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地下汚染の原因を「宝の山」に変えた? ホタテ貝殻のリサイクル

Gyoppy! 編集部

ホタテの貝殻

北海道函館市にほど近い、八雲町。

養殖漁業が盛んに営まれ、漁獲金額の7割をホタテガイが占める「ホタテの町」だ。

昭和50年代後半には年間8万トンものホタテガイが水揚げされていたが、そこから発生する4万トンの「貝殻」の廃棄処分が当時、深刻な問題となっていた。近隣の山に埋められていた貝殻が、地下を汚染してしまうことがわかったのだ

山のように積まれたホタテの貝殻

今回取り上げる小杉直司さんは「地元に貢献できる事業がしたい」と考え、昭和59年に「ホクエイ」を設立。「ホタテ貝殻」を活用したリサイクル事業を開始した。

1トン当たり約1万円の処分費用が掛かる貝殻を無料で引き取り、貝殻を原料にした「肥料&土壌改良剤」「洗濯用洗剤」「入浴温水除菌剤」「ハミガキ」などを次々に開発。

地元の厄介者だった貝殻を、文字通り「宝の山」に変えた。

ホクエイ工場の外観

「リサイクル製品」というと、一般的には「環境にいいけど割高」「環境保全に貢献するために購入する」というイメージがあるが、ホクエイの肥料や洗剤は、商品そのものが高評価を受け、年商3億6千万円と成功を収めている。

「環境汚染問題を解決する」「売れる商品を開発する」という2つの課題を両立するための秘訣とは?

小杉社長は「世の中にないものを作りたいなら、挑戦し続けるしかない」と事も無げに言う。リサイクル事業への挑戦のきっかけや、地元・八雲町や環境問題への思いについて伺った。

「世の中にないものを作りたい」失敗続きだった最初の1年

「ホクエイ」の社長、小杉さん
「ホクエイ」の社長、小杉さん。工場の中を案内してくれた

── なぜ「ホタテ貝殻」のリサイクルを始められたのでしょうか?

この商売は、昭和59年から始めたんだよ。当時、地元の八雲町で一番困っていたのが「ホタテ貝殻」の廃棄による地下汚染と、処分方法の問題。「貝殻を何かに使えないか」と思って、10年間勤めていた会計事務所を退職して、「ホクエイ」を立ち上げてさ。

── 貝殻で何を作るかは決まっていなかったんですか?

うん。事業計画は「ホタテ貝殻を使ったリサイクル事業」ということだけ決めてスタートしたんだよ。貝殻の粉で作った紙の研磨剤や、ラップに使う充填剤などを開発して、日本の大手メーカーへ持ち込み続けた。でも、輸送コストの問題がネックになって、失敗しては、すぐに切り替えて次の製品を開発してた。最初の一年はその繰り返し。

── 社長が営業も全部やったんですか?

そうそう。俺が動かなきゃ誰も動いてくれない。まだ「世の中にないもの」を作りたいんだから、誰もやり方なんか教えてくれないよ

「トマトが甘くなった!」全国に広がった、ホタテ貝殻の「肥料&土壌改良剤」

輸出用のパッケージ
現在では日本国内のみならず、アジア諸国へも輸出している

── 最初の商品となった「肥料&土壌改良剤」は、どのようなものなんですか?

「ホタテ貝殻」に含まれるカルシウムには、「作物が育ちやすい土壌に改良する」働きがあるんだよ。でも、開発の過程では、貝殻に含まれる「塩分」が問題になってさ。土中に塩分が多くなると、作物が育たなくなっちゃうから。貝殻を焼くことによって、塩分を除去することに成功して、昭和61年に完成したんだわ。

ホタテの貝殻を焼く機械
ホタテの貝殻を焼く機械。焼く温度によって、用途が変わるという

その頃、農場では畑の酸度調整(土壌が酸性になると作物が育ちにくいため、雨などで土壌が酸性に傾いた時に、アルカリ性に調整すること)のために、岩石から作られた「炭酸カルシウム」が使われてたんだけど。

でも、石灰は土に溶けにくくて、「溶け残ったカルシウムがセメント状に固まってしまう」っていう問題点があったんだよね。それに比べて、うちのホタテ貝殻由来の「炭酸カルシウム」は、約90%も土に溶けるから。

その特長をアピールして北海道の農場で使ってもらったんだけど、一気に評判が広まって。次々にうちの肥料を使ってもらえるようになってさ。昭和62年には「肥料を使ってからトマトが甘くなった」という報告をもらって、北海道中の農場に販路が広がっていってくれてね。その後、本州にも進出して、現在は沖縄県でも使ってもらってますよ。

「海に恩返し」界面活性剤を使わない洗浄剤に挑戦

歯みがきシェルピカ工場の外観

── ホタテ貝殻を使った洗浄剤やハミガキを開発したきっかけは?

2010年頃に「肥料だけでは頭打ちだ」と思って、新しいリサイクル製品の開発に取り組むことにしたんだ。ホタテの貝殻で肥料を作らせてもらっているんだから「海に恩返しできるものを作りたい」と思ったんだよね。

現状では、石油を原料にした界面活性剤入りの洗剤が主流で、海洋汚染とのつながりも指摘されてるから。ホタテガイを養殖している地元の海も、その影響もあってか、プランクトンが死滅していってる。だから「界面活性剤を使わない洗剤や入浴剤」にも挑戦したんですよ。

まずは「洗剤って、どうやって作るんだろう?」というところから始めて。私の実家がクリーニング業を営んでいたことも、洗剤を開発しようと思った理由のひとつ。実家で、試作した洗剤を使ってもらって、感想や意見をもらいながら改良を繰り返していったんだよね。

── ホタテ貝殻を使った洗剤には、どういう特徴があるんですか?

