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サンマが獲れないのは中国のせいじゃない? メディアが伝えない不漁の真実

Gyoppy! 編集部

炭火で焼くサンマ

秋になると「そろそろサンマが美味しい季節だなあ」と思いますよね。しかし、ここ数年、サンマの不漁がメディアで報じられることが増えています。

日本人がサンマを好きなことはわかるけど、それって本当にそんなに騒ぐほどの問題なの? そもそも、サンマって、そんなに減ってるの?

そんな疑問を解消するために、Gyoppy!取材班は東京海洋大学で水産資源管理を研究している勝川俊雄さんを訪ねました。

さっそく、サンマの不漁が報じられていることを伺うと......

「9月頭に獲れないからといって、不漁と騒ぐ必要はありません」
「10月には水揚げ量が増えるでしょう」

えっ、サンマの水揚げ量って、そんなにはっきりとわかっちゃうものなんですか? 勝川さんがお話してくれたのは、あまり知られていないサンマの生態や、サンマの資源の危機的な状況。サンマを守るためには、私たち消費者の行動がとても重要だと勝川さんは指摘します。日本の秋の味覚、サンマを食べ続けるために、私たちができることとは?

サンマは日本の魚じゃない?

勝川俊雄さん

── 8月末頃からサンマ不漁の報道が出ています。実際のところ、サンマは減っているんでしょうか?

それを考える上で、まずはサンマがどういう魚なのか知っていただくことが大切だと思います。

── 確かにサンマがどういう魚なのか、改めて考えるとよく知りません。

まずは、サンマがどれくらいいるか、各国の漁獲量がどれくらいかを数字で正確に理解する必要があります。先に言っておくと、メディアで「中国の乱獲が原因でサンマが減っている」と言われることがありますが、データを見ればそれは誤りだと分かるんですよ。

というのも、サンマは、実は日本近海に住んでいる魚ではないんです。太平洋の真ん中、ハワイの北辺りに住んでいます。サンマは卵を産むために秋頃に南へ回遊するのですが、その群れの一部が日本の側を通ります。その時期にしか日本の漁場を訪れないので、サンマは秋にしか獲れないんです。

サンマの分布域(索餌場と産卵・生育場)と日本漁船及び外国漁船の主漁場位置
サンマの分布域(索餌場と産卵・生育場)と日本漁船及び外国漁船の主漁場位置(出典元:令和元年度 サンマ長期漁海況予報


現代ではほとんどの魚が1年を通して安定的に市場に出回るようになっています。冷凍技術が発達していること、日本列島が南北に長いために魚の旬が県によってずれていくことなどがその理由です。しかし見方を変えればそれは、魚の季節性が消えたとも言えます。その点、サンマは季節性が残っている数少ない魚ですね。

── ダイナミックに回遊しているがゆえに、資源管理も難しいということでしょうか?

そうですね。あと、サンマの寿命は約1~2年と短いので、その年、産卵された卵がどの程度生き残るかによって、資源の状況が大きく変わってしまうのもあります。前年サンマがたくさん獲れたからといって、翌年も獲れるとは限りません。予測が非常に難しい。

そこで、2003年から国立研究開発法人 水産研究・教育機構が水産庁の委託を受けて、毎年6~7月に調査船を出しています。サンマの回遊ルートを遡り、どれぐらいのサンマが日本へ向かって来るか、太平洋を横切ってハワイよりも東の方まで行って調べているんです。

── そのデータだけが頼りということでしょうか?

調査船を出して漁期直前のサンマ来遊量を調べている唯一のデータなので、今年のサンマの漁獲の動向については、この調査レポートを元に議論するほかないといえます。なぜ今サンマが不漁だと騒ぐことが無意味なのか、漁獲量がどのように変化しているのかも、この調査結果から読み解くことができるんです。

日本に来遊するサンマが減っている

── 今年の調査結果はどうだったんですか?

