''釣りで人生終わった''プロ釣り師の願い。ルールを破る人が得する日本の漁業を変えたい

「若い頃は日給のいい仕事を選んで住み込みで働いてさ、金が貯まったら釣りの遠征に行くのよ。釣り好きな社長と一緒のときは、社長が全部払ってくれてね」

『釣りバカ日誌』の浜ちゃんのような、『釣りキチ三平』の三平のような、『男はつらいよ』の寅さんのような。昭和映画の主人公を思わせるその人は、茂木陽一(もぎよういち)さん。

......と、ここまで聞いて「古き良き時代の、ただの釣り好きのおじさんか」と思うかもしれないが、茂木さんは、実はすごい人なのだ。

1990年代からプロの釣り師として活躍し、現在は釣具店を運営する株式会社グローウッズの代表。さらにスポーツフィッシング推進委員会の代表で、NPO法人水生生物の資源と環境を守る会の理事長で、一般社団法人 海の幸を未来に残す会の顧問も務める。

海外渡航歴は350回以上、113カ国を訪れ、世界中の海で釣りをしてきたという。

しかも、茂木さんがクロマグロの資源管理を提言して、実際に取り組むことでクロマグロの量が増えてきたと、青森のマグロ漁師に感謝されているらしい!?

釣りで訪れたスポットをマッピングしているという茂木さんのアプリ画面。日本列島が見えない......。

茂木さんの海へのすさまじい情熱はどこからくるんだろう。海なし県出身の茂木さんが釣り狂いになって、資源管理を意識するようになるまでを聞いた。

「あれで人生終わった」ーー電撃が走った、初めての釣り体験

── 茂木さん、出身はどちらですか?

群馬県の中之条町っていうところ。18歳までね。

── 意外にも海なし県なんですね。

そうそう、だから海との関わりなんてまったくなかったし、友だちに連れられて釣りをしたこともあったけど、「なんか退屈だなー」「おもしろくないなー」ってくらいで。

── それが、どうして釣り狂いに......?

俺、とんでもない適当な男で、家賃も払えないくらい遊びまくってて、23歳くらいで彼女の家に転がり込んだの。その子が沖縄出身でさ、のちに結婚したんだけど。結婚してから実家に行ったら、女房のいとこが沖縄の海に連れてってくれたのよ。そこでね、1.8kg、47cmのハタを釣ったの。ちゃんと測ったから覚えてるんだ。

引っかけたときに、抵抗する野生のパワーが竿を伝ってきたわけよ、その瞬間、全身に電気が走ったみたいになって興奮しちゃって。何がなんでも釣らなきゃって震えてさ。今は300kg以上の魚を釣っても震えないよ。でも、そのときは、手は震えてるし、足は震えてるし。

それで、人生終わっちゃったのよ。

── ええ~っ! 終わっちゃった(笑)。

それからね、女房なんか頭に入んなくなっちゃって。「沖縄で釣りしたいから、仕事を辞めて沖縄に住もう!」って言ったら、ラッキーなことに女房は喜んだの。

それまで、ちょこっとだけど一応ちゃんとサラリーマンやってたから。財形貯蓄とか退職金とかなんだかんだで手元に400、500万くらいあったかな。沖縄ではそれを切り崩しながら2年間まったく仕事しないで釣りばっかりやってた。

── でも、お金もいつかはなくなりますよね......?

そう。そのうち女房に愛想尽かされて。もうほら、釣りばっかり行ってるじゃない? 釣りから帰ってきたらベランダにあった釣り道具、全部捨てられちゃってた。

それで家を出て、那覇の一軒家で家賃5,000円くらいのとこ探してきて住んだの。すごいおばあちゃんがやってる家なんだけど、そこでも釣りばっかりしてて、だんだん金がなくなっちゃって。

── そりゃそうだ(笑)。

それで、東京に帰ってきた。

リアル『釣りバカ日誌』の浜ちゃん

── 東京に戻ってからはどうされたんですか?

