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豊かな未来のきっかけを届ける

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「チョーかっこいい」漁師に惚れた東京の子、気仙沼で漁師の育成に乗り出す

TRITON JOB

宮城県の北東部に位置する気仙沼――。

リアス式海岸の地形を活かした波穏やかな気仙沼漁港は、マグロやカツオ、サンマ、メカジキなどの遠洋近海漁業の根拠地として、またワカメやカキ、ホタテの沿岸漁業も盛んです。

2011年3月11日の東日本大震災では、湾内が火の海になるという壊滅的な被害を受けたにもかかわらず、同年6月23日には魚市場を再開。6月28日にカツオの水揚げ、7月8月にはカツオやサンマ船の出入港を開始しています。震災からわずか数ヶ月、町にはまだ瓦礫が残る中での漁港再開。それほど気仙沼の人たちにとって海は活力であり、深い思いがあります。

早朝、群れるウミネコをしたがえ漁船が帰港。接岸された漁船から、魚が次々と水揚げされます。魚市場では、並べられた魚を丁寧に目利きする人と、その間を縫うように魚を運搬するフォークリフト。やがて朝日が顔を出すと、魚市場に陽が差し込み、立ちのぼる蒸気と水しぶきが幻想的なシルエットを描きます。

歓迎! 漁師の担い手 プロデュース

魚市場前、数棟のトレーラーハウスでつくられた、みしおね横丁の中にある、銭湯「鶴亀の湯」と「鶴亀食堂」。朝7時、水揚げを終えた漁師さんたちが集う憩いの場所です。この「鶴亀の湯・鶴亀食堂」を運営する「一般社団法人 歓迎プロデュース」が今、地元漁師と新たな担い手をつなぎ、新人漁師に育てていこうとしています。

鶴亀食堂を切り盛りする一人が、東京生まれ東京育ちの都会っ子・根岸えまさん。今は気仙沼に移住して、市街地から車で30分ほどの唐桑地区に住んでいます。

「2011年の秋、大学2年の時に震災でひとつの町がなくなるってことについて考えてボランティアで気仙沼を訪れて。その時に出会った地元の漁師さんが『俺には海しかない。俺はこの町に生きてきて、この町をもう一度この手でなんとかしたい』と......」

えまさんにとって、スーパーで買う魚はただのサクで、モノでしかありませんでした。けれど、命がけで魚を獲ってきている話を聞いて、漁師さんにありがとうと伝えたい、漁師さんが少しでもホッとできる場所、帰ってきたいなと思える港町・気仙沼にしたいと思い、1年間大学を休学しお試し移住、復学・卒業を経て、2015年から本格的に気仙沼に移り住み、活動をはじめました。

 ザ・漁師 運命の出会い

「気仙沼は、漁師さんの仕事と町が密接につながってるって、誇りを持って仕事をしている人がいるんだと思って、かっこいい大人の背中を見ました。見ている世界が違いすぎて、たとえば、私たち移住者が常識外れのことをしてもずっしり構えて受け止めてくれるし、漁師さんはちょっとやそっとでは動じない。そんな漁師さんの存在が私の中ではすごく大きくて......。大学や肩書きじゃなくて、『根岸えま』として見てくれる。だから、人間が試されるって感じるんです。漁師さんは、自分に厳しく、甘えもない。過酷で孤独な海の上で命と向き合っている環境の中でも、絶対に諦めないという姿勢やその時に出せる最大限を出すっていう姿がチョーかっこいい! 漁師さんの目尻の笑いシワと潮焼けの感じが、たまらん(笑)」

そのたまらん目を持ち、えまさんが漁師と向き合うきっかけになったのが、第18一丸 船頭の佐々木夫一さん(70歳)。突きん棒や大目流網(※1)漁でカジキやサメを狙う漁船の船頭さんです。

「オラの話す何に心動かされたか知んないけんど、どう感じたかが問題なわけさ。彼女は東京って街でいかに日常が平々凡々なんだかって。オラんところは自然相手だし、波風があるわけさ。けんど、やっぱオラたつは漁師しかねえもん。海が好きで、魚獲り好きじゃねえと漁師は務まんねぇ。けど、なんぼ強がり言っても若い人がいなければ船は出せねえわけだから、若い人たつは大切にせねばなんねえ。そして移住者たつに力を借りて、この人たつが繋ぎ役をやってくれたし、オラたつの思いをくみとって、漁師の担い手を募集してける。彼女は普通の子だけど、人目を気にせず、おしょすがらないのがいいとこさ(※2)」

二人は他愛もないことで笑い、時に真剣に話し合う。おじいちゃんと孫のような、でもそれ以上の厚い信頼関係で結ばれています。

※1 突きん棒漁:船首に取り付けた突き台から、長さ5mほどのモリを振りかざし、水面を猛スピードで走るカジキを突くというシンプルかつ豪壮な漁法。/ 大目流網:漁場で潮流と直角になるように網を流す漁法。約2時間かけて投網し、約6時間後に揚網。
※2 おしょすがらない:恥ずかしがらない

漁師さんのために

えまさんは、漁師の後継者をつくりたいという思いを持つ中で、地元のホテルや旅館の女将さん、地元女性の会「気仙沼つばき会」にも参加。航海の安全と大漁を祈願して漁師の出航を見送る「出船おくり」は、気仙沼つばき会の働きで、今では気仙沼の観光を支えるセレモニーになりました。

