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世界ホタテ釣り選手権大会!? 本気の遊びが町と漁業を熱くする

JF全漁連

ホタテ釣り選手権

北海道豊浦町は、噴火湾におけるホタテガイ養殖発祥の地。とはいえ豊浦産がブランド化されることはなく「噴火湾産」に埋もれていた。

ところが商工会青年部の遊び心から生まれたホタテ釣り競技が、思いがけず大ブレーク。マスコミに度々登場し「豊浦ホタテ」は知名度を上げた。7年前にはJF(漁業協同組合)、町、商工、観光、JA(農業協同組合)でホタテ釣りの協会を設立し、町内での3種目の定期大会のほか、イベント出張や団体旅行客の受け入れにも発展。

漁業は町の基幹産業だが、町民みんなの「誇り」として地域を盛り上げている。

噴火湾での養殖発祥の地

「まさか、ホタテ釣りがこんなにヒットするとは思いませんでした。おかげで豊浦産ホタテは有名になって、漁港にも取材が入ることがあります。本当にうれしいですね」。JFいぶり噴火湾豊浦支所の高田大輔支所長(42)は、こう感慨深そうに話す。

高田大輔さん
JFいぶり噴火湾豊浦支所長に就任して3年目の高田大輔さん

JFいぶり噴火湾は2003年に1市2町のJFが合併。洞爺湖町に本所、伊達市に2支所、豊浦町内に豊浦支所と礼文支所とがある。

豊浦町内の漁家数は59戸で組合員数は103人。ホタテガイなど貝類養殖を営む漁家が46戸と8割を占める。2017年度の水揚げ金額はおよそ28億円。内訳は貝類養殖が23億7000万円、その他の漁船漁業が4憶3000万円となっている。漁船漁業ではJF自営2カ統(大人数で操業する定置網一式を1カ統と数える)を含む定置網漁によるサケ・マスが3億円のほか、カレイやタラ、ウニなどがある。

ホタテガイの養殖が始まったのは53年前。「若手漁業者たちの取り組みだったそうです。漁の網に天然ホタテの稚貝が付くことや、漁船漁業の不振などが挑戦のきっかけだったと聞いています」。そう語るのは、ホタテ養殖発祥の碑がある礼文支所の木村幸弘支所長(46)。前豊浦支所長で、ホタテ釣りの立ち上げを支えた人でもある。

ほたて養殖発祥の地とかかれた石碑

「でも消費者には発祥の地など関係なく、ひとからげに噴火湾産ホタテ。10年前には『豊浦ホタテ』なんて言葉も使われなかったですよ。そう思うと、ホタテ釣りの力は絶大ですよね」。

遊び心が地域振興の起爆剤に

そもそもホタテ釣りイベントを思い付いたのは、商工会職員で青年部の事務局だった岡本貴光さん(41)。現在は豊浦町役場の職員として、昨年7月に発足したばかりの一般社団法人噴火湾とようら観光協会の事務局長を務めている。

岡本貴光さん
「ホタテ釣り」の商標登録も取得し、地域資源をPRする岡本貴光さん

「ある時、水槽のホタテを何気なくボールペンでつついたら、パクッと殻が閉じて釣れたんです。あ、面白いな、イベントでホタテの釣り堀はどうだろうと思ったんです」。しかし「ホタテを遊びに使ったら漁師さんに失礼だろうか」とも思った。

そこで岡本さんは、ホタテガイに親しむという趣旨の企画書をつくり、豊浦支所を訪ねたという。「うれしいことにホタテのPRになるならとご快諾いただき、水槽や殺菌海水も手配してくれたんです」。JFのこの姿勢が、その後ホタテ釣りを伸ばしていく下地となっていった。

2年後、転機が訪れる。豊浦町出身のボクサー内藤大助氏がWBC世界フライ級チャンピオンに輝いたことで町内は盛り上がり、ホタテ釣りを「競技」に仕立てる案が出たのだ。「やるからには本気で作り込もう」。岡本さんたちは公式ルールを定め、ホタテ釣りの「世界観」のようなものを生み出した。

チャンピオンベルト
手作りのチャンピオンベルト。WBC ならぬWS(scallop)Cの遊び心が楽しい

こうして迎えた08年の第1回大会の募集50人は、何と2日で埋まった。しかも全員が札幌など町外。メディアが食い付き、大手スポーツ紙の北海道版やラジオで取り上げられたためだ。おまけにサッポロビールの協賛まで付き、鳴り物入りのイベントとなった。

町ぐるみの体制作り

大会は大盛況。しかもその反響は予想だにしない規模で広がっていった。各地からイベントに呼ばれるようになったのだ。当初はサッポロビールのイベントが多く、東京の恵比寿ガーデンプレイスにも呼ばれた。中には「豊浦フェア」としてホタテガイや特産の豚肉やイチゴなどの販売がセットになることも。木村さんは出張イベントにもよく足を運び、「東京にも毎年行きましたよ。お客さんの笑顔がうれしかったですね」と、振り返る。

