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【第3回】漁業の減収には、行政の手当と漁業者自身の工夫、両輪での対策を(提供:EDF)

みなと新聞

スマートフォンで魚種を記録する女性漁師

減収は埋め合わせられるか

資源を増やすため、漁獲を抑える資源管理。実際に獲り控えする時、漁業関係者に最も不安なのは、収入が減ることだろう。取材中、関係者から「資源管理は『(漁業者自身が望む方法を採れる)自主規制がよい』という人も多いが、実際は上(行政)から言わなければできない。魚が回遊する範囲での漁業規則の統一、監視だけでなく、代替の収入が必要だからだ。漁業者の本音は『お上が言うならやるよ。でも埋め合わせでお金ちょうだい』では」「資源の状態を知るためデータの収集などには協力したい。だが、それで国が資源状態の悪さに目を付け、規制となると困る」などの声も聞かれた。では、減収への備えに何ができるか。

豊富な魚を獲る

国によると、1月末時点で科学的な評価のある80の水産資源のうち44%は低位の(少ない)状態。ただ、高位のものも24%あり、他にも太平洋のマサバやマイワシのように、近年増えつつある資源もいる。増えた魚を獲り、高い値で売れれば、減った魚種を守りながら水産業の経営も続けられる。

マイワシの価値を高めているのが池下産業(北海道広尾町)。主力製品はフィッシュミール(魚粉)など養殖餌関係だが、脂ののった質の高い個体だけをえりすぐって鮮度管理を徹底、冷凍の「大トロいわし」として一般的な鮮魚の2.5倍の価格での出荷に成功している。

三重県で定置網など複数の漁場で魚を獲り、東京都内で居酒屋チェーンを抱えるゲイトは、漁場の近くに水産加工場も運営。市場価格の低い魚種が獲れても、その種に合った調理方法を開発して冷凍、都内の飲食店で提供し、売価をつけてきた。

漬け丼
値の付かないアイゴやイスズミなども調理法の工夫でおいしく提供するゲイト(松井隆宏東京海洋大准教授提供)

参考:「生きていれば、再生できる。生きている限り、世に尽くす」東京の居酒屋経営者が、三重県で漁業を始めた理由

沖縄では「環境に優しいモズク養殖で漁業者が副収入を得て、漁業管理が進めやすくなった」(沖縄県水産海洋技術センター秋田雄一研究員)という証言もある。

コストを抑える

そもそも「漁獲を抑えること=漁業者が減収すること」とも限らない。例えば福島県の底引網では、昭和後期に、休漁日を増やしたところ漁獲金額が上がった。魚の獲れ過ぎによる値崩れを防いだためだ。「最初は関係者の間で(漁獲を控えて)経営が成り立つか、など騒ぎになった。1カ月(休漁期間を増やして)やってみると、前年同月よりも漁獲が減ったものの、金額が上がっていた」(福島県機船底曳網漁業組合連合会)。高騰した燃油も無駄遣いせずに済んだ。

漁獲を抑えることで漁業者が減収する場合、行政がお金を出して埋め合わせることもできる。

沖縄では、行政が漁船で水産資源の状態を調査する場合がある。これについて同県の漁業者、柳田一平氏は「給料がつくのでありがたい。このように、資源を守る活動にお金がつくのは大切」と語る。

そして今、減収対策の核となっているのが国の漁業収入安定対策事業。行政に「資源管理計画」の認定を受けた漁業者の収入が一定割合より減った時、補償を行う。クロマグロの資源管理を強める静岡県定置漁業協会の日吉直人会長は「クロマグロ管理は、通常より手厚い収入安定対策で国から応援されている。しっかりやらないと申し訳ない」と語る。自民党には「同事業は資源管理強化の前提条件」と訴える水産系議員も多い。今のところ「資源管理計画の多くは科学的根拠不足」という指摘もあるが、今後も同事業の有効活用が減収対策の鍵であることは違いない。

日吉会長
静岡の定置網の自主規制を引っ張る日吉会長(手前から2人目)

また、資源管理で一時的に漁獲量が減る場合、水産加工流通業者が商材を集めづらくなることも予想される。漁獲が回復するまで、加工流通業者への減収対策や、輸入魚の仕入れにかかる経費の支援も課題となり得る。

