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5歳の子の死を未来につなげるために。ライフジャケットの重要性を知って!

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ライフジャケットをつけてプールに浮かぶ子ども達
吉川優子さん

吉川優子 一般社団法人吉川慎之介記念基金 代表理事

略歴
1971年:横浜市生まれ 神奈川県鎌倉市在住
2013年6月:学校安全管理と再発防止を考える会を発足
2014年7月:一般社団法人吉川慎之介記念基金設立
2014年9月:日本子ども安全学会発足
水難事故予防と子どもの安全・事故予防啓発活動を行っている

吉川慎之介記念基金のことを教えてください

2012年7月20日、愛媛県西条市にある私立幼稚園のお泊り保育の行事中に、上流にあたる渓流地で浮き輪・ライフジャケットなどの必要な装備や準備がされていない状態で水遊びが実施され、当時5歳だった私の息子・吉川慎之介は増水した川に流され亡くなりました。

吉川慎之介さんの写真
吉川慎之介さん

早急な真相究明の願いとは裏腹に、遅々として進まない事故調査、原因究明、責任の所在不明のまま事件が風化されてしまうことを恐れた私たちは、今は何が必要なのか、再発防止にむけて事故と真摯に向き合い、慎之介の死を無駄にすることなく未来につなげていきたいという想いを持ち、2013年6月14日「吉川慎之介君の悲劇を二度と起こさないための学校安全管理と再発防止を考える会」を西条市の保護者の皆さんと一緒に立ち上げました。

そして、翌2014年7月7日に保育・教育現場の管理下において、いまだに繰り返されている様々な事故の現状をふまえ、事故の再発防止と未然防止の啓発活動を行うために「吉川慎之介記念基金」を設立しました。

どのような活動をしていますか?

吉川慎之介記念基金の活動は「日本子ども安全学会」「保育・教育現場の安全危機管理事業」「子どもの安全管理士講座」「被害者・遺族・家族支援」「事故事件の調査・検証の提案」を基本の柱とし、誰もが子どもの安全を考える社会を目指し活動しています。

講座の様子

慎之介記念基金の立ち上げについて詳しく聞かせてください

この事故は家族で遊びに出かけて起きた事故ではなく、幼稚園という管理下の元に起こったことなので、向き合う先として幼稚園をはじめ、自治体、文科省など関係する機関すべてに連絡を入れましたが、再発防止に向けた動きにつながりませんでした。そのため、個人ではなく組織的な活動が必要だと考え、事故から一月後に活動することを決めました。

事故後、警察の捜査はすぐに始まりましたが、幼稚園など管理下で事故が起きた場合の再発防止や原因究明、事故情報や予防策を周知するための仕組みや制度がないことに私は驚き、突然、当事者になって経験したことのない状況が続きました。

私たちの活動の原点は、保護者の皆さんとお泊り保育に参加した子どもたちと一緒に、事故3日後から始めた事故検証にあります。この検証は、慎之介の葬儀の際に夫が「このような事故が起きて一番驚いているのは慎之介だと思います。二度と同じことが起きないように、原因究明を徹底的に行います。」とお伝えしたところ、その声に保護者の方と子どもたちがこたえてくださって「子どもたちの記憶が薄れてしまう前に、どういう事故だったのかレポートを纏めたい」という思いから実施されました。

事故直後で不安な気持ちでいっぱいだったと思いますが、事故現場に子どもたちも来てくれました。彼らは慎之介との最後の会話や流されていく状況を目撃しているため「慎ちゃんがあそこに立っていた」など状況を教えてくれました。増水した川の中に取り残された子どもたちは、宿泊予定だった施設スタッフの方や観光客の方に助けられ、「知らない先生が助けてくれた」と話してくれました。

引率した幼稚園の先生方に対する疑問や不信感は深まるばかりでしたが、一方で、「子どもたちはどんな時も、周りにいる大人たちが私たちを助けてくれると純粋に信じている」と感じたのです。

事故翌年の春に東京へ引っ越したのですが、保育・学校管理下の事故でお子さんを亡くされた遺族の方とお目にかかる機会を頂きました。すると大勢の遺族の方が事故の詳細が明らかにされず、長い間置き去りにされている現状に、慎之介の事故だけが特別なことではなく、多くの方が苦労されていることを初めて知ったのです。

お話を聞くと遺族の皆さんも事故調査・原因の必要性を訴えてきました。しかし、詳細を明らかにすることなど「当たり前」のことができていない状況が続いているため、再発防止の公的な仕組みが必要だと考えるようになったのです。

吉川優子さん

日本子ども安全学会とはなんでしょうか?

2013年6月に「学校安全管理と再発防止を考える会」を設立し、慎之介の事故に関する第三者委員会を起ち上げて、事故検証報告書を愛媛県と西条市に提出しました。そして、全国の保育・教育・学校管理下で発生している事故について学び、それらの事故に共通する問題点についての研究・検証を行うための勉強会を開催して参りました。

その後、法人設立に伴いこれまでの勉強会をより発展的にするために2014年9月に「日本子ども安全学会」という形で本学会は発足しました。小さな会ではありますが、事故の問題と向き合う中でご縁を頂いた遺族の方や有識者の先生方、子ども安全管理士の方などを中心に、年に一回、大会を開催し、保育・教育現場における安全危機管理や子どもの事故予防について、情報共有や発信する場を提供しています。また、機関誌「子ども安全研究」を、2015年から年に一回発行しています。

子ども安全学会2018
子ども安全学会2018

「子ども安全管理士」は今までに何人受講されていますか?

