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「北九州で、世界と戦う」インスタフォロワー2.8万人! 新時代のすし屋の魅せ方

Gyoppy! 編集部

「劇場型のすし屋」という言葉を聞いて、あなたは想像がつくだろうか。

福岡県は北九州市・戸畑に店を構える「照寿司(てるずし)」。地元の食材を使ったすしのおいしさはもちろんのこと、調理パフォーマンスとSNSの発信力をウリとしている変わり種のすし屋だ。

照寿司(てるずし)三代目の渡邉貴義さん

お決まりの「照寿司ポーズ」をとり、見得を切るのは三代目の渡邉貴義さん。「ほとんどのお客さんはこれを見にやってくるんです(笑)」と気さくに語る。

調理風景がお客さんからよく見えるよう、カウンターに仕切りは存在しない。「魅せる」ことを徹底的に意識した店だ。「#これが照寿司のやり方」「#sushibae」と銘打ったポーズが人気を博し、公式Instagramのフォロワーは2.8万人を超える。

照寿司のインスタグラム
Instagram「#これが照寿司のやり方」ハッシュタグ検索より

発信力を強みとするこの斬新なスタイルはなぜ生まれたのだろうか。渡邉さんにお話を聞いてみた。

お客さん0人からのスタート。「ファンとアンチが半々でちょうどいい」

サワラを捌く渡邉さん

── 照寿司のことを初めて知ったとき、「こんなすし屋があるなんて!」と驚きました。エンターテインメント性の高い今のスタイルに至るきっかけは何だったのでしょう?

開店から50年間、照寿司はずっと「どこにでもある大衆店」という感じでした。そこからまず高級路線に変えたのが6年前。僕が店を継いでしばらくたってからです。回転ずしが増えたりリーマンショック後の不況もあって売上が落ちていたので、あえて逆をいって「正統派の一流江戸前ずしやってやろう!」という思いがありました。

だけど、大衆店がいきなりカウンターにして単価をガッと上げても需要がないわけです。お客さんが1日ひとりとか、1週間ひとりも来ないとか、そういうところからのスタートだったんですよ。本当にゼロからのスタート。毎日もんもんとしてました。

── それでも耐えて、発信し続けたんですね。

地元のいい食材を惜しげもなく使って、地道に発信し続けました。Facebookも最初は「いいね」8件とかだったけど、3年目くらいから「ヤバい店あるね!」と少しずつ評判になり、そういった中で試行錯誤して今のスタイルに至ります。

正直、お客さんのうち8割くらいは、すし以上に「僕と会う」という目的で来てくれてるかもしれません(笑)。

インタビューを受ける渡邉さん

ちょうどInstagramが流行りだした時期と、照寿司の「魅せ方」を考え始めた時期がかぶっていたというのもあります。

── SNSで大評判ですよね。「いいね」の数もすごい。

ただ、ネットを見た感覚では「半分味方、半分敵」くらいですね。いま日本で一番たたかれてるすし屋だと思います。

── そんなにですか?

ええ。アンチがいるのも人気のバロメーターだと割り切って「半々くらいでちょうどいい」と思ってはいますけどね。すしにエンタメ的要素が入るのを好まない人たちから、世界中で「こんなのは、すしじゃない」って言われてる。

でも僕はいま、その「すし」の定義を変えようと思ってやってるわけですよ。僕がやろうとしてるのは世界と戦える「SUSHI」なんです。だから行きたい道を行こうと思ってます。

寿司をにぎる渡邉さん

いまは「すしのおいしさ」プラス「何か」でお客様がくる時代で、たまたま照寿司はその「何か」がエンターテインメントだったというだけなんです。もちろん地元のいい食材を使っているので、味にも妥協はしていませんが。

── ネットでいろいろ言われるのは苦ではないんですか?

もういまはそれが当たり前になっちゃって何とも思わなくなりましたね。でも見たら傷つくので、見ないようにはしてます(笑)。いろいろたたかれても、売れてる東京のすし屋の一流どころなんかは認めてくれてますしね。「売れる」ということがどういうことか分かってるから。

── なるほど。東京と違って「地方のすし屋だからこそできること」もやはりあるのでしょうか?

このスタイルがまさにそうですね。地方だから誰からも制約を受けず、好きにできるんです。江戸前ずしみたいに決められたルールがない。せっかく地方に来たんだからエンタメ的に楽しんで食べてもらいたい、という「照寿司のやり方」でやらせてもらってます。

店を継ぐまで、地元の魚には興味がなかった

握り寿司に醤油を塗る

── 照寿司のお客さんは地元以外の方も多いのでしょうか?

いま正直、福岡県のお客様は数パーセントしかいないですね。おいしい魚が身近にありすぎて、わざわざ高い店に食べに来ないんですよ。だから地元の人ほど、地元の魚の価値や地元の漁師のすごさを知らない。もったいないですよね。

僕自身、すし屋の息子だから魚は食べてきましたが、店を継ぐまで地元の魚には全然興味がなかったです。

── 地元の魚のすばらしさを思い出して店を継いだ......という順序ではなく、逆なんですね! 意外です。

はい。だからこそ「地元の食材で勝負したい」という気持ちはずっとありますね。

「地元の食材をメインに扱う」、それがいま地方に食べにくる意味なんですよ。築地から仕入れた江戸前すし店にばかり行く時代じゃない。地方ならではの独自性があるから、わざわざここまで食べに来てくれるんです。