当時、日本は景気良かったから仕事なんていくらでもあったんですよ。スポーツ新聞なんか求人欄にバーって仕事が載ってた。それで日給のいい仕事選んで住み込みで働いてお金貯めたら釣りの遠征に行ったの。千葉、茨城を転々として。

長い会社では7年くらい働いたかな。景気がよかったから休みが結構もらえたのよ。まあ、社長はブーブー言ってたけどね。

── リアル『釣りバカ日誌』の浜ちゃんじゃないですか。

そうだね、社長と行ったこともあったよ。でも、浜ちゃんと違うのは、海外まで行っちゃうのよ。全部社長が払ってくれるの。7年くらいそんな生活を続けてたんだけどね、バブルがはじけて会社の仕事がなくなっちゃって。人員削減しなきゃいけないってときに真っ先に社長室に呼ばれたのが俺だったのよ。

── そうなんですね(笑)、笑っていいのかわからないけど。

「お前をクビにしねえと誰もきれねえ」って言うんだよ。「わかったわかった、喜んで辞めるから、本当にお世話になったから」って。

辞めたあとはダンプの会社で3年くらい働いたね。休むたびに社長がぶーぶー言ってたよ、釣りばっか行ってるからニックネームが『釣りキチ三平』の三平ちゃんだった。

── そこから、プロの釣り師になったのはどんなきっかけだったんですか?

俺、だんだん釣り業界で有名になってね。釣り雑誌に載ったり、アドバイザーを頼まれたりしてさ。1990年代は釣りのバブルだったからそれだけで食えるようになって会社を辞めたの。でも、2000年代に入って釣りのバブルが弾けて。

── ピンチ......!

能天気だからあんま心配してなかったんだけど、周りの方が心配してくれて。釣り仲間に「釣具屋でもやったらいいよ」って言われて「じゃあ金出すのか」って言ったら「出す」ってさ。4人が出資してくれることになって、4000万集めたのよ。それで「Proshop MOGI」って釣具店と、株式会社をつくって。

── それが、釣具店を運営している株式会社グローウッズ。

そうそう。

神奈川県青葉区あざみ野にある「Proshop MOGI」

地中海では巻き網を減らしたらクロマグロが戻ってきた

── 茂木さんはマグロの資源管理についても活動されていますが、きっかけはなんだったんですか?

2008、9年くらいから、明らかにマグロが釣れなくなってきたのよ。マグロを釣るために青森に行ったとき全然釣れなくて、何事かと思ったらみんなが口を揃えて「巻き網のせいだ」と言っていた。そのせいで、青森までマグロが回遊してこないんだって話になって。

── 巻き網(大きな網で魚群を囲い込み獲る漁法)はどんなところが問題なのでしょうか。

産卵期のマグロや小型魚を根こそぎ獲ってしまうのが問題。巻き網っていうのは大量破壊兵器なんだよ。しかも水揚げされたマグロは生きているうちに狭い冷蔵庫に放り込まれて、もがき苦しみながら死んでいくから、傷がついて身質も悪くなる。海外では漁業船に監視カメラやオブザーバーが乗るからごまかしがきかないんだけど、日本ではそういうのが少ないから、小型魚を海上投棄してるって話もあるよ。

カナダ「プリンスエドワード島」での巨大クロマグロの水揚げ

これまでニュージーランド、アメリカ、カナダでクロマグロの水揚げを見てきたけど、250、300kg級がバンバン釣れるんだ。針つけて垂らしたら5秒で釣れるくらい。それなのに、日本で獲れるマグロの平均は30kg台。30kg未満のマグロはおいしくないから、そんな質の悪いマグロが流通してたら、魚嫌いになっちゃうよ。

それで、釣り人連中で集まって、産卵期のクロマグロ漁を自粛するよう訴えるデモをしたりして。

── 海外では資源管理をしてクロマグロが増えたような事例もあるのでしょうか。

あるね。ユーラシア大陸とアフリカ大陸に囲まれた地中海は大西洋クロマグロの優れた漁場なんだけど、資源管理が進んでるよ。ICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)が乱獲を防ぐために規制を強めて、2007年には巻き網だけで5万トンくらい撒いてたところを、2011年には4300トンまで減らしたの。

そうやって資源管理をはじめたら一気にクロマグロが戻ったんだ。北ヨーロッパにあるバルト海までクロマグロが入ってくるようになって。スウェーデンやデンマークでは3年前の新聞で「50年ぶりにマグロが戻ってきた」ってニュースになった。大西洋クロマグロはほぼ初期資源量の100%に近いんだよ。

── 初期資源量とは......?