その気仙沼つばき会でえまさんが出会ったのが、気仙沼生まれで家業も漁船や水産業に関わる仕事をしている小野寺紀子さん、斉藤和枝さん。紀子さんは現在、漁船に餌や資材を積み込む会社を、和枝さんは水産加工会社と飲食店を経営しています。

意気投合した三人は漁師さんのためにと「歓迎プロデュース」を立ち上げ、最初に取り組んだのが銭湯と朝めし屋を復活させるプロジェクトです。地元で131年続き、被災後も漁師やボランティアのために営業再開していた「亀の湯」が、防潮堤建設のため2017年に廃業。全国から来る漁船で栄える港町なのに、港の近くに漁師が入れる銭湯がなくなってしまいました。銭湯と朝めし屋復活のために挑戦したクラウドファンディングでは、目標額を超える6,290,500円を達成。2019年7月26日にオープンしたのが「鶴亀の湯」と「鶴亀食堂」です。

和枝さん「私たちの家は子どもの頃から漁師さんが自由に出入りしていて、その船では獲らない魚を出したりしながら、家族と漁師さんが一緒にごはんを食べてたんですよね。それほど漁師さんが身近でした。だから、漁師さんのための食堂もお風呂も必要だと。漁師さんのための店をやってんですっていう思いと風呂屋をやってる姿勢が前面に浮き出て見えっから、今はいろんなところからお客さん来っからさ、すごいね~」

紀子さん「えまちゃんに何やりたい?って聞いた時に、『私は新人漁師さんが漁の基礎を勉強できたりトレーニングできたりする場所をつくりたい』って。そんな発想これまでなかったから、和枝さんと二人で『大したもんよねえ~』って感心したのよ。カキとかワカメの沿岸漁業の漁師さんも重要だけど、新しい人がやるにはなかなか大変だと思ってたっけ。せっかくある海、実績をつくりながら、気仙沼が人を大切にして育てる町になっていけるように。私たち、船とか浜とか漁師さんたちと切っても切れないのよね~」

えまさんは、ただ銭湯と食堂をやりたかったわけじゃないといいます。

「和枝さんも紀子さんも、船があって自分たちが生きてきているという思いがあるので、漁師さんたちを暖かく迎える場所にしたいし、それが私たちにできること。この銭湯と食堂を第一歩として、漁師さんを応援する、漁師さんを日本一大切にする町にしたいと思っています」

漁師さんを日本一大切にする町・気仙沼にーー。

その思いはこの町が、漁師さんをはじめ、造船や製氷、製函(箱)、航海中の衣料、食料品、水産加工品など、多くの人が海と関わり、海とともに生きているから。

気仙沼市水産課のみなさん
宮城県漁協のみなさん
気仙沼の担い手事業を一緒に盛り上げる気仙沼市水産課(上)と宮城県漁協(下)のみなさん

2020年度から気仙沼市で沿岸漁業の担い手育成事業が始まります。事業開始のきっかけはひとりの漁師さんの声でした。
石巻で担い手育成事業を展開する「一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン」と、漁師のための銭湯や食事処を運営している地元の「歓迎プロデュース」とが連携し、共同で進めていくことで、スピード感を持って取り組むことができます。次世代の教育にも力を入れ、地域にとって漁業が大切なものであり誇れるものであることを、日本一漁師さんを大切にするまち「気仙沼」から発信していきます。

 寄港地・鶴亀食堂

昨年、今季限りでカツオ漁を引退すると言っていた漁師さんが、また次の年も鶴亀に来たいからという理由でもう1年船に乗り続けて顔を見せにやってきてくれたそうです。「鶴亀があったから引退がのびるとかそういうことがすごいうれしい」と、えまさん。この日彼女のもとには、宮崎から来たという20歳のカツオ一本釣り漁師も会いにやってきました。

「船の上では価値観も世界観も違う親の世代と働いている若い子たちと同じ価値観をもつ私がいることで、ちょっとグチをこぼせる場所に鶴亀がなれたらいいな。私は、船も漁師さんも大好きだけど、漁師の世界と違うごく普通の価値観を持っているから、ある意味無責任に船頭さんに『そこおかしいでしょ』って言えちゃうし、そういうことも役割のひとつかなって」

「漁師の仕事って好きじゃないとできない。だから、人の思いを受け止めてくれるまっすぐで心がきれいな人に漁師になりたいですってやってきて欲しい。そしたら、間違いなく素敵な漁師さんのもとで働けるサポートをします。気仙沼は、自分を20代の時にすごく成長させてくれた町。これまで団体も地域もやり方も違っていたけど、念願叶って若い漁師さんを増やしてきたフィッシャーマン・ジャパンといよいよ担い手育成事業で交わることになったので、めっちゃ楽しみ!」

午前10時過ぎ、作業を終えた漁師が談笑しながら歩いている。手にはそれぞれお風呂セット。

入浴の後には、大きな笑い声が鶴亀食堂の外まで聞こえてくる。

大海原へ 未来を目指して 

港町・気仙沼の海が、人と新しい世界をつなぐ。

取材協力 
鼎・斉吉:〒988-0014 宮城県気仙沼市柏崎1-13 営業時間/10:30~17:00 定休日/毎週火曜日と水曜日

\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、海のイマを知ってもらうことが、海の豊かさを守ることにつながります。

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