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豊かな未来のきっかけを届ける

豊かな未来のきっかけを届ける

「生物は弱いものしか進化しない」危機の時代に、人間がサンゴから学べること【後編】

ミラツクジャーナル

シリーズ「未知の未来が生まれる出会い」は、(この記事の提供社である)ミラツク代表・西村勇哉がインタビュアーとなり、誰もがまだ知らないことを発見し人類の知を広げている研究者が持つ世界の見方・視点を伺うオリジナルコンテンツです。シリーズ1の沖縄科学技術大学院大学(OIST)と共に取り組む連載と並行し、全国の様々な分野の研究者にインタビューを行う全10回のシリーズ2を始めます。

第1回は、北海道大学大学院地球惑星科学地球惑星システム科学科の講師であり、NPO法人喜界島サンゴ礁科学研究所を立ち上げ理事長も務める渡邊剛さん。過去の地球環境を克明に記録するサンゴ礁の調査・研究を続けてきた渡邊さんは、2014年にサンゴ礁の聖地・喜界島(きかいじま)の廃校となった小学校に拠点としての研究所を立ち上げます。そして、「100年後に残す」をスローガンにサンゴ礁研究をベースにした教育・発信活動に積極的に取り組み続けています。

わずか7年で人口7,000人の喜界島の風土に馴染んだ研究所は、今では子どもや学生、ジャンルを越超えた様々な研究者が集う場に。そのあり方は、サンゴ礁の持つ多様性にも似ています。渡邊さんの視線の先にある、サンゴと人のよりよい関係を探ります。

これまでの連載記事

渡邊剛(わたなべつよし)さん

渡邊剛(わたなべつよし)

北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学地球惑星システム科学科 講師/NPO法人喜界島サンゴ礁科学研究所理事長
横浜市生まれ。1994年、北海道大学理学部地質学鉱物学科卒業。同大学大学院地球環境科学院修士・博士課程修了後、サンゴ礁に記録される地球環境変動をテーマに、オーストラリア国立大学、フランス国立気候環境研究所、ドイツ・アーヘン工科大学地質研究所、ハワイ大学などで研究に従事。2014年より鹿児島県喜界島にNPO法人喜界島サンゴ礁科学研究所を立ち上げ、理事長に就任。

サンゴに刻まれた環境変動の記憶を、歴史の正確な検証に生かしたい

西村
ここで渡邊先生の研究の方の話に戻りたいと思います。喜界島に赴いたことで何か新しいテーマは見つかりましたでしょうか?
渡邊
はい。サンゴ礁は特性が2つあり、一つは命を育む多様性、もう一つはサンゴの持つ敏感性です。敏感性の一つの表れとして、サンゴは環境変動などの過去に起こったことを記録しているわけですが、僕はどちらかと言うと、その敏感性をメインに研究をしてきました。

サンゴは毎日骨をつくり、それを残していくという作業をやっています。それがサンゴ礁をつくったり、島をつくったりするわけですが、調べると数億年というレベルで記録が行われていることがわかるんですよね。例えば地層を調べても「ここ数万年で暖かくなってきた」、「この数千年は暖かい」という世界なんですけど、サンゴは1年に1cm伸びていくので過去の時間解像度がもの凄い(毎年の水温、降水量、日射量などを読み取れる)わけです。
サイエンスキャンプで採取した現生のハマサンゴ試料
西村
同じ1cmに入っている情報の量が違うっていうことですね。
渡邊
全然違うんですよ。例えば、地球温暖化がここ100年でどう変わってきたのかなどもわかる。風向きや黒潮の流れ、台風、洪水、あるいは全く雨が降らない期間があったとか、場合によっては、エルニーニョ現象の発生もわかる。

だから、僕はサンゴを観察しながらそういう発見をしてきたわけですが、25年ぐらい経った時にふと「これって何が面白いの?」って、思ったんですね。

地質学にいると、なかなか人に交わることがない。でも、例えば考古学者や歴史家にそういう話をすると「そんな情報がわかってたら、ここが説明できるぞ」という話になってくる。例えば、縄文時代なんて穏やかで過ごしやすい時代というイメージがあるけど、喜界島のサンゴを調べるとそんなことはなくて、結構激しい環境変動があったことがわかるし、その時期に世界規模で激しい環境変動が起こっていたこともわかるんです。