初期資源量っていうのは、人間が漁業をしてなかったらどれくらい魚がいたかっていう目安。日本で獲れる太平洋クロマグロは、一番減ったときで2.1%なんだけど、そこから少し増えて、今は3%って言われてる。

── 大西洋クロマグロのほぼ100%に比べると、あまりにも少ないですね。

大西洋は太平洋の面積の半分しかないのに、クロマグロの量は30倍いるわけ。密度にしたら60倍いる。基本的に日本以外の水産業は右肩上がりなのに、日本は衰退していってる。

茂木さんが日本で行ったデモの様子

おいしい時期においしい魚を食べて欲しい

── 日本は、明らかに遅れをとっていますね。

漁業法とか漁師の観点では世界の先進国から30年は遅れてる。釣りは50年。

── 50年......! プロの釣り師である茂木さんから見て、日本の釣り環境はいかがですか?

日本では「海の資源は誰のものでもない」って感覚があるよね。海外では「海は国民の共有財産」っていう認識で、釣りをするにはライセンスが必要。罰則もあるし、監視もある。釣りをする人に対しても、「国民の財産で遊んでるんだから、食べきれないほどキープするな、無駄な殺生するなよ」っていう考え方。

日本ではルールがなくて獲ったもん勝ちだから、乱獲につながるよね。コロナ禍でもわかったけど、日本人は「自粛しなさい」って言われるだけで7、8割は守るんだよ。2、3割のルールを破る人が、獲ったもん勝ちで得するような仕組みになってるよね。アメリカだとルールを守らないことを前提に、罰則を厳しくしてバランスをとっている。ルールを守れる国民性だとしても、日本でもやらなきゃだめだよ。

── 私たち消費者というより、規制の問題なのでしょうか。

トレーサビリティの問題もある。市場に並んでる魚がどこで獲られたかわからないじゃない。例えば、獲ってきたのが八丈島のほうでも、気仙沼で揚がったカツオは全部が気仙沼産になっちゃうでしょ。

新潟県で獲ってきたトラフグを下関で水揚げしたら下関産になっちゃうし。陸路で運ぶときも、伊勢湾で漁師がサワラを獲ったとして、市場が開く前にトラックで岡山に運ぶと岡山産になる。そういうデタラメがいっぱいあるのよ。

アメリカなんかは仕入れ先、ルートがわからないのは売買しちゃだめにしようとしてるし、釣り人の魚は売買できない。違法な流れを絶ったり乱獲を防いだりしないと、漁師の仕事がなくなっちゃうから。

── 日本の消費者は何をしたらいいでしょうか。結局のところ、マグロは食べていいのか、減っているから食べないようにしなければならないのか......。

消費者には、賢くなってもらいたいよね。おいしい魚をおいしい時期に食べてください。クロマグロがおいしい時期は3月末まで。4月くらいから脂が減って、7月なんてパサパサだもんね。そういう、旬を知らない人が多すぎる。昔は魚屋で「今日入ったこれ、うまいよ」って教えてくれたけど、今は対面の商売がないでしょ。切り身で買って、もとの形を知らない人多いじゃない。冷凍技術が向上して便利になったんだろうけど、旬が狂っちゃった。

── たしかに、1年中スーパーで同じ種類の魚が売られているので旬を気にしたことがほとんどないです。

日本でやってもらいたいのは、子どものときからの教育かな。家の中で勉強させるだけが教育じゃないから。親の世代の教育から必要ってのもあるけどね。ゴミをそのへんに捨てる親なら子どももそういう大人になっちゃうし。

大地も海も国民の共有財産だということがわかったら、「共有財産で遊ばせてもらっているんだから、ルールを守らなきゃいけない」って意識ができるはずだよ。

おわりに

「魚を釣る」という行為を通じて、世界中の海と向き合ってきた茂木さん。他国の事例なども見てきたなかで、魚が獲れるのは当たり前ではないこと、人間の営み次第で魚は増やせることを体感してきたのだろう。

職業としての漁師ではなく、釣り師の一人として日本の漁業に疑問を持ち、資源管理について発信を行っている。しがらみにとらわれず、フェアな目線で橋渡しができる茂木さんのような存在が貴重に思えたし、こういう人がいることは、海の幸を未来へ残すことへの希望だと感じた。

「資源管理」と聞くとすごく壮大な話に思えてしまうけれど、旬のものを食べることや、大地も海も共有財産なのだと意識することが、私たち一般消費者にできる第一歩なのかもしれない。

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