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好みを追わず、個性を生かす。素材を引き立てる「おだし」が教えてくれること

Gyoppy! 編集部

ガラスの小鉢に入った出汁3種

巷では、数年前から「だしブーム」が続いています。本格的なだしが味わえるスタンディングバー風の店が人気になったり、海外の和食ブームもあり、注目が高まっているのだとか。

しかし一方で、昆布や魚の出荷量は増えていないといいます。なぜ、このような現象が起きているのでしょうか?

明治36年(1903年)創業の「無添加おだし」専門店「うね乃」の社長・釆野元英(うねのもとふさ)さんにお話を伺ったところ、化学調味料で作られただしの需要が高いことが要因だといいます。

釆野元英(うねのもとふさ)さん

「うね乃」は、化学調味料を使わないだしを推奨しております。なぜなら、だしの役割は、料理の素材の味を優しく引き立てる「縁の下の力持ち」であり、味の濃い化学調味料は素材の味が感じられなくなってしまうから。

お店を訪れると、釆野さんのアドバイスの元、カツオ節や昆布、サバやウルメなどを掛け合わせることで、オリジナルの「理想のおだし」を作ることができます。これは釆野さん自ら全国各地の生産者を訪問し、産地や生産者による味の違いを知り尽くしているからこそ、できることなのです。

店舗外観

釆野さんは「おだしの文化を若い世代に知ってほしい」という思いから、おだしのワークショップや、保育園での食育イベントを開き、講師として産地から生産者を呼ぶこともあります。

だし文化や産地の漁師への思いを、釆野さんに伺いました。

漁師の個性を、おだしの味に生かす

昆布を持つ釆野さん

── うね乃さんでは、カツオ節や昆布を産地まで足を運んで買い付けていると伺いました。

産地で漁師さんが一次加工したカツオ節を買い付け、うちで二次加工して削り節にしています。昆布は北海道の利尻の倉庫で1年寝かせたものを、京都の蔵でさらにひと夏越させて、2年かけたものを出荷しています。

私たち専門店の仕事は、ただカツオ節を削って販売するだけではなく、お客さまの好みに合わせて味のカスタマイズをすることです。絵の具屋さんに例えると、赤が1種類しかないよりは、ニュアンスの違う数種類の赤があったほうがいい。それらを掛け合わせることで、お客さまが求めている理想の色に近づけることができますよね。お客さまとお話をしながらブレンドして、その方だけの「自分のおだし」を作っていきます。

── 「自分のおだし」ってかっこいいですね。人によって求める味が違うんですね。

地域や季節、どんなお料理に使うのかでも変わります。理想のおだしに近づくと、料理がさらに精度の高いものになっていくと思います。

私は産地に行って、それぞれの特徴を吟味しながら買い付けています。魚を陸揚げした後に、カツオを燻したりカビを付けたりする一次加工者には、色んな漁師さんがおられます。以前は「この人より、この人の方がいい」と、うね乃の好みを追いかけていたんですが、それよりも個性が大切だと思うようになりました。

例えば、どうしても燻製を強くしてしまう漁師さんに「薄い燻製にしてくれ」と言ったら、すごく難しい作業を強いて、漁師さんの仕事のバランスを壊してしまいます。だから無理なリクエストはしません。それよりも、我々がそれぞれの漁師の「最高なところ」を理解した上で、お客さまに通訳して提供するようにしています。

── 漁師さんによって特徴が違うのが面白いですね。私たちも実際におだしを飲ませてもらいましたが、素材によってこんなにも味が違うのかと驚きました。

だしブームの影響もあって、おだしを「ものすごくおいしいもの」と言っていただけることもあるのですが、うね乃のだしはどこまでいっても脇役です。例えば昆布は、普通のお水を料理に向いたお水に変えるのが役割なんです。昆布だしの味を感じさせるところまでいかなくていい。

主役になったときは、だしが料理の邪魔をしてしまいます。だしの存在感があるかないかのところで、私たちの仕事は完結すると思っています。

おだしのシンプルなおいしさが、人の平和と健康につながる

様々な出汁のサンプル

── ここ数年「だしブーム」といわれますが、実感としてはいかがですか?

