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「マイクロプラスチックは三大都市圏の川に多い」全国の河川を調査した研究者

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河川のプラスチックごみ
片岡智哉さん

片岡智哉 愛媛大学大学院理工学研究科 生産環境工学専攻 准教授

1983年、三重県四日市市出身。2006年、徳島大学工学部建設工学科を卒業後、国土交通省中部地方整備局に入省。2007年からは同省国土技術政策総合研究所に異動し、2009年から同研究所で海洋プラスチック汚染に関する研究を始める。2011年から豊橋技術科学大学大学院工学研究科に社会人学生として入学し、2014年に修了して博士(工学)を取得。2016年から東京理科大学理工学部土木工学科助教。2021年から現職。

研究室サイト:http://www.cee.ehime-u.ac.jp/~tkata/index.html

── マイクロプラスチックの研究をされていると伺いました。

はい。環境問題の解決の一環として、河川におけるマイクロプラスチック(大きさが5mm未満のプラスチック ※以下MP)汚染の実態解明や海洋への輸送過程の解明について研究しています。

これまでの調査で、全国のほとんどの河川でMPが見つかっています。この結果は、我々の生活圏ですでにMPになり、河川を介して海洋に流出していることを意味しています。

河川で見つかったマイクロプラスチック(背景格子サイズ:1mm)

河川までの流入過程はいくつか考えられます。例えば、路上に落ちているプラスチックゴミがあげられます。元の製品状態であれば、隙間の小さい道路脇の排水溝に入り込みませんが、紫外線や熱などで劣化し細かく砕けてしまうと、排水口や下水道などを通じて川から海に流れ出てしまいます。そのため、各地域の路上に落ちているプラスチックも、海洋にあるMPの発生源の1つと考えられます。

そこで、私は、いつ・どこから・どれくらいのMPが陸域で発生し、そのMPがどのような過程を経て河川に流入し海洋に至っているのかを研究しています。

── どのような調査をしていますか?

マイクロプラスチック採取後のネット

橋梁から長さ75cm、直径が30cm、目合いが0.355mmのプランクトンネットを川に入れてMPを採取しています。ネットの開口部には、ろ水計が装備されており、ネット内を通過する流速を測ることができます。その流速にネットの開口面積を掛けることで、通過した水の量を計算し、採取したMPの数、重さを量れば、河川水1立方メートルあたりに含まれるMPの個数や質量(MP濃度)が分かります。
※プランクトンネット:プランクトン(水中・水面を漂う小さな生物)を採取するためのネット

現在は、流域の利用形態によるMP濃度の違い、河川流況(平水期と出水期)によるMP濃度の違い、河川の鉛直方向(水面から川底の方向)と横断方向(左岸から右岸の方向)におけるMP濃度の分布といった3つの点に着目して、河川におけるMPの汚染実態と輸送過程の解明に取り組んでいます。最終的にはこれらを組み合わせて、国内河川から海洋にどれくらいMPが流出しているのかを明らかにしたいと考えています。

── MPが多い河川もあるのですか?

やはり三大都市圏で多い傾向があります。今までに全国70河川90地点でMP濃度を計測した結果、人口が集中する大都市圏の川から多くのMPが発見されていることや、流域の利用形態(市街地、自然地、農地など)や河川の水質によりMP濃度が違うことが明らかになってきています。

市町村人口密度と河川マイクロプラスチック濃度分布の比較

また、埼玉から東京を流れている荒川を上流から下流まで調べると、上流よりも中流・下流のMP濃度の方が高い傾向にあります。荒川の場合、河口から上流3kmの地点に干潟があり、そこは消波ブロックで覆われた地帯でゴミが溜まりやすく、MPもたくさん確認されています。

荒川河口近くの干潟

また、千葉県柏市には手賀沼という湖に注ぐ大堀川があります。そこは流域の8割程度が市街地であり人口密度も高いため、MP濃度が高く、時期にもよりますが、河川水1立方メートルあたりに90個のMPが確認されたことがありました。

── 調査地点はどのように決めていますか?

調査地点は、潮汐による潮の満ち引きの影響がないことを考慮して決めています。潮汐の影響があると、海から上流の方向に海水が遡上するため、海起源のMPか、陸起源のMPかが分からなくなるためです。そのため、我々は潮汐の影響がない最下流の地点までを対象に調査地点をきめています。

── 雨後はMPは多いですか?

そうですね。例えば、大学の近所に流れる江戸川でも雨後のMP濃度ピークは一桁~二桁大きくなっていました。このピークは、河川の流量が増加する時期(増水期)に現れ、その後、流量が減少する時期(減水期)には平常時と同オーダーまで一気に下がります。

これは雨により路上などで生成されたMPが、雨水と一緒に一気に河川に流入して濃度が高くなっていると推察されます。

路上に落ちているマイクロプラスチック

── 河床(川の底)でもたくさんあるのですか?

はい、河床にも堆積している可能性があります。川の水流は乱れているので、あまり沈降していないと思っていたのですが、実際に鉛直方向にMP濃度を計測してみると、底層付近でMP濃度が高いという結果が得られています。さらに、その中には比重が水よりも小さいポリエチレンやポリプロピレンも多く含まれていました。

これらの調査結果は、MPが多量に沈降していることと出水時に河床から巻き上がって下流に輸送される可能性を意味しています。MP濃度の横断面分布は、河川におけるMP輸送において重要ですが、世界中の多くの研究では河川の水面しか計測していません。

今後、これらの調査結果を精査して、国内河川から海洋へのMP輸送量を明らかにしたいと考えています。

── 海のプラスチックは8割が陸から流出していると聞きます。先生の見解はいかがですか?