ホタテ貝殻に含まれる水酸化カルシウムはタンパク質を分解する働きがあるから「洗浄力」が高くて、血液による汚れも落とすことができるんですよ。「畜産工場の白衣」や「病院の白衣」の洗濯にも使われてる。

「除菌・脱臭効果」も高くて、犬や猫などペットを飼っている人の服につく匂いや、漁師さんの作業服についた生臭い匂いも綺麗に消すことができる。

あとは、ホタテ貝殻由来の成分や、食品にも使われる天然由来の成分しか使っていないので肌や衣類にも優しいんだよ。カルキや漂白剤を使ったときのような衣類の傷みがないっていうね。

「貝鮮美」というお風呂に溶かして使う「入浴温水除菌剤」も、除菌効果があって、アトピーに悩んでいる方から症状がよくなったという、うれしい声をもらうことも多いです。「野菜用の洗浄・除菌剤」も作ってます。

洗濯用洗剤「クリホーグ」、薬用ハミガキ「シェルピカ」、野菜の洗浄剤「貝洗美Vegetable」
左から洗濯用洗剤「クリホーグ」、薬用ハミガキ「シェルピカ」、野菜の洗浄剤「貝洗美Vegetable」
「貝洗美Vegetable」を使ったトマトとお米の洗浄実験結果のレポート
「貝洗美Vegetable」を使ったトマトとお米の洗浄実験

── 「野菜の洗浄剤」ってあんまり馴染みがないんですけど、どんなものなんですか?

お米や野菜には、農薬やワックスとか、様々な汚れが残っていることがあるんだよね。洗浄剤を溶かした水に野菜を浸すと、水が赤や黄色に色付いて、汚れが浮き出してくるから。「国産の野菜なら安心」と思っている人が多いと思うんだけど、汚れが残っていることもあるからね。

北大名誉教授と共に「アパタイト」を開発

粉砕され粉状になったホタテの貝殻。焼くことで塩分が抜け、土に溶けやすい「水酸化カルシウム」に変化する
粉砕され粉状になったホタテの貝殻。焼くことで塩分が抜け、土に溶けやすい「水酸化カルシウム」に変化する

── その後、北海道大学の名誉教授と、出会って新商品を開発されたとお聞きしました。

界面活性剤を使わない洗剤とか、入浴除菌剤が「環境に優しい取り組み」といって話題になったの。それが、朝日新聞の全道版に大きく取り上げられた。新聞を読んだ北海道大学の、名誉教授・久保木芳徳先生が、「一緒に貝殻を使った"アパタイト"を作りませんか」と連絡をくれて、協力して開発を行うことになりました。

ここで言うアパタイトは、正確には「ハイドロキシアパタイト」というもので。人間の骨と同じ、リン酸カルシウムなんだよ。インプラントの疑似歯もアパタイトで作ることができるんだよね。

久保木教授は日本で初めて「ホタテの貝殻」からアパタイトを作ることに成功されて。しかし、大学の実験室と同じ作り方では、価格が高くなってしまうから。だから、教授に作り方を教わって、半年ほどかけて改良を加えて、独自のハミガキ「シェルピカ」を開発したんですよ。

シェルピカ

「シェルピカ」には、水に溶ける最大限の量である35%のアパタイトが含まれてる。口の中の汚れや雑菌を吸着して外へ出すことができるから、口臭や、歯槽膿漏の予防効果も期待できるんだよね。

あと、アパタイトは歯と同じ成分だから、「研磨剤」を入れたハミガキとは違って歯が削れない。磨きながら、歯を修復してくれるってわけ。今は、月に17,000本ほど売上があるんだけど、もっと伸ばしていきたいと思ってる。

世界の土壌汚染問題を視野に

飾られている特許証
ホタテ貝殻の加工技術は、国内特許取得済み

── 今後は、どのような活動を続けられるんでしょうか?

今後は「肥料&土壌改良剤」を使って、海外の土壌汚染問題の解決に貢献したいんだよ。今は、アジア諸国では多くの国や地域が、国土の汚染問題を抱えてる。ヒ素やカドミウムなどの重金属が土壌に染み込んで、作物が育ちにくくなっているっていう状況。

ホタテ貝殻の肥料には、顕微鏡で1000倍で見ないとわからないような、小さな穴がたくさん空いてるんだけどね。その穴に汚染物質を吸着させることで、汚染物質が作物に吸収されにくくなって、大きく育てることができるんだ。

すでにアフガニスタンのマンゴー農場や、ベトナムでも使われてるんですよ。その他の国でも使ってもらえるように、効果を証明する研究データを揃えたり、国際特許を取っています。とにかく「次々に挑戦していかないと」と思ってやっていますね。

小杉社長

── 小杉社長がここまで挑戦を続けられるのは、なぜなのでしょうか?

根っこにあるのは「地元が好きだから」という思いだけだよね。私は生まれてからずっと八雲町から出たことないんですよ。

だから「地元に役立つことが何かできないか」ということからスタートして、そうしたら貝殻が「宝の山」になった。何事も「活かせるか活かせないかは自分の能力次第」と思ってやってます。だから、いろんなところでそれを役立てたい。

今後は「死ぬまで現役でやらなきゃダメ」だと思ってます。お酒も飲まないで節制しているし、私の道楽といったらパチンコくらい(笑)。今は年商3億6千万円ほどなんだけど、10億円はいきたいですよ。ずっと挑戦を、続けていきたいです。

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