草刈(執筆者)
具体的にはどんなことがわかりましたか?
渡邊
例えばメソポタミア文明の一番初めのアッカド帝国が滅びた時期については、これまでも全体的に乾燥していて争いがあったことはわかっているんですが、サンゴの骨格で見てみると、その頃に3ヵ月間、冬の風が鳴り止まない時期があったことがわかったんですね。
アッカド王国の調査時の様子
西村
寒くて乾燥しているということですね。
渡邊
そうなんですよ。地元の人が「シャマール」と呼んでいる冬の風なんですが、それが吹けば、灌漑の底が詰まるなどして農業が困難になるので、その規模の風が吹くと人々は都市を手放すということが具体的にわかってきた。そういう例によって、歴史や考古学的な事実が説明できると、縄文時代の人々が平穏でのんびりと生きていたようなイメージも考え直さないといけなくなる。
(A)化石サンゴから分析した各時代における酸素同位体比とSr/Ca比(上昇は寒冷、乾燥を示す)。
(B)化石サンゴから復元した冬の気候とアッカド帝国周辺の遺跡の面積。化石サンゴは約4,100年前の気候イベントを記録しており、約4,200年前にアッカド帝国周辺の遺跡の面積が減少している。
渡邊
あと最近では、どういう地球環境になったら人は移動するのかについて研究しています。特に島は周囲を海に囲まれているので、どうなったら移動するのか、いろんな先生たちと話をしたいですね。今までは別々にやっていた気候復元や地球環境学、遺跡からわかることなども、実は一緒に考えた方がよいわけだし、人間は自分で進化して火や武器や技術を開発していった特別な存在というイメージがあるけど、そこは検証しなければいけない。
西村
努力はあったかもしれないけど、なんらかの必要性なり、環境があって、結果的に火や道具を使うようになったということですね。
渡邊
そうなんですよね。その時に先人がタフに頑張った結果が今につながっているんじゃないかと思う。そういう自然環境や環境の復元から想像できることを、今いろいろな研究者にぶつけてみたいという思いがあります。
西村
古い時代の話って1000年ぐらいをサクッと語りますよね。でも、人間は100年ぐらいしか生きられないので、1000年って言われても、どう考えても20世代から30世代は変わっているからそんなにサクッと語れないなと思います。
渡邊
いかないですよね。人間はそんなに進化しているわけでもないし、僕が当時の縄文時代にタイムトラベルしても、スーパーマンになれるわけではなく、縄文人と同じように生きないといけないってなると、いろいろ考えちゃいますよね。
西村
突然、すごく寒くなった時にどうしようみたいな。
渡邊
その危機を乗り越えてきた人々には、たくましさや知恵があるように思うんです。
草刈
私は個人的に縄文をテーマにしているので、その辺のお話にすごく興味があるのですが、縄文時代は中期と呼ばれる5000年前ぐらいが一番人口が多くて、縄文後期と呼ばれる4000年前ぐらいになると、一気に人口が減るんですよね。
渡邊
地質学では4.2ka気候イベント(世界的な文明崩壊を招いた寒冷化)といいますね。今喜界島のサンゴからもそれが出ていて、注目しています。
草刈
その時に、例えば今私が住んでいる武蔵野台地では集落自体がなくなり、千葉とか沿岸部に集落が集中していくんですね。だから、多分暮らせなくなった要因があるんだとは思うんですけど、その時代は土器自体にも変化があって、今まで大きかった土器が小ぶりになっていくんですね。小ぶりになるのは、集団が小さくなることなのかなと思うし、あとは儀礼に使うような土器と日常使いの土器とで分かれていくという現象が起こるので、信仰の芽生えとか、祈りみたいな行為がどうやって生まれたのかなども見えてきそうだなと、お話を聞いていて思いました。
渡邊
そうなんですよ。宗教との関係も面白いなと思っています。危機の乗り越え方を次世代にどう残していくかという手段は、文字や言葉だけではなく、神や精霊を形どった何かを置くとか、そういう知恵のあり方もあったと思います。

複雑系を複雑系として扱うことの必要性

西村
昔、ヨーロッパでペストが流行った時に、「黒い悪い空気だ」みたいな考え方が広まって、でもそのあとに顕微鏡ができて、それまでのフワッとした説明が具体化することがあると思いますが、サンゴはそれの地球版という気もします。
渡邊
古い時代の話って1000年ぐらいをサクッと語りますよね。でも、人間は100年ぐらいしか生きられないので、1000年って言われても、どう考えても20世代から30世代は変わっているからそんなにサクッと語れないなと思います。