漁業の減収は、行政による手当てと漁業者自身による工夫、両輪から対策を考えられそうだ。

さて、ここまで、漁業を適度に管理し、水産資源を増やしていく道を考えてきた。だが、漁業管理は水産業を守り成長させる方法の一つにすぎない。

資源管理だけで大丈夫か

例えば、漁獲を抑えるだけで対処できない環境問題。取材中も「温暖化で資源に影響が出ている」(石狩湾漁協)、「近年、黒潮が蛇行して日本沿岸を離れており、この影響で、多くの生物の住処となる沿岸の藻場が衰退してイセエビの餌場がなくなるのではないか心配」(三重外湾漁協和具海老網同盟会)など不安の声があった。

伊勢湾・三河湾のイカナゴ資源は1970年代後半に減った後、毎年科学的な漁獲規制で一定の産卵可能な魚が海に獲り残されるようになり復活。漁獲が安定していた。だが2015年夏ごろから姿を消し、16年以降は禁漁が続く。15年の春漁でも親魚を残していたこと、翌年以降禁漁していることから、乱獲ではなく自然現象で大量死したとみられ、原因として「水温上昇が疑われる」(愛知県漁業生産研究所)。

気候変動で水産資源がどんな影響を受けるか、不安は大きい。水産研究・教育機構によると、日本近海のスルメイカが激減していることにも、15~16年の水温条件の悪さが引き金を引いていた可能性が高い。また水温上昇の一因とみられる二酸化炭素は、海水のアルカリ性を弱め甲殻類や貝類、サンゴを育ちづらくするという予測もある。

一方で、気候変動で分布が変わり獲れやすくなる魚もいる。例えば水温上昇でブリが北海道へ、サワラが山形や青森へ北上し始め、新たな漁獲物として定着。人気を集めるようになった。

変化対応にICT

環境変化に対応するには、原因と対策方法を整理することが大切になる。沖縄では、漁協の主導で県のノウハウを生かし、人の流す赤土が海の環境に与える影響を調査。データを基に、赤土問題の原因となっている産業に対して対策を求めた例がある。

対策をスムーズにするため、将来を予測する情報通信技術(ICT)の開発も進んでいる。例えば気候変動の中で、どの魚がどこで獲れるようになるかを最新情報を基に分析して対応する。連載第1回2回のように、水温や潮流条件から、どこの海域でどんな魚が獲れそうか精度よく予測する技術は開発されつつある。

遠隔魚探で出航前から漁獲を予想
遠隔魚探で出航前から漁獲を予想する定置網会社の早田大敷

また、ICTは資源や環境以外の面からも水産経営に役立つ。漁場や漁獲を予想できれば、熟練の勘がない漁業者も、漁に出やすい。漁業者の人手不足や燃油の浪費も解消しやすくなる。

漁船が「どんな魚を何キロ揚げそうか」と予想し、各漁港への速報と情報交換ができれば、獲った魚をより需要のある地域や加工場のある漁港に揚げに行きやすい。漁業者と水産加工場が連携を強めれば、商品開発やPRの機会も増える。さらに漁獲予測は、観光客を漁業体験に誘致することにも有効だ。

激減したスルメイカは今、一部の国の違法・無報告・無規制(IUU)漁業から追い打ちを受けているとみられる。IUU漁船の動きをつかむため、人工衛星などから監視する取り組みも進行中。取り組みには日本の水産研究・教育機構に加え、米国のIT大手グーグルなどが参加している。将来的には、IUU漁業を疑われる船や国を特定し、輸入規制などの対策を取れる可能性もある。

環境や経営面などいろいろな情報を集め、広い視野で漁業の未来を考える時代が来ている。漁業ごと漁村(浜)ごとで、目指す未来は違うだろう。一体どんな未来を望むか、浜ごとで話し合うことが必要になる。この連載のスポンサーである非営利団体エンバイロメンタル・ディフェンス・ファンド(EDF)海洋部門の大塚和彦日本代表は「全国各地の先進事例に学び、未来志向で水産日本復興を」と呼び掛ける。

スマートフォンで魚種を記録する女性漁師
魚種を記録し漁獲予想に役立てるゲイト

資源管理は浜の未来を考えるのに必要な、テーマの一つ。そして困難を伴い、時に争いを生む、避けられやすいテーマでもある。だが、連載で見てきた通り、管理で資源を増やせる場面は多くあり、実際に困難と向き合って乗り越えてきた人たちも全国にいる。彼らの勇気と知恵から学べば「やらない理由」ではなく、「今できること」を考えられる。関係者の皆様にはこれから、より前向きに資源や浜、そして水産業の将来を話し合ってほしい。

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