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仕事の「意味」は自分で見出す。顧客満足を追求するクリエイティブ漁師の仕事論

Gyoppy! 編集部

あなたは今の仕事に意味を感じているだろうか?

仕事は生活の手段でしかないのだから、そこに意味を見いだす必要なんてないと考える人もいるかもしれない。けれど、誰にとっても人生は一度きりしかない。単調で意味を感じられない仕事に人生を費やしていいのか......なんて、モヤついた経験がある人もいるのではないだろうか。

では、「意味のある仕事」とは何か。これからご紹介するのは、旧来のスタイルにとらわれることなく、さまざまな工夫と実践で仕事に向き合う人物。石川県七尾市の漁師・順毛弘英(じゅんけ・ひろふさ)さんだ。

順毛さんは高校卒業後、金沢の企業に勤務。ルーチンワークの「単調な日々を過ごしていた」が、釣り好きが高じて、友人が在籍していた定置網漁の会社にスカウト。入社から3年で、船のリーダーである漁労長になった。

若い漁師達をとりまとめるなどリーダーシップを発揮しながら、漁の経験を重ねる順毛さん。魚の体に"死んだことを悟らせない"「神経締め」の技を習得するなど勉強にも励み、個人店を中心とした顧客のニーズに応えるきめ細やかなサービスで信頼を積み重ねてきた。

さらに、今までは値がつかずに捨てられていた魚を加工する商品開発で六次産業化(※)も実践。過疎化や一次産業の後継者不足が深刻化している能登半島で「農業・漁業に携わって働き、暮らす人を増やす」ため、仲間たちと若手漁師・農家・シェフをつなぐコミュニティ「能登F-F Network 」も立ち上げた。

「魚を獲って、市場に卸す」ことが一般的な漁師の仕事だとしたら、順毛さんの働き方は実に主体的でクリエイティブ。順毛さんは漁師という仕事にどんな意味を見いだしたのか。

漁師の固定化した価値観にも問いを立てる、その仕事論に迫った。

※六次産業化/第一次産業が食品加工・流通販売にも業務展開している経営形態のこと。生産物の価値を高め、農林漁業者の所得を向上させる狙いがある。

「やらなくてもいい」をあえてやる

── まずは、順毛さんが実践している「神経締め」について教えてください。都会の一般的な消費者にはあまりなじみのない言葉だと思うのですが。

生き物はみんなそうなんですけど、頭から尻尾の方に向かって神経が通っているんです。その神経に針金で穴を通す。何が起こるかというと、身の方に「死んだ」という脳からの信号伝達が止まります。つまり、死後硬直が遅れます。これが「神経締め」です。

この死後硬直の遅れを計算して、僕は獲った魚を東京で取引している飲食店に送ります。お店につくときに死後硬直が起きるイメージで締めるんです。それをしないで送ると1日早く死後硬直することになるので、お店の方で使える期間が変わってきます。鮮度の良い状態で長く使えた方がお店にとってもいいですし、ロスにもつながりにくい。

魚種にもよりますが魚って、獲れたてよりも寝かせた方がうまいんですよ。死後硬直が進む過程でイノシン酸がでてくる。「神経締め」によってゆっくり寝かせることには意味があるんです。「神経締め」自体はそれほど特別な技術ではなくて、漁師なら大体みんな知っています。要は、そこまでやるかやらないかってことなんですけど。

順毛さんの「神経締め」は魚の脊髄に針金を通して「神経をこそげとる」

── でも順毛さんはやるわけですよね。それはなぜですか?

お客さんに喜んでもらいたいからです。常連のなかには「おたくの魚しか使えないよ」と言ってくれる人もいます。そうした技術の積み重ねで、僕は自分の仕事に自信を持つようになったし、やりがいを感じてきたんです。

それに漁師という仕事は、ここからここまでと決まっているわけではありません。お客さんにおいしい魚を提供するためにやれることがあるなら、やりすぎだと思われるくらいやりたいと考えています。

だから僕は神経締めを行う前に、エラに包丁を入れて血抜きもしっかりやります。血抜きをやらないと臭みにつながるからです。そこまでやってもまだ終わりではなくて、温度管理も大事。冷やしすぎると死後硬直を早めるので、箱の氷を調整して約10℃くらいになるようにして、丁重に梱包(こんぽう)します。

