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「忙しい生活から新しいものは生まれない」波力発電の実用化を目指す研究者【前編】

ミラツクジャーナル

インタビューシリーズ「未知の未来が生まれる出会い」は、(この記事の提供社である)ミラツク代表・西村勇哉がインタビュアーとなり、沖縄県恩納村に拠点を置く沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究者にお話を聞くオリジナルコンテンツです。

研究者はこの宇宙の様々なものを対象に、世界中の誰もがまだ知らないことを発見し、人類の知を広げています。そのひとりひとりの研究者は、どのような視点で世界を切り取り、理解しようとしているのでしょうか。その視点を知ることで、私たちの世界観は大きく広がっていきます。先駆的な研究と沖縄の風土が交差するOISTから、未来に向けた新しい視点と出会いをお届けします。

第二回は、量子波光学顕微鏡ユニットの新竹積さん。1980年代から巨大な実験施設を建設し、電子などの粒子を加速、衝突させる加速器実験に関わり、たくさんの装置を開発してきました。さらに理化学研究所に移ると、電子を加速させてX線のレーザーを発生させる「SACLA」という装置の開発、建設をリードしました。そして、OISTに移ってからは、新しい方式の電子顕微鏡や波の力で発電する波力発電装置の開発をしています。その時々で、いろいろなものをつくってきたという印象を受けますが、どのような考えで取り組んできたのかを聞きました。

新竹積(しんたけ・つもる)

新竹積(しんたけ・つもる)

沖縄科学技術大学院大学量子波光学顕微鏡ユニット教授。
1955年、宮崎県生まれ。九州大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。1983年から2002年まで高エネルギー加速器研究所に所属し、トリスタン計画、B-ファクトリー計画などの研究プロジェクトに参加。2002年から理化学研究所でX線自由電子レーザー施設(SACLA)の建設を指揮した。2011年から沖縄科学技術大学院大学で、ホログラフィーによる量子波光学顕微鏡、波力発電装置などの研究を進めている。US Particle Accelerator School Award、ヨーロッパ物理学会賞、光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)などを受賞。

生活に余裕がない日本人

西村
新竹さんのお話は何度か伺っていますが、以前、「沖縄の海を見ていたら、波の中にどのぐらいエネルギーがあるのだろうって計算を始めたくなった」と話していたのが印象に残っています。ふつうの人が海の波を見ると、「きれいだな」とか「冷たいかな」みたいな、感情面での話になると思います。でも、新竹さんは違いました。「そこにエネルギーがあるかもしれない」という目線を、どうすれば持つことができるのですか。
沖縄本島最西端の残波岬。新竹さんはこの波を見て、エネルギーの計算を始めたくなったという
新竹
そうですね。今は、ほとんどの人たちが常に携帯電話を持っていますよね。特に若い人は、いつも携帯電話の画面を眺めていたり、音楽を聴いていたりして、景色をしっかり見ている人は少ないのではないでしょうか。車で海岸近くを走っているときに、「この海岸にはこの音楽がいいかな」というふうに考える人はいても、エネルギー源と結びつく人はいないと思います。

それは、日本が恵まれているからです。環境に恵まれているわりには生活に忙しいから、あまり周りのものを見て考える余裕がないのでは。私は口では「忙しい」とは言うけれど、生活自体はあまり忙しいわけではありません。
西村
それは、何に時間を使うかということですか。
新竹
そうそう。私は35歳のときにイタリアのローマ近郊で1年間暮らしました。それで時間の使い方についての考えが変わりました。
西村
イタリア人は、日本人と時間の使い方が違うのですか。
新竹
違いますね。彼らはとにかく楽しいライフありきです。楽しいライフを送るために、仕事をするわけです。私は、彼らの暮らしぶりがとても不思議でした。

