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【シェフの必需品】予約のとれない人気店『Sincere(シンシア)』石井真介

FOOD PORT.

予約のとれない人気店『シンシア』のシェフ、石井真介さん

グルメシーンを牽引するシェフが、料理を作るうえで欠かせない食材や道具を紹介する「シェフの必需品」。
今回は、予約のとれない人気店『シンシア』のシェフ、石井真介さんです。革新的なアイデアを取り入れたフランス料理で、多くの美食家たちを虜にしている石井さん。フレンチのシェフになったきっかけから、『シンシア』をオープンさせるまでの経緯、また接客や生産者との関わり方、日本の食が抱える問題、今後の展望について伺いしました。

日本一予約が取れないといわれるお店『バカール』からの再起

グリーンを基調とした落ち着いた雰囲気の店内

伝説の店『restaurant bacar(バカール)』をご存知でしょうか。

『オテル・ドゥ・ミクニ』『ラ・ブランシュ』と、フレンチの巨匠の店で腕を磨き、フランスの星付きレストランでも経験を積んだ石井真介シェフが、オーナーソムリエの金山幸司氏とタッグを組んで2008年に立ち上げた店です。

「フレンチが初めての人でも、肩の力を抜いて楽しんで食べてもらえるような、そんな料理を目指しています」と語る石井シェフの料理は、どれも遊び心満載。フレンチの本質を押さえつつ、型破りで斬新なアイデアで創作されるメニューの数々に、自然と笑みがこぼれ、一緒にいる人と会話が弾みます。そんな『バカール』は、たちまち日本一予約が取れないと言われるほどの人気店に。しかし、金山氏の体調不良をきっかけに2015年3月に惜しまれつつ閉店しました。誰もがその再起を待ち望んでいたことでしょう。そんなファンからの期待に応えるように、石井シェフは1年もの歳月をかけて、立地や店内の内装、スタッフなどにこだわり抜いた店をオープンさせました。それが『シンシア』です。

『やや重厚感のある、大人が遊べる空間』をコンセプトにした店内は、大理石、木、モスグリーンを基調としたデザインで、自然の中にいるような落ち着いた雰囲気。床の石、ソファの色、シャンデリア、セッティングされたカトラリーすべてに統一感があります。テーブルクロスを敷かないテーブルからは、石井シェフが志す『肩の力を抜いたフレンチ』を楽しむための工夫の1つが感じられます。

客席のほとんどは厨房に向けて配置されており、どの席に座っても、料理人の臨場感ある食のライブを楽しめます。それはまるで、キッチンを舞台にした劇場のよう。料理人と客との間に境界線はなく、一体となれる空間です。

出来たての料理を、シェフ自らが客に運ぶというスタンスは、『シンシア』の特徴の1つ。これは、『ラ・ブランシュ』の田代和久シェフから学んだと石井シェフは語ります。

「うちでは、お客様をテーブル番号でお呼びすることはありません。お客様1人1人の顔と名前、その方の好みなどを憶え、その方に向けて料理を作るのです。家族に料理をふるまうような感覚で作ります」。

料理を作るとき、相手の喜んでくれる顔を思い浮かべると、気持ちが入り、よりいっそう美味しくなります。それが何よりのスパイスなのでしょう。

「真摯な」「嘘偽りない」「率直な」という意味を持つ『sincere』という店名は、まさに石井シェフの料理とおもてなしにかける想いが込められています。

石井シェフの料理の原点

盛り付けをする石井シェフ

そんな石井シェフが料理人を目指したきっかけは、料理上手な母親の影響でした。「美容師である母は、忙しい中でも、様々な美味しい料理を作ってくれました。母の思い出のメニューが今の料理の原点でもあります。兄と私が大好物だった手作りの小さなアメリカンドッグを、フレンチ風にアレンジしてメニューにもしています。両親が仕事で忙しいときは、僕が晩ご飯を作ることもありました。お菓子の本を見ながら1人で作ったシュークリームを家族が美味しそうに食べている姿を見て、料理を作る楽しさと、料理で人を幸せにできる喜びを感じました。それが料理人を志す一番の大きな要因になりました」。

服部栄養専門学校に在学中、『オテル・ドゥ・ミクニ』で「スズキのムニエル」にバターでソテーした温かいサクランボが添えられた料理を食べて衝撃を受けたという石井シェフ。フレンチの組み合わせは自由で、自分で足し算引き算をしながら作り上げていく面白さに魅力を感じて、フレンチの道を選んだそう。

「わかりやすいのがいいんです。本質的な部分を外さないで、見た目は少し遊び心があるものの、食べてみるとクラシックな味わい、それが僕の料理です」と石井シェフ。

完成した料理を持つ石井シェフ

ワクワクとした気持ちで食べ始めると、その後フレンチならではのクラシックな味を堪能できる料理の数々。それは、"お行儀良く静かにナイフとフォークでかしこまって食べる"、"緊張する"といったフレンチのイメージを、見事に覆しています。