調査ルートが、日本に近い方から1区、2区、3区に分けられていて、1区にいるサンマは8月後半から9月頃に、2区は10月以降に日本に来遊し、漁獲されると予想されています。

今年の調査結果では、1区のサンマの分布量は0に近い値でした。だから今の時点で不漁だと騒ぎますが、データを見れば当たり前という話なんです。

サンマの分布状況を表す図
6~7月に実施したサンマ資源量直接推定調査におけるサンマの分布状況。図中の赤丸は大型の1歳魚、青丸は小型の0歳魚の割合を表す
6~7月に実施したサンマ資源量直接推定調査におけるサンマの分布状況。図中の赤丸は大型の1歳魚、青丸は小型の0歳魚の割合を表す(出典元:令和元年度 サンマ長期漁海況予報

── サンマが来遊していないのに、獲れるはずがないと。

ただ、今年は2区にはそれなりにサンマがいるんです。しかも1歳魚が分布しているのでサイズも大きいです。

劇的な不漁であった2017年は、1区にごくわずかしかおらず、2区にもほとんどいませんでした。その時と今年ではまったく状況が異なります。

だから漁期の初めにサンマが獲れないと大騒ぎする必要はなく、おそらく10月頃に一昨年よりも5割から8割程多い、10万トンくらいの水揚げがあるだろうと想定されるんです。

── そこまで予想できるんですね。ただ、調査結果を見ると2010年以降の来遊量と漁獲量が下がり続けていますね。

サンマの分布量(来遊量)と日本のサンマ漁獲量は、ほぼ比例関係にあります。つまり、日本のサンマの漁獲量が減っているのは、サンマの来遊量自体が減っているからです。

水産研究・教育機構のサンマ資源量直接推定調査(6~7月)で推定された2003~2019年のサンマ分布量と日本のサンマ漁獲量
水産研究・教育機構のサンマ資源量直接推定調査(6~7月)で推定された2003~2019年のサンマ分布量と日本のサンマ漁獲量(出典元:令和元年度 サンマ長期漁海況予報

── 来遊量が減っているのは、やっぱりサンマが全体的に減っているからでしょうか?

サンマの日本への来遊量は資源の一部でしかないので、資源全体の変動を反映しているとは限りません。資源は減っていないけれども、日本以外のルートを通って回遊する割合が増えているという可能性もゼロではありません。ただ、資源の持続的利用の観点からは、サンマ資源全体が減っていると考えるのが妥当だと思います。サンマはどこか別の海域にいると想定して、獲り尽くしたあとに「実はいませんでした」となったら取り返しがつかないですよね。

ですから今、日本に来遊するサンマが十分な量の卵を産んで次世代を残せるようにするために、サンマの漁獲枠をきちんと規制していくことが求められているんです。各国でサンマをどう使っていくのかを議論しなければならないのは間違いありません。

サンマを守るために必要なのは犯人探しではなく、国際的な協力

── サンマが減った原因として「近隣諸国が獲り過ぎたせい」と報道されることが多いですが、これは本当なんでしょうか?

その報道は誤りです。例えば2003年の調査結果では、大体500万トンのサンマが日本へ来遊していますが、各国の漁獲量の総量は34万トン程度で、1割にも達しません。500万トンに対して34万トン獲ったから、翌年の来遊量が380万トンまで減ったと関連付けるのには無理があります。

グラフを見ると、来遊したサンマのうち漁獲されるのは一割程度なことが一目瞭然だ
グラフを見ると、来遊したサンマのうち漁獲されるのは一割程度なことが一目瞭然だ

その中でも一番多く獲ったのが日本で約27万トン。その次は韓国、ロシア、台湾ですがいずれも4万トン未満です。実は、中国は2003年にはまだサンマを獲っておらず、2012年以降少しずつ獲り出しています。

魚は自然に増えたり減ったりすることが結構あるので、乱獲で減っているというよりは、今はサンマが自然に減少する時期なのでしょう。実際に、60年代のサンマの漁獲量はずっと少なかったんです。たまたま90年頃から非常に豊漁な時期が続いていただけで、今はサンマの豊漁期が終わったとも考えられます。ただその原因は断定できないんです。