暮らしているうちに、イタリアは国の政策で土地などの不動産価格が高くないことがわかってきました。また、イタリアは石造りの家を修理しながら何百年も使う文化の国で、新築の家を持つことが目標ではないのです。そのため、収入や貯蓄が少なくても暮らしていけるので、あくせく働かなくてもいいという雰囲気があります。
西村
日本の場合は、古い建物には価値がなくて、土地の価値がものすごく高いから、中古物件の価格は、ほとんどが土地代になっていますよね。
新竹
知り合いのアメリカ人と日本の土地の価格について話をすると、ほとんどの人が「信じられない」と言います。彼らからすれば、土地の値段がとても高いことも信じられないのですが、それに加えて、そういう場所に家を建てることも信じられません。「何のために生きているのかわからないじゃないか」という意見をよく聞きます。日本の場合は、不動産に価値をつけすぎてしまったことで、結果として、多くの人が忙しい生活を送っているのだと思います。
西村
そうですね。それで土地を買うわけですね。そして、特に何もリニューアルしないというか、ただ古いものをそのまま残していたりしますよね。
新竹
私は宮崎の田舎で育ち、土地にはあまり興味がなかったのですが、イタリアで暮らしたことで、改めて「日本人つらいな」と思いました。でも、その後、アメリカのスタンフォード大学や日本の理化学研究所(理研)で、20年ほど忙しい日々を送ることになるのですが。(※)
新竹さんが子どもの頃の宮崎県小林市の風景
新竹
それで、理研でのプロジェクトが終わったときに、忙しい生活は卒業すると決めました。沖縄に来てからは、若い研究者と一緒に、失敗してもいいから自由に研究を進めています。忙しい生活をしていないから、海の波を見たときに、「良い波だね、エネルギーになるな」と思えるのでしょう。

※新竹さんはイタリア滞在中に、スタンフォード線形加速器センター(SLAC)から出されていた懸賞金付き問題の解決法を思いつき、論文を書きました。その論文のアイデアが採用され、新竹さんは日本とスタンフォードを行き来するようになります。そして、電子ビームの幅をナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)単位で測定できる「新竹モニター」を生み出しました。

物理学で役に立つものをつくりたい

西村
私たちの中には、忙しくないと新しいものが生まれないという思いこみのようなものがある気がします。新竹さんは、ゆっくりしていても波力発電とか、新しいものを生み出しています。新しいものを発想するときには、何が重要なのでしょうか。
新竹
そうですね。現在の私のモチベーションは恩返しの気持ちです。前職の理研で建設を指揮したX線自由電子レーザー施設(SACLA)(※)は400億円ほどの予算がついたプロジェクトでした。その予算をもらうときに、当時、文科省の担当者が私に「お金を預けます」と言いました。プロジェクトの予算は、元をたどれば国民の支払った税金です。「預けます」という言葉には「このお金をあなたに託すから実現してくれ」という意味がこめられていたのですね。
SACLAで電子を光速に近い速度まで加速する加速器
新竹
400億円の予算があれば、たくさんの研究者に研究費として広く配るという選択もできたはずです。でも、そうはせずにSACLA建設の予算にあててくれました。「私に託す」ということは、裏を返せば、託されずにチャンスがなかった研究者もいたということです。SACLAのときにたくさんの予算をつけて頂いたのだから、今は自分の知識の範囲で社会に恩返しがしたいという思いで研究をしています。

※新竹さんが建設を指揮したSACLAは、直線状のCバンド加速器と呼ばれる装置で電子を光の速度に近い速度まで加速することで、これまでつくることのできなかったX線のレーザーをつくる装置です。SACLAはユニークな設計と日本の独自技術によって全長700メートルに収められています。当時、欧米につくられていたX戦自由電子レーザー施設は全長2~4キロメートルもの長さで、コンパクトなSACLAの誕生に世界中の研究者が驚きました。
西村
新竹さんの話は、ずっとつながっているような気もします。役に立つものをつくる科学というか、問題を解決するために何をすればいいのかを常に意識しているというか。
SACLAの心臓部である加速管の断面。純銅の板をマイクロメートル(100万分の1メートル)の精度で加工し、ロウ付けする高度な技術が必要となる。この中を電子が飛行する。
新竹
役に立つものをつくるという視点は常にあります。でも、私の視点はこれだけとも言えます。例えば、スティーブ・ジョブズは携帯電話をつくりました。役に立つものをつくるという点では、私とジョブズは同じです。でも、ジョブズには「お金を儲ける」という視点がちゃんと入っていました。私の中にはお金を儲ける視点はゼロなので、社会の役には立つけれど、お金にはならないものが多いのです。よく、「ベンチャーやりませんか」とか、「ビジネスディブロップメントどうですか」というお誘いを受けますが、そういう分野にはまったく興味ないですね。
西村
それは少しわかります。私自身、NPOを運営しているように、収益よりも他のことが先に来ています。ただ新竹さんは、単にお金儲けが頭にないという以外にも、他の人たちとまったく違う発想が出てくるように思います。単に役に立つことを考えるのであれば、困っている人を助ける方法もあると思います。でも、新竹さんは、もっと根本的に解決する方法を考えているように見えます。その突きつめ具合がすごい。
新竹
そうですね。妻からも「人を助けたいのだったら、まず私を助けて」とよく言われます。
西村
困っている人を前にして、単に「大丈夫ですか」と声をかけるのではなく、そこで「物理学が使えるのでは」と考えるのは、物理学が好きだからだと思いますし、新竹先生が技術者ではなく、物理学者になったこととも関係しているように感じます。
新竹
確かに。過去にはマイクロチップや電化製品をデザインする仕事をするのもいいなと思った時期もありました。でも、私は手先がそれほど器用ではありません。それと、パッケージングや見た目をきれいにするとか、そういうことに興味がないのです。あと、マイクロチップのデザインは、あまりダイナミックな話ではないのですよね。社会を変えるような大きな発見はあまりないというか。