2015年から2016年に第1期~第4期まで開催し、保育・幼稚園・教育関係者の方などを中心に全国から約300名の方が受講されました。

現在では、大村市と認定NPO法人Love&Safetyおおむら(出口貴美子代表理事)が共催で行っています。2017年より毎年開催されている、大村市子ども安全管理士講座は2020年現在で、約100人の子ども安全管理士を輩出し、2020年はオンライン講座形式で行っています。

そして、大村市の実施例を参考に、愛媛県西条市でも、愛媛大学と西条市との地域連携事業として令和2年度以降、毎年継続的に開講することが決定しています。

子ども安全管理士講座
子ども安全管理士講座

こうした取組を通じて、子どもの事故予防と安全に関する知識や理解が地域レベルで全国に広がることを期待しています。

被害者・遺族・家族支援のことについて教えてください

私自身が遺族という立場でありますので、支援をするということよりも、何が必要なのかということをお伝えすることと、活動を通じてお示しすることで支援体制の構築に繋げていくことが重要なのではないかと考えてきました。事後に生じる問題や課題はとても深刻ですが、法的支援やグリーフサポートは、とくに重要な対応になると思っています。

事故調査制度などでも検討が必要な事項となりますので、行政などへの要望や勉強会などを重ねてきました。これまで、遺族団体の方や遺族の方、被害者支援センターの方々にたくさん助けていただきました。そして、遺族同士だからこそ話せること、話し合える機会はとても大切だと実感しています。

しかし、日本ではグリーフ(悲嘆)の理解が社会に浸透しているとは言い難い状況ですので、ある日突然、予期せぬ形で大切な人が亡くなるという事実に対して、当事者が取り残されないような社会のサポートが重要だと思っています。

2016年12月 朝日新聞社・セーフキッズジャパン「小さないのち 守るためにできること」
2016年12月 朝日新聞社・セーフキッズジャパン「小さないのち 守るためにできること」

事故防止活動と事後対応の両方に力を入れているんですね

実は、被害にあった30人の子どもたちは今でも事故に向き合っていると感じることがありました。それは事故の特集番組が放送された2015年のときのことです。当時の映像を見たことで事故の記憶がよみがえり、これまで伝えることができなかったことを話してくれたお子さんがいたのです。

このように子どもたちは、今でも事故の体験が心に残っていますので、私もしっかりしないといけないと思い、事後対応についても誠実でありたいと思いました。遺族・被害者対応などの事後対応は、とても深刻でセンシィティブな問題です。だからこそ遺族の私が伝えられることがあると思っています。

一方で、事後対応の問題や課題の改善だけでは、事故を防ぐことはできませんので、事故予防の活動も並行して行ってきました。そもそも事故が起きなければ、事後対応も発生しませんので、予防というのはとても重要なことなのです。
予防に関しては、とてもポジティブな活動なので、立場を超えて、大勢の方に関わっていただきたいと思いますし、これからもどんどん広がって欲しいです。

このような活動ができるのは周りの方々の支えがあり、皆さんが一緒に走ってくださるからです。もし一人だったら、心が折れてしまうこともあっただろうと思います。

慎之介はすごく明るい子どもでしたので、その思いを込めて事故予防啓発は明るく、笑顔を大切に、いろんな方と楽しく活動しています。慎之介もきっとそれを望んでいると感じます。

2019年7月 STONE HAMMER2019 西条市 玉井市長と一緒に
2019年7月 STONE HAMMER2019 西条市 玉井市長と一緒に

活動が結果につながりましたね

日本には子どもに関連する法律として児童福祉法などがありますが、子どもに特化した法律がないため国連からも勧告を受けていました。先進国の中でも、日本では不慮の事故が子どもの死因の上位を占めるという現状が変わらずに続いています。

そうした状況の中で、2018年12月に、「成育基本法」が可決されました。社会全体で子どもの命を守り育むための法律ですので、一人でも多くの方に知っていただきたいと思います。

この成育基本法の施行に合わせて成育医療等協議会が立ち上がり、私はその協議会の委員として、子どもの事故再発防止と予防を目的とした事故検証制度と死因検証に関して意見を述べさせていただいています。私の意見書も厚労省のサイトに公開されていますのでご参考にしてください。

※成育基本法とは:子ども、およびその保護者を対象とした法律。医療を中心に医療、福祉、教育を包括的に捉えて妊娠期から成人するまで切れ目ない支援を行うというもの
(参照:https://www.ncchd.go.jp/news/2019/20191202.html

子ども安全学会2019
子ども安全学会2019

また内閣府の「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」と、文科省の「学校事故対応に関する指針」が2016年の同時期に発表されました。それによって事故が起きると第三者委員会が設置されて事故が検証できる状況になりました。
遺族の皆さんが長い間、訴え続けてきたことが国で制度化されたのです。もし慎之介の事故の時にこの制度があれば、事後対応は違っていたかもしれません。