これほどブームが起こってるのに、産地でカツオ節を作る人たちは年々減っていますし、昆布や魚の出荷量は増えていません。圧倒的に化学合成エキスが使われているので、だしブームと海がつながっていないんです。

── 化学調味料のシェアが大きいんですね。

作られた味は、本物のだしより強くだしの味がします。それを主観的においしいと感じる人が増えていると思います。今は化学調味料が主流になって、オリジナルがマイノリティというおかしな状況になっていますね。

── 化学調味料の、どんなところが問題なんでしょうか?

化学調味料の味にパンチがあり過ぎるところですね。私が理想とする「おだしの役割」は、一杯の味噌汁のなかで20%から30%程度と考えます。残りの部分は、お豆腐や野菜などの素材から出るだしの味です。だしの味が30%くらいまでだから、素材のだしの味を感じることができる、そこが1番のポイントです。

ホワイトボードを使い説明する釆野さん

しかし化学調味料の味は、80%くらいまでいってしまうものもあるので、素材のだしを感じる余地がありません。だから何を食べても同じ味になります。そうすると調味料をたくさん使って味付けをすることになるので、塩分の摂り過ぎになってしまいます。

── 海産物からおだしを取るのは、日本の食文化の要ですよね。それが失われているということでしょうか。

私の周囲でも、パスタは上手に作れるけど、おだしを取って味噌汁をちゃんと作れるか? というと、自信がないという人が結構います。おだしの文化は、日本人のアイデンティティだと思っています。グローバル社会で日本のアイデンティティが問われるなかで、日本人が知っていなくてはならないことですよね。次世代のために、それを考えてみてほしいと思います。

また、味の濃い、中毒性の高い食べ物を欲する状態が続くと、そういう食べ物が無くなったときに、本当に心が乱れてしまい、人の分まで奪いたくなるような攻撃的な気分になると思うんです。そうならないためにも、シンプルな食べ物をご馳走だと感じるられるような価値観が必要になっていくんじゃないでしょうか。もっと慎重に自分が食べたいものを吟味すれば、食料廃棄も少なくなると思います。

食文化が充実していると心が満たされて、みんなが笑顔になる。それが大きな視点で見れば平和につながっていくと思います。

うね乃が目指すものを説明する釆野さん

日本人は、なぜか料理は面倒だと刷り込まれてる?

── 日本のおだしの文化を伝えていくためには、生産者を守ることも大切だと思います。

そうですね、日本の食文化と海、生産者、すべてつながっていると思います。まずは生産者が1番儲かるような仕組みにしないといけない。今は逆の構造になってしまっています。我々は生産者に対して値切ったことはありません。その代わり、厳しいリクエストをすることもありますが、言い値で買うようにしています。

── 今お付き合いされている生産者さんとはそれだけ信頼関係があるということなのでしょうか。

25、6年前から産地を回って、漁師さんの家に泊めてもらい、昆布の良し悪しや寝かせ方を教えてもらってきました。その頃からずっと同じ生産者さんとお付き合いしていて、世代交代を経てお付き合いしているところもあります。うちはお客さまへの接待はほとんどしませんが、漁師さんへの接待はしょっちゅうしています。

── どういう接待をされているんですか?

毎年、夏と冬に2週間ほど産地へ行って、1杯飲みながら「今の時代のニーズはこうですよ、あなたが採った昆布を雑誌に載せてもらったよ」とモチベーションアップにつなげられるようにしています。

漁師さんの子どもたちを京都に呼んで「君のお父ちゃんが採った昆布がお店に並んでるよ」と見せてあげると、子どもたちのお父さんを見る目がちょっと変わったり。とくに思春期の頃は親とぶつかることもあるでしょう。そういう子たちに「おっちゃんのところにホームステイしにおいで」って。彼らに継いでもらわないと困りますから(笑)。

── これからの漁師さんや漁業に関して、課題があるとしたらなんでしょう?