経験を通してプロジェクトの成否を見極める

西村
少し話は変わりますが、沖縄でも、日本全体でもいいのですが、社会の問題の根本的な原因はどこにあるとお考えですか。
新竹
それはよくわからないですね。沖縄県うるま市に産業高度化・事業革新促進地域という経済特区があります。そこは、条件が合う事業を立ち上げれば、税金が優遇されたり、低金利の融資が受けられたりする利点があります。そこで波力発電機の部品をつくり、船でモルディブに出荷するプロジェクトを展開したことがありました。
モルディブの海に設置された波力発電機
新竹
工業製品をつくるには、材料を供給するための会社など、関連する企業群が必要です。自動車メーカーの周りに、部品を供給する会社が集まるような感じですね。関連企業の他に水資源も産業には不可欠です。沖縄にはそのような企業や資源が少なくて、事業を本格化するのは諦めました。

同じ島でも、台湾は水資源があるので、電子産業を発展させることができました。これは台湾が優秀で、沖縄が劣っているという話ではありません。単に沖縄は産業が発展するための資源やインフラが足りないのです。とても残念なことですが。
西村
そんな風に話す人に初めて出会いました。今の話は、ものごとを始めるときの基本的な考え方ですね。沖縄で産業振興するのであれば、沖縄の現状や産業が成立する条件を考えていくということですよね。
新竹
そうそう。だから、プランニングをするときに、必要なプロセス、人員、時間、廃棄物の量などが、経験として自分の中にないと、工場用地などを見にいっても、何も見えてきません。
西村
この話は沖縄に限らないと思いますね。どこの社会でも「できそうだ」という感覚や、「やろう、気合だ」という精神論で話が進んでいき、そもそも成立条件などをしっかりと議論しないまま実行してしまうことがよくありますよね。
新竹
補助金や優遇措置をつければ、はじめのうちはうまく回っていくと思います。でも、優遇措置などが終わったときに、ちゃんと自走できるかどうかが問題となります。

うるま市で波力発電装置の部品づくりを産業化しようとイメージして、1年くらい走り回っていました。でも、走り回っているうちに、「なんで俺はこんなことをしているんだろう」と思うようになり、よく考えます。すると、「これはやめた方がいい」「これはいけるかもしれない」という見極めがだんだんできるようになってきます。

もちろん、白黒はっきりとするばかりではなく、「やめたいけど、ここはやめられない」ということも、だんだんと体でわかってきます。今は新型コロナウイルスが流行してしまい、波力発電の方が手薄になってきました。そうこうしているうちに、モルディブの機械に不具合があるようなのですが、今は修理にいけません。何とかしたいと思いますけど、まだ動けないので、もしかしたら自然に淘汰されてしまうかもしれませんが。
モルディブの海に設置された波力発電機

プロジェクトは目的から考える

西村
新竹さんにとって、原理に則っているというか、自然の流れのようなものがとても大事なのかなと思います。「だめなものは結果としてだめになる」というような見方ですね。そういうふうに発想するようになったきっかけは何ですか。
新竹
私は九州大学で原子力を学んでいました。でも、学んでいるうちに、原子力発電のシステムが信頼性のあるものだとは思えなくなりました。原子力分野の施設は事故を起こす危険性があると考え、高エネルギー加速器の分野を学ぶことにしたのです。加速器は大型実験施設で、その分野の研究者たちは実際に建設工事にも関わります。学生だった私を待っていたのは、建設工事現場での下働きです。

