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キレキレに踊る、ゆるキャラでPR。地元の危機に立ち上がった若き漁師たち

JF全漁連

リアルなカンパチ頭にスーツ姿の「かのやカンパチロウ」

錦江湾の南東部、鹿児島県鹿屋(かのや)市は市町村別のカンパチ生産量で全国第2位を誇る。しかし経営は厳しい状況が続いている。そこで後継者世代の若者たちが「もっと漁師が発信して、販路も広げていこう!」と立ち上がった。派手な「カンパチつかみ取り」のイベントを市内、博多、そして東京でも開催し、鹿屋ブランドのPRに奔走。イベントとセットで飲食店などへの販路も着実に獲得してきた。さらに「現場を見てもらおう」と食品や飲食などの業者を積極的に漁場の見学に誘い、「顔の見える関係」を地道に築き上げている。

10年先を明るくする発信を

「なんじゃこりゃ?」。動画投稿サイトを見て思わずうなった。リアルなカンパチ頭にスーツ姿の「かのやカンパチロウ」が、応援ソングに合わせてキレキレのダンスを踊り、跳ぶ。かなりの破壊力だ。その後ろで、恥ずかしさを吹っ切ったように踊るのが、青年部のメンバー。「かのやカンパチ」PR作戦の口火を切った若き漁師たちだ。

それまで「漁場と家を往復するだけの日々だった」という彼らを突き動かしたのは、「今のままでは、自分らの漁業には10年先がない」という強い思いだった。JF鹿屋市青年部のメンバーは30~40歳代の11人。いずれもカンパチの養殖を営む後継者世代だ。

鹿屋市のカンパチ生産量は全国2位だが、全国的に生産量は20年前の3分の1に減少。鹿屋市の経営体も34から9に減り、水揚げ金額は79億円から42億円に落ち込んでいる。

浮沈式の養殖いけす
浮沈式の養殖いけす。海が荒れると水深8mほどに沈めて魚を守る。

先行きに"もやもや"を抱えていた4年前のある日、青年部長だった鵜瀬(うのせ)洋介さん(35)は市内の飲食店でたまたま「鹿屋でカンパチ養殖? 知らなかった」という声を耳にする。「かのやカンパチ」は、市内名所のバラ園にちなみバラのエキスを与えていることが"売り"だというのに。「すごくショックでした。地元でさえ知られてないんだと」。

この衝撃が発火点となり、青年部全員が「自分たち漁師が積極的に発信しなくてはダメだ」と、思いをひとつにした。そんな若者たちの背中を、皆倉貢組合長(72)が「思いっきり好きなようにやれ」と、力強く押してくれたのだった。

皆倉貢組合長
就任9年目の皆倉組合長。後継者世代を応援しJFの経営改善に腕をふるう

イベントの実施で自信

でも、何をどうしたらいいのだろう――。青年部では「発信」をテーマに模索を始めた。求める気持ちがあれば、応じる相手は見つかるものだ。やがて地元の焼酎メーカーから感謝祭での「カンパチつかみ取り」のオファーが舞い込む。

これが青年部にとって初の大きな"発信"イベントとなった。しかし予算はないのですべて手づくりだ。苦心したのは、会場となる仮設プールの設置。あれこれ悩んだ末、酒ビンのケースを正方形に並べ、これを枠にしてビニールシートを敷き詰めた。プールに入れる海水とカンパチは活魚車で搬送。終了後は、海水を再び活魚車に吸い込んで撤収する。

遠くには開聞岳(かいもんだけ)
開聞岳(かいもんだけ)を対岸にのぞむ鹿屋の養殖漁場

つかみ取りの参加は、おもに小中学生の先着100名とした。子どもは学年別に分け、大人は10人1組に対し4kgのカンパチ3匹(浜値で5千円相当)をプールに放す。料金は保険料込みの千円。めでたくカンパチをつかんだ人には、JFの加工所でさばいて後日届ける。つかめなかった人にも、青年部員が自ら釣ったアジやサバなどの参加賞を配った。

「多くの人たちに喜ばれ、かのやカンパチのPRは大成功でした。また、自分たちが『これだけやれた』という達成感も大きかったです」と、現青年部長の柿内誠さん(36)はいう。青年部のメンバーたちが、大きな自信を抱いた画期的な出来事でもあった。

鵜瀬洋介さん(左)と柿内誠さん

派手なイベントは営業ツール

この成功の後、PR作戦は急展開をとげていく。キーのひとつが市職員の参画だ。農水省の食品流通課から出向した当時の副市長に東京の音楽家を紹介され、まず応援ソングを作成。市職員のダンス部が振りをつけ、歌うのは同じく市職員のアイドル風ユニット。次いでキャラクター「かのやカンパチロウ」も誕生した。カンパチ頭のリアルさが「キモかわいい」と人気だ。動画でプロ並みのダンスを披露しているのは、ダンス部の職員だという。