今は生産者と消費者の距離が年々広がっているように思います。漁師の数が増えていない、技術継承の問題や人口の問題もあるんでしょうけど、それよりもシンプルなものをおいしいと感じる人が減ったのかなと思っています。

── 漁師が減るより前に、消費者の好みが変わったと。

おだしのワークショップをやっていて感じるのは、みなさん「おいしいものを食べたい」と仰いますが、日本人は「簡単に安くおいしく」と言います。でも、海外の方からは「もっと手間暇をかけるためにはどうしたらいいの?」と聞かれます。「キッチンに立つ時間ほど楽しいものはない」と言うんです。

日本人は、なぜか料理は面倒だと刷り込まれていませんか? 食べなければ死んでしまうのに。もっとシンプルに「生きることイコール食べること」と考えると、キッチンに立つ時間が自ずと幸せな時間になるのではないでしょうか。

温度が違う2つの出汁
ワークショップでは温度による味の変化を体験できる
同じように見える2つのおだし
見た目は同じように見えるおだしも、飲んでみると味が異なる

若い人が働きたくなる店づくり

様々な削り機

── うね乃さんの社員は、若い方が多いですよね。おだしの専門店が全国的に減っているなか、すごいことだと思います。

23歳、29歳の削り師がいて、39歳が最年長です。若い人を必要としているんですよ。彼らが友だちと会うときに、手土産に持って行きたくなる物を作らないといけないと思っています。プライベートで欲しくならないようなものはダメですよね。

うちの社員は今、子育て世代が多いので、離乳食教室やワークショップなど、私ではわからないことを企画してくれます。みんな「日本の伝統文化が危ないな」と感じていて、何とかしようと思ってやっています。

── 若い人の意見を率先して取り入れているんですね。

京都市内の本店の隣に建てた新しい工場も、彼らにとってベストなレイアウトを考えてもらいました。昨今の流れとしては郊外の工場地帯を推奨していましたが、社員の通勤も大変ですし、うね乃らしさを大切にしたいと思ったんです。

私の要望は、全面ガラス張りにしたことです。食品工場の多くは、外が見えない環境のところがすごく多い。おいしい物を作るときに「そんな環境でテンションが上がるかな?」と。天候や季節が自然に感じられる環境にしたいと思いました。

外観も「京都の風景を残さないといけない」と建築家の先生にご相談して、数寄屋造りっぽく色数を減らしています。木造ですが、耐震や消防をすべてクリアして、「HACCP(ハサップ・食品の衛生管理の方式)」の認証も取得しました。

全面ガラス張りの工場
こちらが全面ガラス張りの工場

「海の命」を最後までおいしくいただくために

── 現在は飲食店と一般のお客さまではどちらが多いんですか?

今は完全に一般の方が多いです。私の父の代まで80%はB to Bだったんですが、不況になると、飲食店の原価率を下げるために1番にコストダウンされてしまいます。それに比べて、B to Cのお客さまは、値段よりも「家族の食事をよりおいしく、安全に」という思いがあります。我々がやっていきたいことと、そこが合致したわけです。大量に作って安く売るというのは、うね乃の役割ではないので、一部のお料理屋さんを除いてB to Bはやめています。

── 未来におだしの文化を残していくためには、何が必要なのでしょうか?

私の祖父の時代、カツオ節は硬いまま売れました。父の時代は、花カツオになって袋詰めで流通するようになり、私の時代はだしパックと液体になりました。扱っている物は同じなんですが、世代によってニーズと役割が変わります。次の世代に何か新しい物を残すことができれば、おだしの文化はずっと持続していくと思います。

削り方の異なるだし

── 素材や味にこだわりながらも、ニーズに合わせて新しいものを作り出すことが大切なんですね。おだしについて、消費者にもっと知ってほしいことはありますか?

おだしというのは、人の体を整える液体だと思っているんです。日本では、初めての離乳食におだしをあげることが多いんですね。科学的に証明されているデトックス効果や、整腸作用もあります。料理に使うだけではなく、だしパックを水出しして飲み物として飲んでもらってもいいと思います。

おだしの楽しみ方として、高級料亭のような「ハレの日」の料理もいいですが、体調の優れない日に食べる、おだしで作ったお粥なんて最高の「ケの日」のご馳走だと思います。高級なものや、化学調味料を大量に摂るより、シンプルなおいしさを感じられることで、健康が叶えられると思っています。

── 今後、新しく考えていることがあれば教えてください。

おだしを取ったあとに出る昆布のだしガラを使って佃煮を作ろうと思っています。うちだけでなく、飲食店などで出るだしガラを冷凍してもらって回収し、将来的には製品化していきたいですね。海であれだけ一生懸命育った昆布が最後、ゴミ箱に行くというのは、心苦しいと感じているので。最後までおいしく生かせるようにやっていきたいと思っています。

釆野さん

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