活気のあるオープンキッチンを眺めながら、"私"のために作られた"真摯な"想いが詰まった料理を食べられる、贅沢なひと時。2カ月先まで予約がいっぱいの超人気店となるのも納得です。

「フランス料理に恩返ししていきたい」。そう語る石井シェフは、日本において料理人全体の地位を上げること、若手の料理人の育成、生産者の未来に貢献していくことを、次のステップと考えているそう。

そんな石井シェフの"必需品"は、食材や道具ではなく「サステナブルシーフード」と「チーム」でした。

日本だけが取り残された深刻な水産資源問題に日本人シェフとして立ち向かう

インタビューを受ける石井シェフ

スーパーやレストランなどで当たり前のように口にできている魚が、近い将来食べられなくなるかもしれないという危機が訪れていることを、知っていますか?

ホッケは大きいものが取れなくなり、本マグロやニホンウナギは絶滅危惧種となり、サバはノルウェー産ばかり。日本は先進国であるにも関わらず、公的な資源管理が遅れているため、野放し状態の海が多く、乱獲につながっています。その結果魚が減り、世界全体では増加傾向の水揚げ量が、日本では最盛期の約1000万トンから4割を切り、現在約330万トンとなる危機に直面しています。

「世界をみると、例えばノルウェーの漁業は日本のような『早い者勝ち』ではなく、各々が与えられた漁獲量上限のなかで『魚の品質を高める競争』をしています。その結果水産資源は豊富に残り、良質な魚が市場に出回るのです」

と石井シェフは語ります。この深刻な事態に、石井シェフを筆頭に東京のトップシェフ30人がフードジャーナリストの佐々木ひろこさんとともに立ち上げたのが「Chefs for the Blue」。漁師や漁業関係者と真摯に向き合うことで日本の水産資源の減少を食い止め、改善するための活動をしています。

サステナブルシーフードとは?

Chefs for the Bule

「サステナブル」とは「ずっと未来にも続いていく」という意味です。未来でも魚を食べ続けていくことができるように、漁獲量や自然環境に配慮した、適切な方法で獲られた魚介類のことを「サステナブルシーフード」と呼びます。

「魚が獲れないから食べない」のではなく、持続可能な方法で獲られた魚があるということをより多くの人に知ってもらうため、『シンシア』ではサステナブルシーフードのメニューを積極的に取り入れているのだそう。それが、海を守ることにつながるのです。

世界最大のサステナブルシーフード振興団体、SeaWebが2018年から導入した、「Co-Lab」という社会的意義や内容の独自性、そして問題解決の可能性などの多方面から審査されるコンペティションがあります。世界中から集まった40ものチームの中から最も多くの票を得て優勝したのは、なんと石井シェフ率いる「Chefs for the Blue」。これは日本の料理界におけるムーブメントといっても過言ではないでしょう。

シンシアのチーム

シンシアのスタッフ

「必需品=チーム」と話す石井シェフ。「前職『バカール』との大きな違いは、シェフのチームがいることです。以前は、自分のやり方で自分の好きなように料理を作っていましたが、今はチームの豊富なアイデアで、古きよきものは残しつつ新しいものにも挑戦でき、可能性が広がりました」

厨房では20代~30代と若いスタッフが溌剌とした表情で、楽しそうに仕事をしています。「料理人は料理だけをする」「自分の与えられたセクションだけの仕事をする」のではなく、色々なことに挑戦させ、スタッフ全員が調理からサービスまで同じことが出来るように育てているのだそう。『シンシア』全体が活気に満ち溢れているのは、信頼され、任せられることに喜びを感じ、その期待に応えようとするスタッフ1人1人が責任を持ってお客様のために料理を作り、サービスと真心を提供しているからではないでしょうか。

「食の未来を担う料理人として、自分が師匠たちに憧れたように、自分も若い世代に憧れられる存在にならなくてはいけないと思っています。料理人に憧れる理由が、地位や名誉、お金の為であれ、それがその仕事を続ける大きな原動力になると思うんです。」と石井シェフは語ります。

今の世代に合った環境を作り、料理人の育成にも励んでいる石井シェフのやり方は、まさに"サステナブル(持続可能な)"な未来のための人材育成。強い信頼と絆で結ばれたチームワークが、今日の『シンシア』を支えています。

シンシア

Sincereシンシア

住所:
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-7-13 原宿東急アパートメントB1
営業時間:
11:30~15:00(L.O.13:00)※土曜のみ
18:00~23:00(L.O.20:30)
定休日:
日曜日、第1・第3・第5月曜日
URL:
https://www.facebook.com/fr.sincere/

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