こうして歌・ダンス・ゆるキャラがそろった4年前の夏、ついにPR作戦は市外に飛び出す。博多駅前広場でのつかみ取り、その名も「カンパチジャック」だ。生きている大きな魚と触れあえるとあって、2時間のゲリラ的なイベントに2500人の見物人が集まり、200人がつかみ取りに参加。マスコミにも取り上げられて大きな話題になった。

カンパチロウの後ろで踊る青年部のメンバー。人前で話すことにも慣れ、堂々たるもの(JF鹿屋市提供)

話題性だけではない。じつはこの企画には、新たな販売の戦略が隠されていた。つかみ取りの応募チラシは食品卸業者を通して博多の飲食店に置かせてもらい、その縁で飲食店との販売契約を導こうとしたのだ。話題性だけではなく、ねらい通り飲食店への販売という"実利"でも成果を上げ、市外初のこのイベントは成功を収めた。

市職員の参加でヒートアップ

博多の成功ではずみをつけ、次に「カンパチジャック」は東京を目指した。語呂合わせで環状8号線(通称カンパチ)が通る地域を当たるうち、狛江市役所の食堂を運営する飲食チェーンの仲介で、狛江市からの招待が決まった。このケースでは、仲介した飲食チェーンのルートで都内に販路が広がった。

多くの人で賑わうイベント会場
狛江市での「東京カンパチジャック」は今年も実施された。イベント前後には飲食チェーンでカンパチフェアも開催(JF鹿屋市提供)

PRの仕掛けはさらにヒートアップ。副市長の働きかけで2016年から2年間、大阪の芸能プロ所属の女性芸人が地域おこし協力隊として着任。テレビやラジオの番組出演、イベントの司会進行、自ら包丁をふるうカンパチ解体ショーなど多方面で活躍した。

他にも、商工会と連携してエントリーした県の料理大会で、カンパチのリゾットが優勝。市内の飲食店や一時はコンビニでもレシピが商品化された。販売の面でも、青年部のPR作戦が直接的に開拓した販路の売上金額は、昨年度は7千万円近くにのぼっている。

生簀から魚をあげる様子
JFを通して大手スーパーに毎日出荷している

漁場見学と交流で「開かれた漁協」を

熱気に満ちた3年間が過ぎ、副市長も女芸人も鹿屋を去った。そして今、鵜瀬さんは「10年先が見えない現状は、まだ劇的には変わらない」と辛口だ。カンパチ養殖の経営はどこも採算ギリギリラインだ。その背景には、飼料や稚魚などを一手に販売する問屋が育った魚を買い取るという、構造的な課題が横たわっているからだ。「えさの仕入れ値もカンパチの売り値も、生産者には決定権がない」と、鵜瀬さんと柿内さんは口をそろえる。

「だから漁協が問屋より高く買えるよう、直接販売の努力をしているんです」と、皆倉組合長が言葉を継ぐ。「青年部のPR活動の効果もあり、現在生産量の3割を漁協が扱うところまできました。倒産した養殖業者の借金のこげつきもほぼ解消しました」。

イベントとは別に「次の一手」の可能性で光を放つのが、これまで青年部が地道に行ってきた養殖現場の案内だ。派手なイベントの陰で目立たないが、カンパチに興味をもつ食品卸や小売、飲食業者、さらには教育関係者を積極的に見学に誘い交流しているのだ。

見学を案内するJF筆頭理事で青年部副部長の田村真一さん(左)。昨年夏には、廃校を活用した民泊事業が始まり、養殖見学は体験プログラムの柱になっている

販売にはストーリー性が必要だとよくいわれるが、漁師に船で漁場へ案内され、生産の過程を見聞きする体験は、極上のストーリーとなりうる。見学によって鹿屋のカンパチは、「あの漁師があんな努力で、あの美しい風景の海で育てた特別な魚」になるのだ。

鵜瀬さんも柿内さんも、「見学者は予想外のことでわーわー喜ぶので驚きました。消費者が何を気にするのか勉強になりますし、いろんな人との出会いは楽しいです」と、目を輝かせる。「開かれた漁協」を目指す皆倉組合長に背中を押され、青年部はこれまでチャンスがなかった消費側との交流を味方に、新たな地平に向かって歩んでいる。

「COME ON!PARTY!かのやカンパチ!」公式MV(フルver.)は、こちら

  • 文・取材・撮影大浦佳代

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