さらに梱包した箱のなかに温度計を入れて、出荷先に着いた時点で温度がキープされているかもチェックしています。時間がたってもおいしくて、臭みが少なくて、使いやすい魚。それを追求してきたら、お客さんが付くことはあっても、離れることはなくなったんです。

── 顧客満足を追求していますね。

仕事ってそういうものじゃないですかね。ただ、僕のような仕事のやり方は異端で、漁師本来の仕事ではないと考える人もいます。

確かに鮮度は保たれるけれど、そんな手間をかけている暇があるなら、さっさと魚を選別して市場に出してお金に換えればいいじゃないかって、言われますよ。「漁師は魚だけ獲っていればいいんだ」ってね。

それに魚に穴を空けたり、包丁を入れたりしたら市場価値は下がります。僕はお客さんと直接取引をしているから問題はないんですが、市場を相手にしている漁師さんからしてみれば、理解できないことをしているように見えるんでしょう。

── どうして市場を通さず仕事をするんですか?

お金だけを目的に仕事をしているわけじゃないからです。

それに獲ってきた魚を市場に出すだけじゃ、お客さんの喜ぶ声は聞けないじゃないですか。もちろん、市場だけを相手にしている漁師の働き方が悪いと言っているわけではありません。僕は顔を知っているお客さんと直接やりとりをして、そのお客さんを喜ばせるダイレクトな仕事のあり方におもしろみを感じるというだけです。

ただそれができるのは、魚を獲ってくるところから、加工、販売、流通までを一貫してやっていることもある。お客さんと直接つながることができる関係性を作ってきたんです。

その関係性を生かして、お客さんが求めている魚を最高の状態で提供する。そうして信頼を積み重ねていく。ファンを増やしていく。目の前にお客さんがいるわけですから、手間をかけて悪いことは何もないでしょう。

定置網漁は「どうやるか」が問われる

── 定置網漁についても教えてください。

定置網漁っていうのは、漁業権を持っている海域に大きな網を沈めて、そこに回遊してきた魚を獲る"待ち"の漁です。僕らが漁をしている富山湾は、一年中その定置網で操業できるんですが、そういうところは全国でも多くありません。

網の大きさは横幅が500メートル、陸から沖に向かって縦方向に伸びている網は1キロ近く。何層にも分かれていて、奥に進めば進むほど狭く、入った魚が出にくい構造になっています。魚はものに伝って泳ぐ習性があるので、それを利用しているんです。

定置網の図。魚が最初に入ってくる一番広い網は「運動場」と呼ばれる。奥に行けばいくほど狭くなっている。

で、一番奥の網は「金庫網」と言うんですが、何でそう呼ばれているか分かりますか? タイミングを見計らって入り口を閉じて、魚が出られないようにするんですが。

── 金庫ってことは、何かお金に関係しているんでしょうか。

金庫網というのはつまり、獲った魚を一時的に飼っておく生け簀(す)なんです。その分かりやすい例が、氷見漁協の「ひみ寒ブリ宣言」です。これはブリ漁が盛んになった時期を知らせるもので、冬になるとニュースになります。実はブリってこの「ひみ寒ブリ宣言」に合わせて、漁師が出荷調整しています。

「今日も大漁で『ひみ寒ブリ宣言』が出ました!」なんて報道があれば、全国的にも需要が湧きます。そのタイミングで、漁師は金庫網からちょっとずつブリを出して出荷量をコントロールするわけです。需要の方が供給よりも大きい状況なら、値段はどんどん上がっていきますよね。その時期だけで、5億円以上売り上げる漁場もあります。

── 巧みな戦略ですね。利益率も高いんでしょうか?