── それなのに「中国の乱獲のせい」とする報道が多いのはなぜなんでしょうか。

私がメディアの取材を受けると、中国が悪いことを前提に質問をされることが多くあります。「いやいや、中国はそんなに影響ないんですよ」と言ってデータを見せて説明しても、報道の見出しが「中国などの乱獲で」となっていたりします。

なぜそうなるのか。私が今お話したような説明は、丁寧な解説が必要だし、結局サンマが減っている原因が特定されないので視聴者にモヤモヤが残るからではないでしょうか。それよりも「〇〇が悪い」と断言されたほうが、視聴者としては納得感があるのかもしれません。

勝川俊雄さん

── そういう報道の仕方では、問題の本質が伝わらないですね。

漁獲量の多さが主要因で来遊量が減ったとはいえませんが、500万トン来遊していた時期に40万トン獲るのと、現在来遊量が100万トンを切ることもある中で同じ量を獲るのではまったく状況が違いますよね。これからは、調査結果を元に来遊量を把握し、それに対して適切な漁獲量を決めることが大切なんです。

── 今までと同じ感覚で獲り続けていてはいけないと。

だから今後は、漁獲にブレーキをかける国際的な仕組みを作る必要があります。各国が協力して「この国がサンマを獲っていいのはこの量まで」という国別の漁獲枠を設定したほうがいいんです。例えば、中国の漁業が今後伸びてきたとしても、漁獲枠があることによって歯止めをかけることができます。

現実的な漁獲枠を国別で設定しておくことは、日本にとって非常に重要なことなんです。単に「中国が悪い」と主張しても、少なくとも中国の同意は得られませんし、一歩も前進できません。減っているサンマ資源をみんなで守ろうという国際世論を作ることが重要なんです。

国別の漁獲枠の重要性

勝川俊雄さん

── サンマを獲り続けるためにも、漁獲枠が必要なんですね。

日本政府も漁獲枠を設ける方向で交渉をしています。今年7月の北太平洋漁業委員会(NPFC)では加盟国のサンマの漁獲量の総量を55万トンにすることで合意しました。ただ、55万トンという漁獲量は過去に2回しか到達したことのない大きい数字なのであまり意味はありません。また、国別の漁獲枠の配分も決まっていないんです。

ただ「漁獲枠を設定すること」に合意ができたという意味では前進だといえます。次にこの55万トンを妥当な水準まで下げていく交渉ができるかどうか。どの国も多くの枠を欲しがりますが、漁獲枠を多く設けるということは、それだけ他の国に、サンマ漁に新規参入する余地があるということです。今後は、全体の漁獲枠として余らない水準にした上で、その中でシェアをどうするのか協議する形に持っていかなければいけません。

── 今後、国別の漁獲枠を設けていくためには何が必要なんでしょうか。

まずは、サンマの来遊量のデータから、十分な産卵量を確保するにはどのくらいサンマを残せばいいか全体の漁獲枠を妥当な水準に設定します。そして、諸外国と共に全体の漁獲枠を国別に配分していく仕組みを機能させていくことが大切です。

ただ、各国の漁獲枠の割合を決める交渉は、そう簡単にはまとまらないでしょう。日本はこれまでと同じくらいのシェアを主張するでしょうし、中国は人口で割ろうと言うかもしれない。結局どこの国も自分の国のシェアを多くしたいのが本音です。

しかし、日本にとって最悪なのは、このまま実効的な規則ができない状況が続くことです。このまま自由競争で各国がサンマを獲り続ければ、日本のシェアが食われていくのは目に見えていますから。長期的に考えて、他国に多少譲ってでも早めに決着を着けられる交渉ができるかどうかがポイントですね。

サンマだけでなく、日本の漁師さんを守るために消費者の理解が必要なワケ

勝川俊雄さん

── サンマの漁獲枠を作ることについて消費者が理解して、世論を作っていくことも大切だと思うんですが、私たちが身近でできることは何があるのでしょうか?