当時は、人手も少なくてしごかれますから、自然と「この加速器は人類の平和のためになるのか」、「自分は何をしなければいけないか」と考えるようになりました。
西村
新竹さんは何かの役に立つことを大事にされていますが、それはもともともっていたものなのでしょうか。
新竹
どうでしょうね。それはわからないです。

これも昔の話になりますが、私は学位を取った後、高エネルギー物理学研究所(現在の高エネルギー加速器研究機構:KEK)の助手となり、トリスタン計画に関わるようになりました。このプロジェクトは、光速に近い速度に加速した電子と陽電子を衝突させて、新しい粒子や現象を発見しようとしたものです。かなりお金をかけたプロジェクトで、1986年に当時、世界最高のエネルギーを実現することに成功しました。

私が加わったのは、その直後で加速器の性能を上げるために「静電セパレータ」という装置の開発チームのヘッドに指名されたのです。私が担当した静電セパレータは、メーカーの技術者と一緒に開発することができて、加速器の性能を上げることに貢献しました。しかし、トリスタン計画そのものは、失敗といってもいい終わり方でした。
KEKで開発した静電セパレータの内部
新竹
トリスタン計画の大きな目的のひとつは、当時、まだ発見されていなかったトップクォーク(物質の最小単位である素粒子の中で、もっとも重いもの)を発見することでした。でも、後から考えると、ちょうど何もないエネルギーの範囲を狙って加速器を設計してしまったのです。当然、新しい粒子は何も発見することができませんでした。今から振り返ると、とても悲しいことですが。

結果的に、失敗したプロジェクトに10年くらい関わったことになります。この経験から、プロジェクトを進めるには、しっかりと目的を考えないといけないと思うようになりました。
西村
新竹先生の関わるプロジェクトはすべて成功している印象しかなかったので、失敗の話が出てくるのは意外ですね。
新竹
トリスタン計画は、私が学位を取って研究者になりたての頃のものです。とても巨大なプロジェクトで、私が直接関わった装置は無事に開発できたのですが、プロジェクトそのものは失敗してしまったのです。
西村
やはり、プランニングの問題だったのでしょうか。
新竹
それは高エネルギー物理学の宿命ですね。高エネルギー物理学では、新しい粒子がありそうなエネルギーの範囲を理論的に予測して、その理論をもとに実験を組み立てます。でも、理論的な予測の範囲は一桁くらいの幅があります。
西村
ひと桁違う。なるほど。ちゃんと考えればうまくいくものでもないのですね。
新竹
未知の粒子の質量、つまりエネルギーは、スーパーコンピュータを使って計算しても、残念ながらわからないです。

今、世界中の物理学者がダークマター(暗黒物質)の正体を探っていますが、どのくらいのエネルギーかまったくわかっていません。これは宇宙論から計算しているので、わからないのはある意味でしかたのないことですが。

電子ビームのずれを髪の毛の30分の1の厚みに抑える

西村
でも、新竹先生の指揮した「SACLA」はうまくいきましたよね。それはなぜですか。プランニングがよかったのか、課題自体が解決可能な範囲だったのか、どちらですか。
新竹
「SACLA」はかなり難しいプロジェクトでした。全長700メートルの大きな機械の場合、設計だけですべての問題を見通し、解決することはできません。ですから、まずは、使用する電気部品の信頼性や安定性を確認します。また、大きな機械の中でも、部分的に大きな負担のかかる装置が出てきます。そのため、そこに無理が集中しないように緩和する装置を入れたりして、全体として成立するようにしていきます。

「SACLA」は、最終的にX線レーザーを発生していきます。その部分は100メートルで3マイクロメートル(1マイクロメートルは100万分の1メートル)の精度が必要です。100メートルで3マイクロメートルずれると機械が止まってしまいます。ちなみに、3マイクロメートルは髪の毛の太さの30分の1くらいです。髪の毛の太さでも、その範囲を出ないように100メートル進むのはたいへんです。その30分の1の範囲からずれないようにするなんていうことですから。普通だったらそこで考えられなくなって、「やめた」と放り出したくなりますよね。