物理の観点では、よく「素過程(それ以上分解できない基本的な過程)が大事」として、原子レベルで宇宙から地球の進化から全部説明しようとします。それはそれですごく美しいと思うんですが、サンゴ礁のような圧倒的な複雑系を見てしまうと、それを素過程で説明しようとしても、ひとりじゃ絶対無理だし、何年、何百年かかっても難しいんじゃないかなって思います。そうするともう素過程じゃなくて、複雑系を複雑系として扱わなければ理解できないぞ、っていうのを直感的に感じたことがあるんですよ。
西村
数式の上では「微小だからまあいいか」みたいにしてしまうけど、現実世界には微小って存在しないので。実際にはプラスの方にちゃんとあって。でも、それが凄い長い時間が経つとこんなに複雑になるとか、こういう面白いところに辿り着くっていう。そういう無視したいんだけど無視しちゃいけないようなものがあるっていうことですよね。
渡邊
そうですね。説明がつくと思ってやってたことが、どんどん説明がつかないことばかりが出てくる。僕もどうやってサンゴが石をつくるかを、大きな装置を使ってナノスケールレベルで観察するという細かい研究をやっていたんですが、そこの一点では説明が可能でも、それをサンゴ礁のレベルまで応用できないんですね。

地球温暖化でサンゴの消滅が問題になっていますが、地球温暖化は、人為的な二酸化炭素が大気中に増えることだから、それが一番溶け込んでいるのは海洋であり、サンゴの住んでいる浅瀬です。サンゴは炭酸カルシウムでできているので、海水が酸性にちょっと傾けば骨がつくりづらくなるし、なんなら溶けちゃう。そうやってサンゴがいなくなれば、海洋生物の多様性を支えている基盤がなくなるから「これは大変なことになる」といって、生物学者や科学者は実験をするんですね。

CO2濃度を調整した水槽にサンゴを浸けて、「あ、死んだ」と。死ぬから「ペーハーがこの数値になるとヤバい」となる。そういうデータを蓄積して、例えば(世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて)1.5℃に抑えないといけないということになる。とはいえ、実際に火山性のCO2で酸性化している海域に行くと、ペーハーは全然低い所でもサンゴが生きているんですよね。それを調べると、そこに300年ぐらい前からいることがわかる。それがなぜなのか、誰も説明できないんですよ。研究すればするほどわからなるので、最後は「サンゴって神秘だね」という話になる。

もちろん諦めたくはないし、素過程の積み重ねで全ての自然現象が説明できるはずだという考えも捨てたくはないんですけど。複雑系であるサンゴを対象にしているといろんなことが絡んでくるので、そっちが面白いし、やっぱり複雑系は複雑系として捉える方向に舵を切らないと、少なくとも自分が生きている間になにか掴み取ることが難しくなってくる。
西村
J.ブルーナーという人がつくったフォークサイコロジーという心理学があります。そこにある根底の考え方は、あるものと向き合って、ちゃんと見ること。たとえ、それが「外れ値」でも意味があるからちゃんと見なさいと。それで僕は、現場に行こうと思ったんです。まず何より、1対1をたくさん見ないといけないと思った。だから、そこに「ある」ということを前提にしてみるのは、すごくいいなと思いました。
渡邊
そうですね。大学にいる僕らもそういうふうに言いたいんですよね。それって説明が難しいんです。正解がないって言っているようなものだから。特に今の若者はすぐ答えを聞くので、なかなか答えられない毎日なんですけど。サンゴがそこにあることが大事で、それを実験室で再現できなくても、実際にあるんだからっていうことですよね。サンゴなんて形は変えても5億年ぐらいはいるし、一番劇的に環境が変わるようなところに生息している。その存在感が初めてサンゴに会った時に感じた説明できない何かなんです。

