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豊かな未来のきっかけを届ける

豊かな未来のきっかけを届ける

コロナで卸値は半分。美味しい魚がリーズナブルだから、いろいろ食べてみよう

Gyoppy! 編集部

とびうおのヒレを広げる鈴木允さん

新型コロナウイルスの感染拡大が日本の水産業にどんな影響を与えているのか?

魚の値段が下がり、美味しい魚がリーズナブルに手に入るようになった。新しい流通の取り組みもいろいろ始まっている。そんな状況で、私たちは消費者としてなにができるかを、魚と漁業を愛するひとりとして考えてみる。それが、この記事の趣旨だ。

個人的にはコロナ前よりも魚を食べる量が増えた。あらためて日本の魚の美味しさをしみじみと実感している。

「四角いカツオ」をきっかけに

かつお料理

コロナの影響で美味しい魚が安くなっていることに気づいたのは、緊急事態宣言が出された直後。近所のスーパーで買い物しているときに気づき、noteで記事にまとめたところ、40万ページビュー以上の反響があった。

多くの人が自宅で魚を食べるということに関心を寄せていることを実感した。「実際にスーパーでカツオを買ったら美味しかった」といったコメントもたくさんあり、うれしかった。

美味しい魚が安く買える状況は、私たち消費者にとっては喜ばしい。でも、喜ばしくない人たちもいる。現在は多くの飲食店が営業を部分的に休止しており、本来は飲食店が使っていた質の高い魚が安く出回っているだけ

安い魚の背景には、漁師さん、流通業者さん、飲食店のみなさんの厳しい現実があるのだ。この状況がいつまで続くのか、「魚を食べる」ということがどうなっていくのか、心配している。

私は、かれこれ20年近く、さまざまな形で水産業に関わってきた。

最初は漁師見習いとして、次は築地の鮮魚のセリ人として、そのあとは大学院生として、そしてMSCという国際的な水産認証プログラムを運営する団体の職員として。

昨年独立して、現在は漁業の持続可能性についてのコンサルタントとして活動している。

「サステナブルな漁業を広げる」というのがミッションで、豊かな海と美味しい魚を未来につなげるための事業を行っている。そんな中、コロナ禍で周りの漁業関係者がさまざまな影響を受けているのを目の当たりにし、4月半ばから「コロナ緊急特集」という動画プロジェクトをはじめた。

「コロナ緊急特集」
「コロナ緊急特集」|サステナブルシーフードチャンネル(YouTube)

全国の水産に関わる人たちにインタビューを行い、10分の動画にまとめてYouTubeにアップしているのだが、この活動を通じて、いろいろな人たちから話を聞かせていただいた。そこから見えてきた「魚と漁業の今」について書きたいと思う。

コロナの影響で魚の流通はどう変わったか?

水産に関わる人たちのなかで、最初にコロナの影響を受けたのは飲食店の方々だ。続いて、飲食店向けに水産物や水産加工品を納入している業者さんたちが大きな影響を受けている。

水産業の受けている影響を客観的に示すデータは多くはないのだが、参考になるひとつの資料が、東京都が公開している豊洲市場の日報や月報だ。

例年、春になって水温が高くなってくると水揚げ量も増えてくる。卒業式、入学式、会社の歓送迎会などがあって会食や宴会の需要も高まり、魚もよく売れる。

しかしゴールデンウィークに入ると飲食店の需要が減り、魚の需要も減る。ゴールデンウィーク後になっても需要は戻らず、市場関係者は「連休でお金を使っちゃって財布の紐が固くなってる」とあきらめムードになる。これが例年の流れだ。

下のグラフは、去年の2月から5月の豊洲市場の水産物取扱量の推移である。

2019年2月から5月の豊洲市場の水産物取扱量の推移
データ出典元「東京都中央卸売市場日報」

このグラフに、2020年の同時期のグラフを重ねてみる。

豊洲市場の水産物取扱量の推移(2019年・2020年)
データ出典元「東京都中央卸売市場日報」

コロナの影響は出ていたとはいえ、2月から3月の取扱量は前年とは大きく変わらなかった。大きな影響が出たのは4月7日の緊急事態宣言。これを境に、4月の取扱量は前年を大きく下回る日が続いた。

今年はGWが実質的になかったので、GW中とGW後は取扱量の落ち込みはなく、昨年と同様か、やや上回る取扱量があった。しかしその後、回復することなく低調なまま月末を迎えている。

取扱数量が減っただけではなく、魚の価格も下がっている。

例えば、真鯛の1kgあたりの相場は、2、3月には高値が1500~2000円、安値が700~800円だった。緊急事態宣言前後に大きく相場が下がり、高値が800~1000円、安値が400~500円までと、相場は約半値になっている。