でも、結果から見れば、解決法を見つけることができました。その解決法のヒントは、重さにあったのです。例えば、無重力空間の宇宙では、宇宙船が光速に近い速度で飛んでいても、その軌道はずれません。それは宇宙船が重いからです。

「SACLA」は電子を加速させて、X線を発生させる装置なので、電子そのものを重くすることはできません。でも、装置の床下をとても重くすると、装置が揺れて発生する電子の軌道のずれがとても小さくなります。「SACLA」の建設予定地の兵庫県佐用郡は岩盤がしっかりとしていますし、太平洋から離れているので、荒波の影響は受けません。そして、月の満ち引きや太陽の重力などを分析した結果、何らかの方法で、100メートルで3マイクロメートルの精度をつくり出せば、それをキープできることがわかりました。だから、地盤まで含めて計算し、厚さ2メートルの基礎をつくることで、安定できるように設計しました。

さらに、加速器を支える架台をコージライトというセラミックスでつくりました。コージライトは熱膨張をほとんどしないので、加速器のずれを抑えることができます。固い岩盤の上に分厚い基礎をつくり、コージライトの架台を置くことで、加速器そのものの動きを極力なくすことができました。ちなみにコージライトという名前をあまり聞いたことがないと思いますが、私たちは日常的にお世話になっています。このセラミックは、熱に強いので土鍋や自動車の排気ガスを分解するフィルターなどに使われています。
SACLAのエネルギー源であるCバンドクライストロン。SACLAにはこの装置が81本使われている。1999年に新竹さんの先輩である松本浩博士と。
西村
なるほど。装置を動かないようにしておけば、一回しっかりと的に当たるように調整することで、何回でも当てられるようになるということですね。
新竹
そうです。土台をしっかりさせて、装置が動かないようになったので、次の課題は、電子をどうやって的に当てるかです。電子は目に見えないので、どこを通ったか正確に測定する装置が必要になります。

実は、スタンフォードで新竹モニターをつくったときに、同時にある装置を開発していました。その装置は、ビーム位置モニターというものです。この部品は、電子の位置を0.01マイクロメートルの精度で測定することができます。
高精度ビーム位置モニター
新竹
これを10メートルに1台くらいの間隔で並べて電子を飛ばせば、電子の軌跡がわかります。ただ、最初のうちは、それが本当に電子の軌跡を測定しているのかどうかわかりません。電子を動かすとその周りに、電場と磁場が発生します。そのため、周りに磁石などがあるとその影響を受けて、電子の軌道が変化してしまいます。

「SACLA」では、電子を光速に近い速度にまで加速させることもあり、電子の軌道に一番影響を与えるのが、地球の磁場でした。地球の磁場は複雑な形をしているので、「SACLA」にどのように作用しているのかはすぐにはわかりません。そこで、装置付近の地球磁場の形をコンピューターでシミュレーションしていくのです。
西村
なるほど。先に正解を考えるのですね。
新竹
逆算に近いですね。例えば、加速器の磁石を変化させたら、電子はどのように動くのかを計算していきます。すると、地球の磁場の形もわかってきます。その影響も加味しながら計算を進めていくと、電子が装置の真ん中を通るような装置のセッティングが導かれていきます。

そのような作業を3か月くらい繰り返していくと、電子を狙った場所に飛ばすことができるようになります。一度できればもう大丈夫です。「SACLA」は10年以上運転を続けていますが、ずっと安定しています。安定させるまでがたいへんでしたけれどね。

