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たくさん獲るのをやめたら、儲かって休みも増えた。佐渡のエビ漁に見えた希望

Gyoppy! 編集部

ホッコクアカエビ

世界の漁業は成長産業でありながら、日本の漁業は衰退しているという話をよく聞くようになった。これほど海に囲まれた国は珍しいのに、なぜ漁師は儲からない商売と言われるのだろう

本記事では、その答えのヒントを探っていきたい。

ちょっと古い話になるのだが、2014年の6月に新潟県佐渡市の赤泊(あかどまり)港から出る中川漁業の漁船へと乗り込み、エビカゴ漁の体験取材をさせてもらった。

赤泊の漁師がエビカゴ漁で狙うのは主にホッコクアカエビ。関東あたりだとアマエビ、新潟ではナンバンエビと呼ばれている、すしネタとしておなじみのエビだ。

2018年の11月に再度お話を伺ったところ、漁獲量自体は増やしていないにもかかわらず、エビのサイズが大きくなったことで、キロあたりの単価が上がってかなり儲かっているそうだ。

その鍵となったのが個別漁獲割当(IQ)と呼ばれる資源管理方法。これによって休みも増えて、船員たちの待遇もよくなった。日本の水産資源管理のひとつの貴重な事例として、紹介したい。

深海から水揚げされたばかりのアマエビ
深海から水揚げされたばかりのアマエビ

IQ制度を実施した佐渡市赤泊地区のエビカゴ漁

赤泊のエビカゴ漁は、2011年に日本で初めて個別漁獲割当(IQ=Individual Quota)制度を本格導入したエリアだ

「個別漁獲割当(IQ)制度」とは何か。平たく言うと、獲り放題で早い者勝ちの漁をやめて、漁業者や漁業体ごとに「年間何キロまで獲っていいか」を事前に決めること。水産資源を獲りつくして枯らすことなく、持続的に活用するためのシステムだ。

これはノルウェーをはじめとした海外で漁業を儲かる商売に転換させた資源管理方法のひとつである。

漁場は佐渡と新潟に挟まれた佐渡海峡。このエリアでエビカゴ漁をしているのは、赤泊にある4つの経営体(2019年現在は3つ)のみ。これらの経営体は、IQの試験導入に適した場所ということで、モデル事業として選ばれたそうだ。

選ばれた理由は、他港からの底引き網によるエビ漁との競合がないこと。競合していると、移動範囲の狭いエビは大きく育つ前に網に入ってしまう恐れがある。深海にすむエビたちは移動範囲が狭いため、マグロやサバのように回遊せず、取り残した分がそのままその海に残る。それにより、単価の高い大きなエビへと成長するので漁業規制をする側の漁師にメリットが大きい。

大きさごとに仕分けられるアマエビ
エビカゴ漁はエサを入れたカゴを海底に沈めて、翌日以降に引き上げてエビを獲る漁法。深海と同じ水温にした海水の生簀(いけす)へ、エビの大きさごとに仕分けられる

IQの肝となる漁獲割当量は、まず赤泊の各経営体ごとに、過去5年間の漁獲量実績から一番多かった年と少なかった年を抜かした3年間の平均をとり、その98%を上限にスタートさせた。若干ではあるが平均よりも下の設定値ということは、獲れるだけ獲りたい漁師たちに、我慢を強いる側面もある制度なのである。

IQの導入で変わったこと

このIQが導入されることで獲っていい上限が決められると、漁師側はとにかくエビをたくさん獲ろうという努力から、価値のあるエビを優先して獲るように努力の方向が変わっていく

アマエビは大きければ大きいほど商品価値が高い。そのため、1キロあたりの単価も高くなる。同じ出荷量なら大きなアマエビだけを選んで獲ったほうが儲かるのだ。

そこでカゴの網目を一回り大きいものに切り替えて、小型のアマエビはカゴに入っても逃げられるようにした。大型だけを獲り、小型は逃す。それによって、アマエビ漁が持続可能になる。