豊洲市場のマダイの相場の推移(2020年2月から5月)
データ出典元「東京都中央卸売市場日報」

キンメダイも、高値が1kgあたり3000~4000円、安値が1200~1300円だったが、緊急事態宣言後は、高値が1500~2000円、安値が800~1000円となっている。

豊洲市場のキンメダイの相場の推移(2020年2月から5月)
データ出典元「東京都中央卸売市場日報」

日本の水産流通の要である豊洲で、魚の価格が下がったり、流通量が減ったりすると、産地は大きな影響を受けることになる。

産地からしてみれば、豊洲からの注文も少ないし、観光客減で地元の需要も少ないということで、魚がだぶついている。魚種にもよるが、浜値(漁業者の手取価格)が暴落しているものもある。

そのような状況のなかで、漁師さんたちの対応はさまざまだ。

出漁しても魚が売れないからとしばらく休業を決めた地域もある。その一方、安くても出漁し続ける判断をした地域もある。

漁業の種類によって、繁忙期と閑散期が存在する。もともと漁が忙しくない時期の漁師さんたちは、普段は日々の業務で忙しくて出来なかったような「今だからこそできること」に集中している。

一方、北海道・噴火湾のホタテ漁業のように、この時期の売り上げで1年を回している漁師さんたちもいる。彼らにとっては本当に深刻な事態となっており、「廃業」という言葉も聞こえてくるほどだ。

みんなができることは何か?

太刀魚を持つ鈴木さん

この記事の目的は政策提言ではない。なので、読者のみなさんに消費者としてできることをふたつ提案したい。

ひとつは「産地や市場から直接魚を買ってみる」ということ。もうひとつは「いろいろな魚を食べてみる」ということだ。

鮮魚の産地直送は野菜に比べると遅れていたけれども、コロナの影響で選択肢が増えてきている。Gyoppy!にも掲載されている北海道の舘岡志保さんや対馬の銭本慧さんは以前から主に飲食店向けに直販を行っていたが、最近は個人向け販売にも力を入れている。

他にも「魚 産地直送」などで検索するとたくさんサイトが出てくる。同じくGyoppy!で紹介された津田祐樹さんがオンラインでの魚のさばき方教室と鮮魚をセットで届けるサービスを始めていて、初めての人にもとっつきやすいと思う。

今までは地元の市場で水揚げしていただけだった漁師さんたちが、コロナをきっかけにして「ポケットマルシェ(農家・漁師さんから直接新鮮食材を買えるオンラインマルシェサービス)」に出品をはじめたり、SNSで発信しはじめたりしている。

豊洲の仲買さんで一般向けのサービスを始めたところもある。産地や市場から届く魚にはなじみのない魚もあるが、新鮮さと美味しさにびっくりすると思う。漁師さんたちも、顔の見える相手にはいいものを送りたいと思っているのだ。

魚の食べ比べは、近所のスーパーでもできる。魚が安くなっているので、普段は買わない魚も試してみてほしい。

おすすめは、産地の違う同じ魚の食べ比べ。シーズンも終わりだが、富山県産と兵庫県産のホタルイカを食べ比べてみると驚くほど味が違った。これもコロナの影響があるからできることだ。

私の場合、最近はイサキ、アジ、イワシなどをよく食べている。活〆や神経〆といった水揚げ後の処理による違いもあるが、海域によって脂の乗りがずいぶん違うことに気付く。

もちろん、スーパーに並んでいる魚を見て漁法や処理を知るのには訓練がいるが、食べ比べて「なんで違うんだろう?」と疑問を持って、意識して食べてみると、魚を選ぶのが楽しくなると思う。もちろん店員さんに聞いてもいいだろう。

SDGsを日々の実践から

コロナ禍で話題にあがることが減ってしまったが、世界は2030年の「SDGs=持続可能な開発目標」の達成に向けて動いている。

SDGsの目標14は「海の豊かさを守ろう」。

私たち日本人は意識する・しないを別として日々たくさんの魚を食べているが、漁業のことはあまり知らないという人がほとんどなのではないだろうか。

海の豊かさを守ることの第一歩は、知ることだと思う。美味しい魚を食べながら、海や漁業のことを考えてもらえたらうれしい。

SDGsの目標12は「つくる責任、つかう責任」。

消費者も、買うという行動を通じて世界を変えることができる。豊かな海と美味しい魚を将来も楽しむために、「意識して」魚を買ったり食べたりしてみてほしい。

鈴木允さん

\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、海のイマを知ってもらうことが、海の豊かさを守ることにつながります。

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