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1匹20万円のカジキをモリで突いて獲る。釣り好きには、たまらない漁師の仕事

TRITON JOB

船の名前は、幸進丸。
幸い進みますように。
幸せに進んでいきますように。

「ひいばあちゃんが付けた名前。いい名前でしょ」

宮城県気仙沼市唐桑町で小型漁船漁業を営むのが、佐々木正利さん。季節ごとに船の装備を変えながら、1年を通して魚を獲る漁業を行っています。

ひいおじいさまから数えて正利さんで4代目。少しずつ自分の船で獲る魚種を増やしてきました。

ターゲットは、シラスやイサダといった1センチ程度の小さな魚から、全長3mにも及ぶカジキまで。釣り好き・魚好きにはたまらない仕事だと言います。

季節の魚を追いかけて

幸進丸では、1年を通して獲る魚が変わります。

12月半ばから2月にかけては、刺し網漁。獲物はタラです。
3月から4月はイサダ漁。
5月はシラス漁。この時期は人手も補充し、5人で操業を行います。
6月から9月は、突きん棒漁のシーズンです。夏の終わりに北上するカジキを追いかけるため、7月半ばから9月半ばにかけては北海道が漁場となります。「釧路港に出入りするので、ちょっとした旅行気分が味わえますよ」と司さん。

9月下旬から10月下旬になると、秋鮭の水揚げが解禁。深夜1時に出航の日もあり、十分な睡眠をとれない日もあるそうですが、それでも獲れた分がお金になるので、毎年この時期を心待ちにしているそうです。

1年を通して忙しく動いていますが、実質の操業は200日程度。3~5月は日曜休みもあり、秋鮭漁が終わってタラ漁がはじまるまでの数週間は、少しゆっくりできる時間もあります。

「普通の会社員のように8時間フルで働かなくても、2~3時間で稼げる。だから漁師はロマンがある。頑張ったら頑張った分、自分に返ってくるのさ」と、正利さん。

中学生の頃から漁を手伝っているという司さんも、漁師の仕事の魅力をこう語ります。

「大間のマグロのように一獲千金というわけではないけど、たとえば突きん棒で獲るカジキは、1匹で10~20万円。それをモリで突いて獲るわけだから、やっぱりおもしろいですよね」

気分は2アウト満塁!? 一投入魂の突きん棒漁

宮城県北部で盛んに行われているのが、伝統漁法である突きん棒漁。船首に取り付けた突き台から、長さ5mほどのモリを振りかざし、水面を猛スピードで走るカジキを突くというシンプルかつ豪壮な漁法です。

プールの飛び込み台のように船首に取り付けられた突き台は、水面から4mほどの高さ。船を操作する見張り台はそのさらに上。どちらも揺れる船の上では足のすくむような高さです。

見張り台に立つのは、正利さん。水温や潮の流れ、仲間の情報を駆使しながら、カジキがいる場所を狙って船を回します。

「もちろん1匹も獲れない日もある。それは自分の責任。でも、目の前で獲物に逃げられたらそれは息子の責任。そういうときは、『なにやってんだー!』って怒りますよ。10万、20万が目の前で逃げてくんだから。モリがうまくあたったときは、振動が自分にまで伝わってくるのさ。迫力あるよ」

同じくカジキを獲る漁法では、通り道に網を仕掛けて待つという大目流し網という漁法がありますが、突きん棒漁では、船を走らせ、獲物を見つけ、それを突くという3段階の難しさがあります。

勝負は、日の出から日没まで。昼食とトイレを除き、あとはひたすら海水面をジッと見続けます。

「目が良くないとダメですね。何かいるっていう海の異変を見つける目。でも決して目だけで獲る訳じゃないんです。集中力と、あとは勘も必要」

長年、突きん棒漁を行ってきた正利さんも、突きん棒漁だけは、肉体労働ではなく、精神的な労働だと言います。

かんかん照りの中、1日頑張っても1匹も獲れない日もあります。
お互いのイライラを次の日に持ち越さないのが、佐々木家のルール。一方で多い日は、10匹前後獲れることもあるそうです。

普段は船の上ではあまり会話をしないという二人ですが、1匹獲れるごとに必ずする儀式があります。

それが、握手。

「前に取材カメラを乗せたときに、プロデューサーに何かやってくれって言われて。肩抱き合うのも変だし、握手をしたのさ。それ以来、握手しないと気持ち悪くなってしまって(笑)」

船の上で握手を交わす二人を想像するだけで、微笑ましい気持ちになりますが、突きん棒シーズンは、二人とも験担ぎをとても大事にしているそうです。

どこまでも続く水平線と、日暮れまでの果てしない時間。海の上を走り、泳ぐ獲物を見つけ、獲る。シンプルに獲る漁だからこそ、海の上では二人の阿吽の呼吸が必要となるのです。

ここには何もない。でも、ロマンがある

司さん、実は高校を卒業して1年ほど仙台でフリーターをしていたそうです。

「漁師になるって決めてたから、その前に一度は外に出てみたかった。1年で戻って来るからってお願いして」

息子を快く送り出した正利さんと奥様ですが、「もう戻って来ないのでは」と、半ば諦めていたそうです。

しかし、ちょうど1年後の春。イサダ漁の時期に、司さんは戻ってきました。

「ここは何もない。でも、それでいいんだって。魚も買わなくていい。治安もいいし稼げる。じゃなきゃ、ここにいませんよ(笑)」

頼もしそうに司さんの横顔を眺めながら、正利さんは言います。

「この町を出て行く人も多いのが現実。でも若い世代に、漁師は夢があるって思ってもらいたい。やる気がある人がいいですよね。素直な人。欲がある人。向上心がある人。そういう人に来てもらえたら、もっとおもしろくなる」

そして、次の航海へ

静かに出航を待つ幸進丸。幸進丸は、女性を乗せることは決してありません。

『海の神様は女性だから、女性を乗せるとヤキモチを焼く』

海には古くからさまざまな言い伝えがあり、それを今でも大事に大事に守っている人たちがいます。

幸い進みますように。
幸せに進んでいきますように。
かつてこの船の名をつけた人は女性でした。

船に乗ることはなくても、この船を見守り続ける存在が、確かにここにあります。

目の前に見えるのは、船から海に飛び出した突き台と、天にそびえる見張り台。ここからどんな新しい海の冒険がはじまるのでしょうか。

\ さっそくアクションしよう /

ひとりでも多くの人に、海のイマを知ってもらうことが、海の豊かさを守ることにつながります。

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