エビを獲るカゴ
一回り大きくした網。小さなエビはエサだけ食べて網の隙間から帰っていく

アマエビの値段は相場によって大きく変わってくるため、相場の高いときに出荷したほうがお得だ。そこで相場の高くなるお盆シーズンを狙うため、漁期を8月15日まで伸ばした。

今までは慣例的に7月、8月を禁漁期間にしていたのだが、産卵時期というわけでもない。夏の暑さに対応するための殺菌冷海水供給装置を導入したことも、夏場のアマエビ漁を可能にした理由のひとつだ。

IQの導入にあたっては中小企業診断士による経営状況の調査もおこなわれた。ここで判明したのがひとつの経営体が2隻の船を所有することの負担だった。乗組員の数は1隻分なので船が2隻同時に出るということはないのに、なぜ2隻所有していたのか。それは、1隻あたりのカゴの数が決まっていたからだ。

海へエビカゴを沈める様子
180個のカゴを一連として、錨(いかり)をつけて海底へと沈めていく

たとえば15トンの船なら、1200個までのカゴが許可されていた。海に沈めるカゴの数が多ければ多いほど獲れるエビの数が多くなるため、ひとつの経営体が2隻を交互に出して合計2400個のカゴを使うような形をとっていたのだ。

しかし、IQによって船ごとではなく経営体ごとの獲っていい上限が決まったことで、1隻あたりのカゴ数を制限する意味がなくなった。これまで操業していた船を廃業させた場合、その船が使用していたカゴ数を移譲できるという新しいルールもつくられたのだ。

これにより、すべての経営体が船を2隻から1隻に集約。保険代やメンテナンス代などの維持費が半分となり、経営状況がだいぶ改善された。このように柔軟なルールをつくる行政側の対応が、IQを成功させるカギとなるようだ。

IQを導入して4年目の感想を中川漁業の方々に聞いたところ、全員が導入してよかったという意見だった。海がシケたら無理をせずに休むという選択肢ができたし、他の船との競争意識も薄くなったそうだ。

アマエビ、トヤマエビ(通称ボタンエビ)、イバラモエビ(通称オニエビ)
アマエビ以外にも、トヤマエビ(通称ボタンエビ)、イバラモエビ(通称オニエビ)などが水揚げされる

参考資料:2014年新潟県新資源管理制度評価・運営改善委員会 報告書
http://www.jfa.maff.go.jp/j/kanri/other/pdf/2data3-2.pdf

赤泊地区のエビカゴ漁のその後

ここまでが2014年の話なのだが、2018年の11月に中川漁業の方からふたたび話を伺うことができた。果たして2011年のIQ導入から7年がたち、どのような変化が起きたのだろうか。代表の中川定雄さんは話す。

「IQで各船の獲っていい枠が決まっているんだけど、普通に操業していると今は超過しますよ。だから、抑えて、抑えて。一日に4連(1連にカゴが180個ある)揚げていたのを3連にしたり。それでも前の4連分くらいの量が採れて、網の目を大きくしたからエビも大きくなりました」

中川漁業代表の中川定雄さん
話を伺ったのは中川漁業代表の中川定雄さん。現在は船長の座を弟さんに譲っている

「IQを始めたときに比べて、今は1.7~1.8倍の水揚げ金額があります。最高にいいですよ。できれば、あと少し獲らして欲しいですけど、IQで決まってるしね。どうしても人間、欲がでるけど、ルールがあるから」

ホッコクアカエビ
特別に一箱購入させていただいたのだが、確かにアマエビがでかい!

「どうも相場が安いなーっていう時期はあまり仕事をしない。前はひと月しか休漁期間がなかったんですが、今は9月と海が荒れる2月を丸々休みにしています。休漁の期間は、なんもしない。6名いる乗組員には8割程度の給料を払って休ませます。力いっぱい働かなくても獲れるから操業日数もだいぶ減って、月に20日出るか出ないかくらい。

漁をするのが10か月間で、年間200回も出ていないかな。それでも余裕ができて社会保険も厚生年金も入れるようになった。IQやってないところは苦しいですよ。やってよかったです。赤泊のエビカゴ漁は条件が良かったんですよね。他のところは底引き網とかと競合して話し合いがつかなくて、なかなか導入できていない。ここはそれがまったくなかった」