日本中どころか、いまは外国人のお客様が3割以上ですね。アジアだけじゃなく、世界中からこんな田舎まで来てくれています。

料理人が発信し続けることの意味

サワラの握り寿司完成

── すし屋として、食材を仕入れるときのこだわりを教えていただきたいです。

コミュニケーションをとって、信頼関係で仕入れることですかね。漁師さんとのつながりも大事にしますし、魚屋にも毎日行きますし。藍島の「藍の鰆(あいのさわら)」なんかはまさに漁師さんとのコミュニケーションをきっかけに生まれた食材ですね。

「藍の鰆」を持つ渡邉さん
藍島から仕入れた「藍の鰆」

── 「Gyoppy!」の課題意識として「日本人の魚離れ」というのがあるのですが、家で魚を食べなくなればなるほど、「漁師がどんな思いで魚を獲ってるか」といったことへの興味や、それを知るチャンスがなくなってきているのではないかと思います。

そうですよね。僕はやっぱり、すしがそれを変えるきっかけになれると思っています。すし屋がもっとすしの価値を高めていくと同時に、食材自体の価値も発信し続ける。

今は「あそこであの店のすしが食べたい」だけど、今度はその先の「あそこであの漁師の魚が食べたい」って時代にすればいいんじゃないんですか。だからこそ、「藍の鰆」のような「◯◯の◯◯」というブランドが重要になってくると思います。

インタビューを受ける渡邉さん

── それが漁師や、ひいては水産業全体にもプラスになってくる、と。

「地元のいい魚を地元の有名店が発信する」という意味で、「北九州の照寿司」はすごいモデルケースです。こういう取り組みがもっと広がってほしい。いい魚にちゃんと価値がついて高く売れるようになれば、乱獲して魚の数を減らすこともなくなるじゃないですか。

── なるほど。そういった海の環境や、持続的に魚を獲っていくことへの意識もお持ちなのでしょうか?

そこは僕たちすし屋ではなく行政や漁業組合の領分ではありますが、何かお手伝いできることがあればやります。すしの力、飲食店の力をもっと信じてほしいですよね。僕の場合はすしの力を信じてやってきて注目されるようになったおかげで、やっと言いたいことを言えるようになりましたから。

料理人もアンテナをしっかり持つべき時代

刀でサワラを切る様子

── 先ほど「モデルケース」という言葉が出ましたが、SNSを駆使する照寿司のスタイルはまさに現代にピッタリのやり方ですよね。

そうですね。それも店の発信という意味だけじゃなく、この時代、生産者とも料理人ともSNSで簡単につながれるわけですよ。みんながそれをすれば地方でも必ずすごいイノベーションが起こっていくじゃないですか。それを僕はただ実践しているだけなので、もっと真似してもらいたいです。

── 人と人とがつながっていくツールとして、ちゃんと勉強して使っていくべきだ、と。

Facebookだって簡単につながれますからね。ただ、その生産者さんが全国的に有名になってからメッセージを送るのでは遅い。それなら誰にだってできるわけですよ。「売れる前から応援していく」ってことをしていかないと。

── なるほど、先見の明。自分から情報を取りに行こうという意識ですよね。

そうです! アンテナが大事だと思います。

それとやっぱり必要なのは勇気じゃないですか。文面で「よろしくお願いします」と言える謙虚さと、顔なじみじゃない仕入れ先に対して一歩踏み出す勇気。僕は42歳だからそんなに若くないけど(笑)、若くなくてもSNSは使ったほうがいいと思います。

あくまで北九州で、世界と勝負する

インタビューを受ける渡邉さん

── SNSで世界中の誰とでもつながれる時代で、実際に世界中からお客さんが来ているとおっしゃっていましたが、渡邉さんの中でも「世界に向けて」という意識はあるのでしょうか?

塩をふるポーズが世界中でウケているトルコのシェフがいますが、照寿司のコンテンツもそうなりうると思っています。実際いま17カ国くらいからイベントのオファーもいただいています。

ただ、ありがたいことに香港、マカオ、モスクワ、シンガポールからは出店のオファーまであるのですが、「まだそのときじゃない」と思っています。あくまで僕は北九州の戸畑で世界と勝負したい。それが一番価値が高いじゃないですか。

魚を捌く刀

── 「会いに来れる」場所を増やすのではなくて、あくまでここで......。

ここを根城にして、地の利を生かした素晴らしい食材を使って「ここでしか食べられないよ」「ここでしか見られないよ」と言いたいんです。そういうビジネスがひとつくらいあってもいいじゃないですか。

地方にいれば、地方の一番いい食材を、中央より早く確実に手に入れることができますから。

── 本日お話を伺っていて、「コミュニケーション」がひとつのテーマだなと感じました。生産者とのコミュニケーションと、お客さんとのコミュニケーション。その中で、すし文化や魚文化がきちんと楽しく伝わるのが理想ですよね。

そう思います。「この魚はこの季節、油をこのくらい含んでいるからこの料理に適してる」とか、「どんな思いで漁師が魚を獲ってるのか」とか、みんなが知る機会が増えればいいと思います。

たとえばそういったことを漁師に語ってもらう場をもうけて、魚屋・料理人・消費者が知っていけば地域全体のレベルも上がると思いませんか?

── ちゃんと発信することによって、いろいろな意味で価値が上がっていく。

はい。なので照寿司はこれからも「発信」をテーマにし続けます。「すしでここまで来れる」ということをまずは示せたと思っているので、さらにその先へいきたいですね。

照寿司の暖簾

文章/大島一貴
写真/戸高慶一郎

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