻すときに、人間の経済活動とどうバランスを取るのかが非常に重要です。このバランスの問題を解決するための具体的な解は、現在のところ私も持っていません。この問題は、今後の重要な研究課題であるとともに、「どのように合意形成を進めるのか」という政治の領域の問題でもあると考えています。

ウナギは海で生まれ川で育つので、ウナギがストレスなく行き来できる環境が必要です。これまでは河口堰やダムなどが遡上を妨げていました。しかし、新しい技術や知識を使うことで、今までになかった解決法が出てくる可能性は十分にあります。今、私たちはこのようにZoomでインタビューをしているわけですが、このような技術は以前は存在していませんでした。それと同じことです。もちろんコストやメンテナンスなど解決すべき課題もたくさんありますが、たとえば堰を作らずに取水することも技術的には可能になるのではないでしょうか。

経済活動とは、人間が生きていることそのもの。ということは、人間の経済活動は絶対に疎かには出来ないと思います。ただ、テクノロジーを利用して自然と共生していくことは、技術の進展に合わせて出来るようになっていく可能性も大きいですよね。

私が考える"当たり前"の状態とは、原始時代に戻るということではないんです。人間が培ってきた技術を使うことで、新しい形で、人間が与えてしまった悪影響を軽減させ、これからの時代に合わせた新しい共存の形をつくることが大切です。

さいごに:ウナギをきっかけに、地球全体のことを考えよう

書籍「結局、ウナギは食べていいのか問題」

私は、ウナギの問題を、"ウナギだけ"の問題に閉じて考えるのはよくないと考えています。例えば、もしもウナギの問題が解決に向かったとしても、「ああ、よかったね」ではなくて、それをひとつのモデルとして他の問題を解決する一助とするべきなんです。

たとえば水産資源の持続的な利用という観点で見れば、「他の資源にも当てはめていくことが出来るんじゃないか」と考えたり。環境の側面で考えたときには、ウナギの問題を解決に向かわせることによって、「河川の環境をよりよくしていこう」と考えたり。ウナギのためだけじゃなくて、他の生き物にとってもいい環境に回復させていこう、という流れをつくっていくことが、望まれるやり方じゃないかなと思います。

日本においてウナギは、異常なくらい注目されています。海外の研究者が日本に来ると、本当にビックリするんですよ。「なんでウナギはこんなに注目されているんだ?」って。ウナギは、それだけ注目を集める生き物なんです。

だからこそ、それを利用して、社会をよりよくしていくと考えたときに、単に「ウナギの量を増やす」というだけでなく、ウナギをひとつのきっかけとして、地球全体のこと、人々と地球環境のことを合わせて考えていくことが大切なのではないかと思っています。

\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、海のイマを知ってもらうことが、海の豊かさを守ることにつながります。

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