事故の再発防止と予防啓発活動では、2017年に西条市へ子ども用のライフジャケットを100着寄贈しました。その後、市内2箇所の消防署にレンタルステーションが設置され利用されています。
(参照:https://www.city.saijo.ehime.jp/soshiki/gakkokyoiku/lifejacket-forchildren.html

2017年11月 西条市ライフジャケット寄贈式
2017年11月 西条市ライフジャケット寄贈式

今年は、新型コロナウイルスの影響で西条市でも学校の水泳授業が中止となり、市内のプールも閉鎖される状況下で、西条市の教育委員会の方から水難事故が心配だというお話を伺いましたので、冊子「Love&Safety子どもの安全管理~水辺の事故を減らすために、今できること」を、西条の活動団体(Love&Safetyさいじょう)と共に9000部寄付しました。市内全小中学校に通う生徒さん(全35校約8300名)に配布していただきました。水難事故予防の啓発動画も提供し活用していただいています。

Love&Safety 子どもの安全管理~水辺の事故を減らすために、今できること
Love&Safety 子どもの安全管理~水辺の事故を減らすために、今できること

2020年はコロナの影響で海水浴場が開場されませんが、遊びにくる子どもたちは必ずいると思います

そうですね。保護者の皆さんとお子さんに伝えたいことは、自分は大丈夫だと思う過信が一番危険で水難事故は「人ごとではない」ということです。事故を防ぐにはライフジャケットが重要なアイテムです。「危険だから着ける」ことは当然なのですが、楽しい活動をするためには準備物が必要になるという「学び」につなげて欲しいです。登山などアウトドアではいろいろな装備を揃えますよね。でも、水遊びは感覚として装備の意識が薄い気がします。それに「水着」だけだと、例えば、紫外線は年々強くなっていますので、肌の露出にも気を付けなければなりません。

近年、ラッシュガードの着用は急速に広まっていますが、ライフジャケットについても同じように理解を深めてほしいなと思います。そういった様々な自然の変化や環境・状況も含め、予防について正しく学び、自然を楽しむことを大切にしていただきたいと思っています。

私の息子は川で亡くなりましたが、川が悪いとか、水辺には行きたくないというようなことを一度も思ったことがありません。私は今、海の近くに住んでいますが、砂浜を歩きながら波の音を聞いたり水平線を眺めるだけでも心が癒されます。

そうした海辺はきれいであってほしいですし、悲しい事故が起きないように、自然と私たちがどう向き合い守っていくのかということが問われていると感じています。海へ遊びに行く前に、お子さんと一緒に話し合ってみていただきたいと思います。

2018年6月 西条市内小学校ライフジャケット着用事前学習
2018年6月 西条市内小学校ライフジャケット着用事前学習

これからの目標や夢はありますか?

事故から一ヶ月後に組織的な活動が必要だと感じると同時に、裁判を含めてこれから長い時間がかかると覚悟していました。そして、2016年に刑事裁判、2018年に民事裁判が終結しました。私の中では完全な解決はありませんが、教訓を活かすために、裁判の判決も事故予防の啓発活動も真摯に向き合い考え続けたいです。

いま改めて裁判の重さを実感しているところですが、一方で、活動の広がりと希望を感じています。事故から10年目を一区切りとし、もう少し走ってみようと思います。

慎之介の事件をきっかけに、事後の問題や課題と向き合い続けてきた中で、法律や制度などが整いつつあるので、あと少しだけ見守りたいですね。今も多くの遺族の方々が様々な活動をされていると思いますが、遺族が頑張らなくて良い状況や、事故予防の理解が常識になって啓発活動が必要なくなることが目標であり私の願いです。

これからの予定を教えてください

7月はライフジャケットの着用普及のため、専門家とともにライフジャケットの検討会を発足させました。この検討会では、「事故を防ぐための救命胴衣」という啓発の在り方と、水辺の活動を「楽しむために必要なライフジャケット」という観点に重点を置いて、まずは、海や川の特徴や発生している事故の状況、安全対策などについて情報を共有し検討を始めています。
(参照:https://shinnosuke0907.net/2590/

2018年7月 日本財団 海と日本プロジェクト「親子で学ぶ海のそなえ教室」
2018年7月 日本財団 海と日本プロジェクト「親子で学ぶ海のそなえ教室」

9月26日には、日本子ども安全学会第7回大会を開催します。テーマは、「子どもの安全と予防に関わる取組と実践」です。セミナーや勉強会なども、開催していく予定です。大村市と西条市で開講されている「子ども安全管理士講座」についても、協力・協働していきたいと思います。

我々に出来ることは?(あなたの力が必要な理由)

大人は子どもの命を守って欲しいと切に願います。

吉川さんの想い

子どもは、かけがえのない宝だと思います。
いつも思っていることなんですが、やはり子どもの存在はすごいと強く感じています。今まで慎之介を通じてたくさんのご縁をいただき感謝しています。

吉川優子さん

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