やがてJTBも協賛に加わり、ホテルへの出張や海外からの団体客が豊浦町でホタテ釣り体験をする旅行商品も登場した。ホタテ釣りは単なるイベントの出し物の域を超え、町の産業を盛り上げるツールへと成長していったのだ。

大きな水槽にホタテ貝がいっぱい。

こうなると商工会青年部とJFだけでは手が回らない。そこで12年に「TOYOURA世界ホタテ釣り協会」を設立。商工会、JF、町役場、NPO豊浦観光ネットワーク、JAが参画し、各職員が動くようになった。それでも出張イベントでは手が足りず、町民サポーターを公募。現在、30~40歳代を中心に30人ほどが登録しているという。

「活ホタテの扱い、海水の調整、ジャッジ、進行、すべて任せられる"豊浦町産ホタテ愛"いっぱいの人たちです」と岡本さん。ホタテ釣りは、名実ともに町ぐるみの事業になったのだった。

大人の本気の相乗効果

13年からは、団体戦と小学生対象のジュニア大会も始まった。ジュニア大会は町内の子供たちからの要望だ。これほど人びとを魅了する大会は、いったいどんな雰囲気なのだろう。昨年秋の団体戦をのぞいてみた。今回は38の応募から抽選で選ばれた19チームと北海道テレビの女子アナチームが参戦。予選は4ブロックの総当たり戦で、3分間で多く釣った方が勝ち。8チームが決勝トーナメントに進める。

壇上で実施される競技を観客が応援している
応援が盛り上がる競技。リレー式の団体戦でも3分間に最高で10枚釣れた

会場には応援の家族や仲間が詰め掛け、コスプレやそろいの自作Tシャツが目立つ。むむ、こういう乗りだったのか。とにかく熱い。札幌とその近郊からの参加が半分以上で、豊浦町の近隣からが4チーム。職場の同僚チームが多く、釣り仲間やマラソン、テニス仲間というチームも。地元からは、学校の教職員チームと中学2年生女子3人組の2チームが出場していた。中2女子はジュニア戦王者の猛者たちで、1人は漁師の娘さんだという。

競技のルールはけっこう厳しい。協会手作りの公式釣り具を使うが、さおの先の方を持つこと、糸をさおに巻いて短くすることなどの違反項目がある。面白いのは「活きの悪いホタテだな」などと豊浦のホタテガイを侮辱する発言も違反。違反すると殻を黄色く塗った「イエローホタテ」をジャッジがかざし、15秒間の競技停止となる。

優勝した札幌の女性チーム
運営の町民サポーターと、優勝した札幌の女性チーム。優勝賞金は10 万円、副賞は活ホタテガイ365枚

細部まで手抜きのない作り込みで、まさに"大人の本気の遊び"だ。「参加者が本気だから、こちらはそれ以上の本気で応えなくては」と岡本さん。
競技はホタテの活きが最大のポイント。釣れなくては試合にならないのだ。そのため、漁師には水揚げから特別に扱ってもらい、海水温や塩分濃度、移動中のケアはスタッフが徹底しているという。

知名度を販売につなげるために

中2女子チームは惜しくも予選敗退だった。でも「ホタテ釣りにはコツがあり、練習してマスターするのが面白い。来年またがんばります」と、元気いっぱい。そして楽しいだけではなく、ホタテガイ養殖漁師の娘さんは「家の漁業の仕事を誇らしく思う」と言い、他の2人も「豊浦のホタテが身近になりました」と話してくれた。

豊浦中学校2年生の女子チーム
豊浦中学校2年生の女子チーム。来年こそ優勝を目指すと、元気いっぱい

町では今、観光協会設立に合わせて体験型観光に力を注ぐ。漁業ではホタテガイ養殖のガイドツアー、体験付きのホタテガイとサケのオーナー制度などが軌道に乗りつつある。その重要な受け皿がJFだ。豊浦支所では、荷さばき所でのホタテ釣り体験や市場見学を受け入れ、海外の団体客のガイドツアーにも対応している。

高田さんは「豊浦の漁業のPRと町の活性化につながるなら」といい、「漁師はお客さんとの交流が楽しそうで、ホタテの耳吊り(貝殻の耳の部分に穴をあけて、ロープにつけていく作業)などに喜んでお金を払う人がいることにびっくりしていますよ」と笑う。

ホタテ釣りをきっかけに、JFと商工観光を核とした産業の有機的な連携が進められている豊浦町。今のところホタテ釣りや観光はホタテガイの価格に直接反映はしていないが、いかに観光を販売につなげていくか、町ぐるみで模索していくという。

漁港
漁港には、大きな養殖の作業船とホタテガイの選別機械類が並ぶ
  • 文・取材・撮影大浦佳代

関連サイト:日本海・噴火湾のほたてのレシピやストーリーなど(プライドフィッシュ公式サイト)

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