出荷準備の様子
水揚げされたエビはすぐに氷の敷かれた箱に詰められ、その日のうちにフェリーで新潟へと運ばれていく

「水揚げしたエビは90数パーセントを新潟市場に出しています。赤泊の船はほとんどそうですよ。島内への出荷は若干注文があるくらい。相場は3キロ入りの箱で、高いときは15,000円、安いときは5,000円くらい。

お盆や年末年始などの需要が多い時期は、北西の強風が吹くと、富山や石川の日本海側の船は出られないんです。でも赤泊は漁をする場所が佐渡島の南東にあるので風裏となり、出られることが多い。その場合は、一箱3万円になることもあります」

発泡スチロールに中川漁業のシールを貼る様子
船からは降りたものの、水揚げされたエビのチェックをして箱に中川漁業のシールを貼る役目は、今も中川定雄さんの大切な役割

「IQといっても、水揚げ量などは漁協がレポートをつけてくれるから、大して面倒なことはありません。それでもよそでIQがなかなか根付かない理由は、まず割り当てが難しい。やっぱり上から決められて、これこれこうしなさい、これだけしか獲っちゃダメですよと、上から押し付けられるのが漁師はやっぱりイヤなんですよ。

それに日本の沿岸漁業は、あと何年かやれば終わりっていうような人たちが大勢やっているでしょう。導入するとなれば話し合いや設備の買い替えが必要だから、今更そういう面倒なことは嫌、そんなことしなくていいよっていう意見が結構あるんじゃないですか。資源管理をしたほうがいいというのは、みんなわかっていても、自分たちの代でもめ事の材料を抱えるのは大変ですから」

アマエビ、ボタンエビの寿司
赤泊で水揚げされたアマエビ、ボタンエビを出す島内の寿司屋に行った。佐渡に行くたびに寄っている店なのだが、毎回うまい

「漁師は人手不足、後継者不足と言われていますが、うちは人が足りているし、赤泊でエビカゴをやっている他の船も、乗組員が引き受けて代替わりをしました。こんなにのんきに気楽にやって結構お金になる商売は、この地域にはないですよ。

亡くなった妻が、私の苦労を見ていると子どもを漁師にだけはしたくないと言っていて、せがれは県の職員になりました。今の状況を見ていたら、違ったかもしれませんね。ここはIQで成功しましたよ、完全に」

通常サイズのボタンエビと超特大サイズのボタンエビ
この日は大きすぎて規格外になった赤泊産の超特大ボタンエビ(写真右)があったので、思い切って注文した。といっても一匹1,500円だったのだが
ボタンエビの寿司
エビが大きいので1匹からすしが6貫とれた。もちろん最高にうまい

中川さんの話にもあったが、この導入事例はあくまで、特にIQ制度との親和性が高い魚種や諸条件の場合の話

どちらかといえば特殊な環境であり、この成功事例がそのまま他のエリアに当てはまるわけではないのだが、どんな場所のどんな漁にせよ、その条件を一番生かすことができる資源管理方法を科学的な視点から選び、現場で正しく実行していくことができれば、今よりも漁師がきちんと儲かり、水産資源が継続的に守られていくはずである。

原油や鉱物といった限りある資源と違い、水産資源は上手に利用さえすれば、自然の力で自動的に回復する(海産物だけにもちろん波はありますが)。ただし回復力以上に獲り過ぎたり、成長に必要な環境が無くなれば、海洋資源も当然枯渇する。

長期的な視点による資源管理に基づき、漁師は適正な量だけを一番価値のあるタイミングで獲り、流通業者は適正な価格で仕入れて販売し、消費者が魚のことをもっと理解した上で購入できる状況になって欲しい。

これは部外者によるきれいごとであり、理想論ではある。しかし、筆者は日本のおいしい魚を適切な価格で今後も食べていきたいと願う権利は誰にでもあると考えている。漁業権を持つ漁師の方、そしてルールをつくって漁業生産力を発展させる責任を持つ行政の方々に対して、この一消費者の声が届けば幸いである。

文・取材・撮影/玉置 標本
編集/くいしん

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