高いですね。定置網漁は船と網さえあれば、あとは油代と人件費、メンテナンス費くらいしかかからないですから。ただ、ブリをたくさんとるような漁場の網は、僕らの網の倍以上の大きさはあるので、ひとつの網を買うのでも5億円以上かかります。

船も一艘、1億5千万円はしますし、しっかり稼ごうとするならそういう船が5~6艘も必要だったりする。ちょっとした網のメンテナンスでも数千万円が飛んでいきますよ。

── 初期投資にお金がかかると。天然資源が相手ですし、ある意味ギャンブルですね。

ギャンブル要素はありますね(笑)。だから、ちゃんと収益を出せないと大変なことになる。市場のコントロールをして、ちゃんと稼げるようにすることには意味があるんです。

ただ、だからといってお金さえもうかればいいということでやっていたら、乱獲にもつながりますし、生態系のバランスも崩れる。実際に問題のある獲り方をする人も後を絶ちません。

── 問題のある獲り方というと。

例えば、産卵時期のマグロを獲っちゃうと、稚魚が増えないじゃないですか。マグロは絶滅危惧種なので、国でも規制がかけられているんですが、そういうのを無視して獲る人がいるんです。それは定置網の人にも多い。一度網に入った魚を外に出すっていうのを、いやがるんです。魚がお金にしか見えないんでしょうか。

参考:持続可能な漁法って? 那智勝浦で聞いたマグロの今

── 根が深そうですね。

以前、ある定置網でしたけど、一年間で獲っていいとされている量のマグロを一日で獲ってしまったんです。そういうことがあると需要と供給のバランスが崩れる。漁師みんなの稼ぎにも影響が出てくるんです。

自然の恵みをいただくのだから、どうやったらみんなの利益につながるかということを考えないといけない。そうやって、漁師の収入も上げる努力をしつつ、未来に向けた資源管理をしていく。そのあたりのバランスをどう取っていくかが課題ですね。

"質"を重視する漁業に

── 漁業就労者人口の減少が問題となっています。そもそも定置網漁を新たに始める人はどのくらいいるのでしょうか?

漁業権を持っている定置網会社に就職をして漁を始める若い人は最近少しずつ増えている印象です。ただ、そこから独立して新規で開業するとなると、資本力が必要ですし、漁業権の問題もあってなかなかむずかしいです。

というのも、漁業権は知事認可を受けた漁協が管理していて、地元の漁業者に優先的に割り当てているからです。過去の実績や地元の漁師との関係性がないと、漁業権はまず譲ってもらえません。

── では、漁業権がもっとオープンに開かれていたらいいと思いますか?

漁業権が誰にでも開かれていたら、経験の浅い漁師が海を荒らすことにもなりかねません。それはそれで問題が出てくると思いますよ。ただ、新規参入のハードルが高すぎるのも課題。漁業の価値観が固定化しているところは考えないといけないでしょうね。

古い考え方の漁師も多いですし、僕みたいにあれこれやるのをよく思わない人もいる。目先の利益を追求するような自己中心的な考え方で漁をする人もいますし、仕事に対するそもそもの意識を変えていかないと漁業の未来はないと思います。

── じゃあ、単純に若い漁師が増えればいいという話でもない?

固定化した価値観のなかに安住しているだけの漁師を増やしても意味がないでしょう。僕も昔、工場で単調な作業を繰り返しているだけで、仕事のあり方に無自覚だった時代があるのでそれはなおさら思います。

ただ、漁業の未来を考えるなら、漁師だけじゃなくて同時に消費者も変わらないといけないでしょう。

例えば乱獲とまではいかないまでも、大量に獲ってきて大量に卸される魚の多くは、適切な処理がされていません。想像してもらうとわかると思いますが、大量の魚をいっぺんに獲ったら、網のなかで魚同士がお互いの重みでつぶしあうことになります。

スーパーに並んでいたり、居酒屋で出されるマグロの刺身に赤い斑点が見られることがあると思うのですが、あれは雑に獲ってきて、雑な処理をされた魚によく見られる血栓なんです。

── 自分が食べているものの「背景」を知らなくていいのか、というのは現代のひとつの問いですね。

それでも「おいしい」と言って食べる消費者を否定するわけではないんです。

でも、適切に処理をされた魚はもっとおいしい。だから、機会があれば食べてもらえたらうれしいです。消費者がいいものを求めれば、漁師もいい仕事をせざる得なくなります。

漁師の未来を背負うつもりはないけれど、考えなければならないことはたくさんあると思っています。自分のできることに最善を尽くして、お客さんを満足させることはそのひとつ。これからもちゃんと自分なりの意味を感じられる仕事をしていきたいですね。

※取材は2018年9月2日。その後、順毛さんはさらなるチャレンジのために、別の会社に転職しています

文:根岸 達朗
編集:徳谷 柿次郎、くいしん
写真:木村 昌史

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