サンマの現状について理解した上で、「どう食べたいか」ではなく「サンマの状態に合わせた食べ方」をしていくことだと思います。例えば、サンマの不漁や漁獲枠の話題ではすぐ「サンマが高くなる! 家計直撃だ!」と大騒ぎしますよね。

今の日本人が年間どれくらいサンマを買っているかというと、平均して1人当たり2本程度です。つまり、仮に1本100円のサンマが300円になったとして、年間で増える出費は400円です。「家計を直撃」と言うなら、消費税のほうがよほど大問題ですよ(笑)。

── 冷静に考えてみれば、消費者が極端に不安に思うような金額ではないんですね。

もうひとつ重要なのは、サンマを獲る漁師さんたちを残さなければならないということです。サンマの漁獲量を3割減らしたとして、漁場が今までより遠くなり漁船の操業コストがさらに増えた場合、消費者がそれでも1本100円にしろと言ったら、漁師さんたちは廃業せざるを得なくなってしまいます。実際、消費者が魚を安く買い叩き続け、その結果、日本の漁業の担い手が減った状況が今です。

── サンマの資源と漁師さんたちの生活を守るために、適正な価格でサンマを買う必要があるということですよね。

これからもサンマを食べ続けたいのであれば、今年サンマがいくらになったかではなく、資源とそれを生産するプロセスを支えていける対価を考えないといけない。そのためには消費者がサンマのことをもっと知るべきでしょう。

買い物をするのは投票するのと同じ

勝川俊雄さん

── サンマが大好きな日本人だからこそ、安くたくさん食べたいというのではなく、守りながら食べるという風に意識を変えていく必要があるんですね。

私は、こんなにはっきりと旬が残っているサンマを日本の食文化として大切にしたいんです。そのために、サンマを国際的な枠組みでしっかりと守る。そして日本の漁船がサンマを獲って利益を出せるような仕組みを整えていかなければならない。

そういう中で、秋になったらサンマの来遊量の調査結果をみて、今年はサンマが多いから安くたくさん食べようという年があってもいいし、今年は少ないから1本を大事に食べようという年があってもいいと思います。そうやって食文化として未来につながっていく仕組みを作るのが1番大切なことではないでしょうか。

── 減ってきたからこそ、みんなでサンマを大切に買い支えることが重要になりますね。今の日本人は安いものを求め過ぎているのかもしれません。

ヨーロッパの消費者と話していると、彼らは「消費者の権利」と同時に「消費者の義務」も持っているんです。その義務とは、消費することによって未来の世代の選択肢を奪わないこと。

今、我々がサンマを買い叩いて、日本のサンマ漁業が消滅してしまったら、それは「消費者の義務」を果たしていないですよね。子の代、孫の代がサンマを食べたいと思ったときに適正価格で買えるようにしていく義務が我々にはあるんです。

── 現時点の価格の変動に一喜一憂するより、それが未来へどうつながっていくかを考えよう、と。

今の私たちの消費行動は、実は未来の漁業や未来の食卓をどうするかにつながっている意識を持って欲しいと思います。

ヨーロッパの人々は、買い物に行くのは投票に行くのと同じくらい重要という感覚があるんです。つまり、消費者が何を買うかによって、商売上の勝ち組・負け組が決まり、製造のプロセスが変わっていくわけですから。自分たちが何を買うかによって未来の世界をよりよく変えていく義務があるという考え方をしているんです。

── 消費者の意識を変えるには、何が必要なのでしょうか。

まずは自分たちの行動が未来にどういう影響を与えているかを理解することがスタートだと思います。サンマ資源の話なら、「中国が悪い」で思考を停止してしまったら、もう絶対、先には行けませんよね。そうではなく、まずはサンマ資源を我々の問題だと受け止めて、持続性について考えることが大切です。

これから価格が上がったとしても、1本のサンマの貴重さを実感しながら食べるほうが、スーパーで安いからと大量に買って、結局、半分くらい悪くなって捨ててしまうような消費の仕方よりずっと文化的だと思います。昔からサンマを愛し、食べ続けて来た日本だからこそ、秋にサンマを大切に味わう文化をこれから築きあげていけばいいのではないでしょうか。

インタビューが終わり笑顔の勝川俊雄さん

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