サンゴは弱さを活かしながら、自然の激しさに適応している

西村
サンゴやサンゴ礁のお話を伺いながら思ったことがあります。それは、「サンゴから人間はもっと学べるだろう」ということです。サンゴ心理学やサンゴ都市学、サンゴ建築学とか絶対できると思います。だって、あっちは5億年やってこれたという事実がある。そこから学んだら、サステナブルな都市づくりや生活様式はつくれると思うんです。
渡邊
本当にそうですよね。サンゴから学べることはある。結果として残ってきたサンゴには存在感や迫力があって、人間にその迫力はまだない気がするんですよね。地質学を通じていろいろな時代を見ていくと、人間の方が明らかに儚い存在なんですよね。例えば、恐竜のように特殊すぎる生物だと絶滅することもある。人間はそういうタイプに似ている気がするんですよ。時間の流れで残るような迫力がないというか。
西村
弱さは人間が持っている可能性かなと思うんですよ。人間は弱いじゃないですか。哺乳類の中では筋力的に最弱だし、サル系で最弱、チンパンジーなんかよりも全然弱い。
渡邊
僕もそう思っています。
西村
そう。弱さを克服するために、人間は頑張ってきたと思うんですけど。弱いからこそサンゴのように......、小さくて弱いからずっと残っていける良さがあるのかなと思って。
渡邊
そこは多分サンゴからの学びの一つですよね。結局、生物は弱いものしか進化しないですよね。ある環境の中で弱いやつが住処を追われ、違う環境に適応する中で進化してきたわけなので。サンゴも弱さを維持することが強さになっている。
西村
強さってなにかっていうことですよね。1対1で戦って勝つのが強さかどうかっていう。
渡邊
そうですね。強さの定義ですね。サンゴの強さの一つは、パートナーとして渦鞭毛藻(うずべんもうそう)や褐虫藻(かっちゅうそう)を選んだことが革新的だったこと。動物であるサンゴが植物プランクトンを体内に共生させることで、自分ではできない光合成をして、とにかく光さえあれば生きられるようになった。それで、沿岸域という一番競争が激しい所にどんどん入っていけた。
サンゴの赤ちゃん(稚サンゴ)。茶色い粒々が褐虫藻
渡邊
しかし、今度は光がないと生きていけないから、明らかに弱いんですよ。だから、相反するものを同時に受け入れているような気がするんですよね。
西村
不思議ですよね。褐虫藻を入れたから今度は光が必要になって。それで光に向いた形になって、浅瀬の方が生きやすい形になっていく。
渡邊
成長が一番早いのが枝サンゴなんですけど、どこにいるかというと、一番波が強い所にいるんですよ。枝サンゴは弱いから波で砕けますが、砕けたサンゴが散らばって生息域を広げている。弱さを活かしながら自然の激しさに見事に適応しているんですよ。
ミドリイシ属のサンゴ

サンゴはどうやってコミュニケーションをとっているのか

西村
大きく育てばいいわけじゃなく、それよりも砕けて散らばる方が長続きする。サンゴの面白いところは、クローンで増えるから自分という境界がちょっとあやふやなところでしょうか。折れてもあっちが生き残れば、それが自分だみたいな。自我があるかどうかとかはわからないけど、どこまでが自分かっていうことですよね。
渡邊
そういう意味では、多分寿命がないということでもある。群体としてあるじゃないですか。こっちを傷つけると、みんなでエネルギーを配分して治そうとする。あるいは産卵の時、沖縄のように何百種類というサンゴがいる海域ではそれぞれの種類が放精する時の時間を合わせたりしている。それがメチャクチャ離れていてもですよ。そこにどういう自己意識、あるいは空間認識をしているのかわからないんですよ。
サンゴの産卵
西村
ということは、一応情報としては伝わっているんですね。情報というのは人間的なコミュニケーションでは全くないわけですよね?なんらかのやり取り、化学物質のやり取りでつながっているのか。
渡邊
それが情報なのか、それこそ心があるのか、あるいは、本当に微小な地球の変動を読んでるのかわからないんですけど。シンクロしてますよね。
西村
人間も言葉を使っていて、これをコミュニケーションだって思いがちだけど。実際は別に言葉はどっちでもいいじゃないですか。本来はコミュニケーションって伝わればなんでもいいし。結局脳の中の化学物質の伝達だとすると、サンゴ間のなんらかの物質伝達があれば、それで一つのコミュニケーションなのかなと。
渡邊
うん、そう。あとはメスとオスが違うサンゴがいて、長らくオスがいないと自分がメスになる種がいる。それはどうやって自分がオスだとわかるのかと。
西村
確かに。周りにいないのにどうやったらわかるのかがわからないですね。そういう意味では、サンゴはなんらかの物理的な影響で地球とのコミュニケーションができていのるかもしれないですね。

正月に言語の本を読んでたんですけど、いわゆる言語学的な言語論や言語の構造の話ではなく「言語ってそもそもなんで生まれたと思う?」という問いかけをずっとしているんですね。100万年前くらいのホモサピエンスの一つ手前くらいの段階で、一生懸命身振り手振りやっていた時に「アー」とか「ウー」とか言っていたのが、「アー」で伝わるようになったんだみたいなことですよね。伝わればいいっていうのが結構根本にあるんだと。
渡邊
だから、人間は今特に言語が支配しているかのようですけど、違うコミュニケーションだったなら、それはそれで広まっていた可能性もありますね。サンゴは薬学の研究者が新たな物質を探しに来たりするぐらいDNAが豊富です。空間的に言ったら圧倒的な量のDNAがあって、でも、DNAだと自分のDNAを残そうとするので、他者と自己を区別しますよね。