プラスチックは陸域で我々人間が使用しているものですので、8割の数字に違和感はありません。ただ、漁具などが目立つ地域もありますので、場所による違いはあると思います。

── では川ゴミはどこから流れてくるのでしょうか、下水? ポイ捨て?

様々な流入経路が考えられます。例えば、農業や工業の用水路などは、柵があっても人の落下を防止する柵がある程度で、プラスチックの流入を阻止するものではないため、大きさによらず路上に落ちた様々なプラスチックが容易に流入します。もし下水処理場に集水されていれば、そこでフィルターされますが、そのまま水域に放流している水路もあります。

また、ビニール袋などは風でとばされて水域に直接流入しているかもしれません。前述のとおり、MPは隙間の小さな排水溝ですら通過してしまうため、さらにその流入経路は多様化します。

分流式下水道では雨水管などを通って直接水域に放流されている可能性も考えられます。つまり、陸域でいつ・どこから・どれくらいのMPが発生しているかを知ることが重要となります。

── 日本では初の結果ですか?

そうですね。全国的な河川のMP濃度の調査は、国内初の試みだと思います。最近では、環境省も河川でのMP濃度の調査を始めていますので、今後さらに国内河川におけるMP汚染実態が明らかになってくると思います。

また、我々はMPだけではなく、その元となるマクロプラスチック(大きさが2.5cm以上のプラスチック)の輸送過程にも着目して、その計測手法の開発も行っています。マクロプラスチックは、出水時には植生などと一緒に流れており、直接採取は非常に大変です。そこで、河川表面を動画で撮影し、その動画を画像解析することで、浮遊するマクロプラスチックの量を簡単に計測する技術を開発しています。

河川水表面におけるマクロプラスチック量の遠隔計測装置

例えば、以下の動画は、デシタルカメラで橋梁から水面を鉛直方向に撮影して、自然物と人工物を分けて抽出した画像解析結果です。ここでは、水面との色の差が大きいものを人工物と定義しています。

今後は、この画像解析手法にAI技術を応用することで、河川水表面を流れるマクロプラスチック量を遠隔計測するシステムを開発したいと考えています。このシステムを応用してマクロプラスチックの流出監視にも貢献したいと考えています。

── 川ゴミ計測の最先端ですね

やっていることがマニアックなだけだと思います(笑)。ただ、本システムでは流速も同時に計測できるため、将来的に防災・減災に関する実務にも活かせるのではないかと考えています。また、海外ではドローン観測とAIを用いたプラスチックのモニタリングに関する研究が盛んに行われています。

今後、このような海外の研究者と共同しながら、自然水域におけるプラスチック監視の高度化に貢献できればと思っています。

── 海に流れ出てしまったMPは回収できません、何か対策はありませんか?

河川におけるMP汚染の実態を知るとともに、その元となるマクロプラスチックがいつ、どこから、どれくらい流れているかを知ることが重要です。これを踏まえて、MPを含むプラスチックの海洋への流出抑制の対策を講じていかなければいけません。

数多くのマイクロプラスチックが見つかる

また、すでに流出したプラスチックを放っておくと、いずれMPになってしまいます。そのため、自然水域に流出したプラスチックを回収する対策も同時に推進していかなければならないと思います。

── 先生が理想とされる世界はありますか?

川や海にプラスチックのゴミがない世界が理想だと思います。その理想の実現には、生活者の意識の変化も重要だと思っています。路上に落ちているプラスチックはその場の景観を壊しているだけでなく、川や海に流れてしまう可能性があることを意識していただければと思います。ポイ捨てされた物が劣化し、最終的には海に出てしまうことを知らない人が多いのも事実です。

解決には多くの問題があって一言ではお伝えできませんが、道路や河川の管理者の方も日々清掃されている中で、より一層の環境への配慮を意識していただくなど、各管理者の姿勢も重要になってくると思います。

── 川ゴミの清掃活動で気を付けることを教えてください

川ゴミは、下流で清掃をしても上流が清掃されていなければすぐに元に戻ってしまいます。実際に、先程紹介した荒川河口近くの干潟では、清掃活動1ヶ月後には清掃前の状態に戻ってしまったという話を聞いたことがあります。そのため、上流から下流までの清掃を組織的に行うことが重要かもしれません。

また、上流から下流で回収された川ゴミは、流域の利用形態が反映されますので、どこでどのようなゴミが多いのかを公表、もしくは自治体などに情報提供することで、その流域に対する啓蒙・啓発活動につながると思います。

── 我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

私たちの身の回りにあるプラスチックも、川を通じて海を汚染する可能性があることを是非知っていただきたいと思います。まず不必要なプラスチックはなるべく減らす、使い捨てのものは最後まで管理するという行動を意識することが大切だと思います。

── 片岡さんの想いを

我々の生活と、自然との共存にはトレードオフの関係があると思います。すなわち、人間生活の利便性を向上させると、環境汚染が進行するということです。海洋プラスチック汚染や気候変動は、まさにその典型的な事例だと思います。また、コロナ禍における経済活動にも同じことが言えるかもしれません。

したがって、これらの環境汚染の対策を講じながら、これらを教訓に、自然との共存について改めて考えていかないといけないのかなと思います。今後、このようなことを頭の片隅におきながら、少しでもより良い社会の構築に貢献できるよう研究を進めていきたいと思います。

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