当たり前のことを深く考えることで解決策が見えてくる

西村
お話を聞いていて、やはり最初が肝心なのだなと思いました。最初の課題設定がずれていると、せっかくうまくいっても、ただ一発当たっただけみたいになってしまいますよね。
新竹
そうなんです。SACLAの場合は、重ければいいという発想がでてこなかったら、成功しませんでした。
SACLAのエネルギー源であるクライストロンに電力を供給するためのモジュレータの前で。目立たない装置だがとても重要な役割を担う。新竹さんは再生可能エネルギーも、目立たずに生活を支えるインフラになって欲しいと願っている。
西村
最初の海を見ながらという話や、宇宙の中で宇宙船がという話を聞いていると、想像の段階で、この条件がクリアされればいけるというものがあって、それをどのようにクリアしていくかというふうに考えていくのだなと思いました。
新竹
重ければ動かないよねという話は、ニュートンの第二法則です。力は質量に加速度をかけたもの(F = ma)。このF = maの方程式の両辺をmで割ると、a = F/mとなります。つまり、加速度は力を質量で割ったものであるという意味です。この式から導き出されることは、質量が大きければ、力がかかっても動かないということです。よく考えれば当たり前ですよね。大きなトラックは手で押しても動かない。
西村
確かに当たり前ですね。
新竹
でも、そこを深く考える必要があります。
西村
この話は、先ほどの時間の使い方の話にもつながるなと思いました。どんどんと答えを出していったら、こういうふうに深く考える時間がなくなるかもしれないと。このようなやり方は波力発電でも同じなのですか。
新竹
波力発電でも同じです。私がOISTで波力発電プロジェクトに取り組んだのは、海岸近くで発電すればコストを抑えることができるので、トータルで考えて発電量とそれまでに使用した電力、資金などがうまくバランスして、人類にプラスになると考えたからです。

今、世界は脱炭素化の方向に向かっています。ヨーロッパでは大規模な洋上風力発電施設がつくられていますが、ヨーロッパ近海は浅瀬が多いのでできることです。水深は10mくらいしかなく、陸上に近い感覚です。
西村
確かに。ほとんど陸上ですね。
新竹
日本でも洋上風力発電の実証実験などをおこなっていますが、太平洋側は浅瀬が少なく、すぐに水深の深い日本海溝になりますので、風車を立てるのが難しいのです。

再生可能エネルギーを事業化するにはコストを下げないといけないのですが、日本では洋上風力発電には設置費用がとても高くつきます。しかも、建設時に大きなエネルギーを使用するので、そのことも考えると、大気中にたくさんの二酸化炭素を放出することになります。

私が取り組んでいる波力発電は、風車を海に沈めることで、安価に発電するアイデアです。2018年に、モルディブに波力発電の試験機を設置し、発電に成功しました。この成功によって2019年7月に沖縄県恩納村の海岸に新型波力発電機を設置しています。
沖縄県恩納村の海に設置する直前の波力発電機と新竹さん
西村
波力発電のしくみだけではなくて、電力全体をシステムとして考えたときに、波力発電が入ることで全体がうまくいくような、パズルで足りないピースを埋めるようなものでしょうか。
新竹
まだ、そのような高級な話にはなっていません。モルディブでも波力発電は採算が取れてはいないのですが、安全保障の意味合いもあり、再生可能エネルギーの発電施設を稼働させておく必要がありました。モルディブは地理的な要因から中国とインドの争いに巻きこまれる可能性もあるので。

一方、日本の場合は、コストもしっかりと考えて採算の取れる再生可能エネルギーの発電施設をつくる必要があります。私の目標としては、10メガワットクラスの発電施設を、まず北陸につくりたいですね。日本海側の海は、潮位の変化が少ないので、波力発電の稼働率がよくなります。また、夏場は波のない日が続くことが多いですが、その期間は、設備工事やメンテナンスにあてることができます。
波力発電システムのスケッチ
新竹
2020年10月に菅義偉首相が「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という宣言をしました。そのための予算も組まれるのですが、それらのお金は日本だと、太陽光、風力、水素エネルギーなどの開発費にあてられていくはずです。

その話に呼応するように、ニュース番組で電気自動車の特集を放映しています。このような話題がたくさん取り上げられるようになると、電気自動車の普及に拍車がかかってくるでしょう。当たり前のことですが、電気自動車は充電しないと走れません。だから、電気自動車が普及すると、電気の使用量が今よりも圧倒的に増えます。

今は、需要が増加した分の電力を賄う方法が考えられていません。菅首相は「安全最優先で原子力政策を進める」と言っていますが、廃棄物の処理をきちんと考えないといけないなど、課題もたくさんあります。
この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって取材・制作されています。http://emerging-future.org/newblog/(外部サイト)
この記事は、OIST(沖縄科学技術大学院大学)とNPO法人ミラツクによる共同プロジェクトとして制作・運営しています。https://www.oist.jp/ja(外部サイト)
  • 構成・執筆荒舩良孝

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