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豊かな未来のきっかけを届ける

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「甘さが違う」「何コレ? おいしい!」魚の質を高める、船の上の飽くなき挑戦

TRITON JOB

船上で網を手繰る誠二さん

1月某日、朝4時。まだ夜が明ける前から、港では船のエンジンが鳴り響いています。
ここは石巻市鮫浦湾。
大きなタンクを船に運び入れ出港の準備をしている大柄な男性がいました。
阿部誠二さん。この「栄漁丸」の船頭です。

夜明け。地平線がうっすらと赤い。

父、忠雄さんと一緒に出港。
冷たい風を受けながら、船を沖へ進めていきます。港では静かだった水面が、うねりを持ち水しぶきをあげます。
網を仕掛けているポイントに到着すると、早速機械を使って網を引き上げます。

網を引き上げる

次から次へ揚がってくる魚を瞬時に網から外し、的確に仕分ける。その様子はまさに父子鷹。
忠雄さんは誠二さんの師匠であり最高のパートナーなのです。

網を揚げ終えたところで、誠二さんはタラの手当てを始めました。船の上で神経締め(※)と血抜きをする、「船上放血神経締め」です。
彼のタラは高級料理店やこだわりのレストランで愛されています。

(※)神経締めとは、神経を破壊して脳からの「死んだ」という信号伝達を止めることで、死後硬直を遅らせて鮮度を保つ方法

網から魚を外していく

「誠二君のタラはいままでのタラを覆すものだったよ。甘さが全く違う。」
そう語るのは、宮城版ミシュランにも掲載された「四季彩食 いまむら」の今村さん。
誠二さんが獲って処理をしたタラを受け取って、料理のバトンをつなぐ料理人です。

「四季彩食 いまむら」の今村さん

「一般的なタラは足がはやい。白子も洗うと水が濁ったりするけど、誠二君のタラは数日間熟成もできるし、白子の状態も抜群に良かった。」

今村さんは毎年、冬の時期にはタラを使った料理を作っています。様々な表現を可能にするのは、やはり丁寧に処理され、なおかつ共に切磋琢磨している誠二さんのタラだからこそ。

タラの天丼

「彼はタラの状態や味のチェックによく店に来てくれるんだ。自ら味を確かめに足を運ぶ漁師なんてそうそういない。彼は本当に勉強熱心だよ。」

誠二さんがタラの「船上放血神経締め」を始めたのは5年前。
近年タラを獲る船が増えたため、タラの漁獲量はあがり、魚価は下がってしまいました。魚体の大きいものを選別したり、生きたまま市場に卸したりという工夫をしても、努力も虚しく、値段は変わらず、誠二さんは危機感を抱いていました。
そんな時に出会ったのが、株式会社ダイスイの大森さんです。
活魚屋でありながら、量を獲る漁業から質を高める漁業への転換に挑戦する神経締め師でもあります。

株式会社ダイスイの大森さん

「自分は魚屋だから、消費者に美味しい魚を届ける、ということがミッションだと思ってる。
上質な魚を届けるには、船の上で血抜きなどの処理をするといいと考えて、時々漁について行くんだ。誠二君は船に一緒に乗せてほしいと頼んだ時に一番快く受け入れてくれたんだよね。」

船上で漁の様子を見学する大森さん

誠二さんは大森さんからの「タラを船の上で神経締めなどの処理したらどうだろう、俺がちゃんと値段をつけるから。」という言葉に後押しされ、タラの神経締めを始めました。

大森さんは当時を振り返ってこう言います。

「彼、もともと向かうべき方向性が一緒だったからか、俺がやろうとしていることをすぐに理解してくれたんだ。神経締めやってみない? って頼んだら、すぐに自分で研究して技を磨くようになったんだ。」

「お父さんも実はすごい人。俺たちの親世代は、『一匹の魚にかける時間があるなら、一本でも多く網を海に入れろ』というタイプの人が多い。けれど、誠二君のお父さんは俺たちの試みを聞いて『そうか。どんどんやれ。』と言って後押ししてくれる。そういう人はなかなかいない。二人とも、ニュータイプの漁師だよ。」

ニュータイプの漁師、誠二さんのお父さん

誠二さんは初めて船上放血神経締めをしたタラを出荷した時のことを振り返ります。

「初めて自分の処理したタラが『何コレ? おいしい!』と言われた時、すごく嬉しかった。もっとこの技術の精度を上げていきたいと思ったんだ。だから続けているんだと思う。」

一回の漁で、船上放血神経締めができるのは多くても15尾ほど。それゆえ、目利きの技量も問われます。
「タラの神経締めを始めて5年目。ちょっと慣れが出てきたからか、他の神経締め師から駄目出しされちゃって。このぐらいでいいかな、というレベルでやっていた処理を、ちょっと気をつけるだけで全然違った。だから、もっとシビアにやったらさらに質が上がると思う。」

大森さんも、誠二さんの上を目指す姿勢について語ります。
「一回注意したことあるんだよ。『誠二君、タラの血を抜きすぎだよ』って。
白子はすごく良くなるけど、味が淡くなっちゃう。血を抜きすぎず、残しすぎず、その中間があるよねって言ったら、ちゃんと応えてくれたんだよね。
普通の漁師なら面倒くさがるんだけど、彼は違った。その謙虚な姿勢も彼のいいところだよね。」

おいしい、の一言をもらえるのが一番、と語る二人。その裏には彼らの飽くなき技の探求がありました。

タラをもつ二人

これからの地域や漁業のために

「栄漁丸」では暖かい時期はホヤの養殖を行っており、そこでも研究熱心な彼の仕事が感じられます。
3年前の夏には潜水士の資格を取り、鮫浦の青年部の副部長としてナマコ漁を始めるなど、積極的に新しいことにもチャレンジしています。

ホヤ

「この地域への貢献や活性化は、俺たちの世代が担う番だから。盛り上げていきたいよね。だから青年部のみんなをもっと色んなところに連れて行って、いろんな漁師や消費者に会って、それでちょっとでも何かが変わればと思ってる。タラのことに関して言えば、同じくらいの世代のやつらが気付いて、やりたいと思って。
自分がやってる仕事の1割でも、0.5割でもいいから、時間を割いて品質向上に取り組んでくれたらいいね。」

誠二さん

誠二さんは水産業の担い手を増やす取り組みにも積極的に参加しています。
「漁師を増やす、と一言で言っても、難しいところがたくさんある。漁業権の問題から、地域性の問題。折角入ってきてくれても、定着しないこともあるし。
先輩漁師が、新しい人を受け入れる体制も整えていかなきゃいけない。こちら側も変わらなきゃいけないところがあると思うんだ。
漁師に興味のある人はとりあえず現場に来て、仕事を見て、体験することから始まるんじゃないかな。そういうチャレンジは大歓迎。いつでもお待ちしてます。」

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