サンゴはDNAがどんどん分裂してできるので、自己もその中にたくさんいて。種の違うサンゴ同士が接触すると、違う触手を3ヵ月ぐらいかけてつくって、お互い攻撃し始めるんです。やっぱり他者が来たって思うんですよね。だけど、分裂していった同じサンゴが接触してもケンカにはならないんですよね。それによって光が当たらないところができると、互いに死滅していくという。だから「こいつは自分」、「こいつは他人」と認識している。
西村
サンゴをコミュニケーションの視点から見るのもおもしろいですね。
分析に使うサンゴ化石

人は社会についてサンゴから学べる

西村
最後に人間の社会に目線を戻した時に、この社会に必要な視点や観点があれば伺いたいです。
渡邊
そうですね。初めに100年後に残したいとか、未来に残したいっていうベクトルでお話をしましたが、やっぱり我々が既に持っているものとして、過去の人間と自然の関係について学ぶのがいいのではないかと思っています。

我々もサンゴも結果的にこのような形で残っているというところに目を向けると、もう少し将来が見やすくなるんじゃないかなと思うんですね。

日本人は経済にしても未来を考える時はこうなったらどうなるというシミュレーションに頼りがちですが、過去を掘り起こすことを丹念にやると、環境の激変などを潜り抜けてきた、本当の知恵がいっぱい詰まっている。それを我々の世代だけではなく、次世代の人たちと一緒に考えていくことが必要だと思っています。それがまさに人間がここまでになった一番の理由や知恵だと思うので。

敏感性や多様性という意味では、サンゴから学ぶものがたくさんあり、その複雑だけどいろいろギュッと詰まった上に人間も乗っかっているのだから、それを前提に未来を考えたい。100年後の人に「僕は今こう考えているんだけど、君はどう考えているの?」ということを思いながら日々やっています。
西村
ありがとうございます。お話を聞いていて、人間もほとんどサンゴと同じ構造だなと思いました。地球という大きな場所に群体として人間がいて、この地球が壊れると滅茶苦茶困るという。そういう弱さと敏感性を人間も持っていて、まさに今「なんとかしなきゃ」と言っているところなんだなと思いました。
渡邊
面白いですね。群体として似ているというのは、そうかもしれない。
西村
ただし、先に人間が弱った時にエネルギーを補い合うような関係性はまだそこまで整っていない。そういう意味では人間には迫力がないし、やっていける感じがしないっていうことですよね。
渡邊
そうなんですよ。もちろん人間も歴史時代を生き残ってきて、それなりの知恵はあると思うし、僕が知らないだけかもしれないけど、私たちはサンゴが競争が激しいところで結果的に多様性を維持しているということの事実に学べると思うんです。そういう視点で捉え直すと、人間も地球の上に広がる一つの群体であり、人と人とがどうやってコミュニケーションを取りながら集団をつくり、文明をつくってきたのかは、意外とサンゴと似ている構造かもしれないと思いました。
西村
僕も思いました。大体沿岸部に住んでいるし、似ているなと。
この記事は、ミラツクが運営するメンバーシップ「ROOM」によって取材・制作されています。https://emerging-future.org/newblog/(外部サイト)

昨年末、喜界島サンゴ礁科学研究所が開催した「礼文島と喜界島」をテーマにした講演会に参加し、地球規模の気候変動が数千年前の人々に与えた影響について知ることができました。中でも印象に残ったのは、サンゴに地球規模の気候変動が刻まれたまさにその時期に、外部と接触し文化を融合させることでその危機を乗り越えていくような人々の行動が見えるということ。つまり、海流に浮かぶ小さな島に暮らした人々は、決して閉ざされることなく逆に海流を利用し、長距離を移動しながら情報とモノの交換を行なっていたのです。

そのような過去の人類の経験は、地球温暖化による気候変動に直面し、また感染症という危機が目の前にある私たちに、生きる勇気を与えてくれるように感じました。
今回のインタビューでは研究者でありながら積極的に人と関わり合うことで道を切り拓く渡邊先生の姿勢にも共感しました。今後も小さなサンゴの島から始まる取り組みに注目していきたいと思います。

  • 執筆 草刈朋子

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