「スマホでできる''手のひら漁業''で、消費者と漁業者をつなぐ」元ヤン社長がIoTで目指す漁業革新

「クラウドサービス」「IoT」「ドローン」

この3つのキーワードから漁業を連想できるだろうか?

2017年に「クラウド漁業」を立ち上げ、IoTやドローンを駆使した漁業革新を目指すのは、とろさば料理専門店「SABAR(サバー)」を全国展開する、株式会社鯖や代表の右田孝宣さん。

「クラウド漁業」とは、定置網で水揚げしたのに捨てられてしまう「未利用魚」をまるごと生け簀(す)へと移し、水温、塩分濃度、酸素濃度をネット上のクラウドデータで管理して育てる、これまでになかった蓄養業だ。

また、水産業の"超スーパー分業制"に疑問を持った右田さんは、自分たちで魚を作って手売りまでする「漁業版SPA(※製造から小売りまでを一貫して行う製造小売業態)」を始めたり、スマホを通して漁業に参加できる「手のひら漁業」の開発に乗り出したりと、日本の海が抱える課題解決に向けて歩みを進めている。

今まさに日本の漁業に風穴を開けんとするアツイ男は、実は元ヤンで、元ヒモという経歴の持ち主でもある。クズっぽいエピソードが炸裂するたびに「女としては出会いたくないタイプだ......」と心の中で唱えたが、いつの間にかバイタリティーあふれる右田さんの話に引き込まれていた。

課題解決のための柔軟な発想力や、実現するための行動力、そして何よりも、周囲を巻き込んでいくけん引力を目の当たりにすると、彼の元に「海に関する困りごと」が集まってくるのもうなずける。

"ダメ男"から再起を図った右田さんが見た、日本の漁業の現状と、その先にある夢とは。

小ヤンキー異国に渡る

── 著書『サバへの愛を語り3685万円を集めた話』を拝読したのですが、高校を4年かけて卒業されているとか。今の右田さんからは想像がつきません。

そうですか(笑)。ヤンキーにもなりきれない「小ヤンキー」ってやつで、高校を卒業するのに4年かかってしまったんです。ようやく卒業して、魚嫌いやったのにスーパーの鮮魚部門に入りました。そしたら配達先の割烹料理屋さんで食べたカレイの煮付けが、衝撃を受けるくらいおいしくて。「魚嫌いだった僕の19年間を返せ!」ってなりましたよ。

── そこから魚にのめり込んでいったんですか?

はい。23歳になったときに「魚屋のにいちゃんで終わりたくない」と思って、魚の貿易を学ぶために、ワーキングホリデービザでオーストラリアに渡りました。その後はビジネスビザに切り替えて3年弱いたんですが、現地の回転寿司チェーンに勤めて、ナンバー2まで上り詰めたんです。ここでも鮮魚部門での経験が生かされましたね。

年収1,000万保証するし、永住権をとらせてやるとまで言われましたが、日本でやり残したことがあると断って帰国しました。それなのに、帰国後「FAXで世界を変える」とか、わけわからんビジネスをはじめてしまうんです。今となってはどこで出会ったのか思い出せない男に「お前みたいなやつが成功するんだ!」とけしかけられて。38万円のFAXを知り合い17人に売りつけました。

── くしくも右田さんがこだわっている「38(サバ)」万円。かなり怪しいビジネスですが......。

天狗になっていたんでしょうね。普通のビジネスじゃないとは気づいていたのですが、オーストラリアでそこそこ成功して帰ってきたので、普通のビジネスをする必要はないよなと思い込んでしまって。

結局1年ちょっとやって、貯金を使い果たして辞めました。その間に家賃も払えなくなり、彼女の家に転がり込むことになります。オーストラリアにいた頃から遠距離恋愛してた彼女で、当時は看護師の仕事をしていました。僕が毎日昼くらいに起きると、テーブルに「お昼代」と書かれたメモと1,000円札が置かれていて。

── 失礼ですが、ヒモのような生活ですね......。


ほんまにクズでしょ。見栄を張ってベンツに乗っていたんですが、実態はこんな情けないものだった。なのに、ちょうどその頃に彼女の妊娠が発覚して、結婚しました。

── すみません、私が彼女なら、かなり不安です(笑)。


それが、妻はOKしてくれたんですよね。これを機にちゃんと働くことを決意したんですけど。歩合制の仕事だったので、最後は給料が3万5,000円くらいしかありませんでした。そのころには子どもがふたり。貧乏子だくさんってやつですね。それでも妻は文句ひとつ言わなかった。

── 元ヒモが頑張って働いている姿を見ていたから、奥さまは文句も言わずに支えてらしたんですね。すてきなエピソード。

でもね、ある日ふとつぶやかれたんです、「あなたの給料は少ない。それなのに、なぜ帰ってくるのがこんなに遅いの?」って。実は、給料を前借りして毎日酒盛りしていたから、給料が少ないし帰りが遅かった。

── うわぁ、やっぱりクズだった......!


でしょ(笑)。よくついてきてくれたなと思いますよ。

サバ寿司一本で勝負すると決めたが、最初の3年はPR会社のようだった

── その後、弟さんの助けもあり、大阪淀川区に「笑とり」という居酒屋を開業されています。「サバ寿司一本で勝負しよう」と言い出したのも奥さまだったんですよね?

よそから来たお客さんが、みんなサバ寿司ばっかり頼むんです。うわさを聞いて来てくれたみたいで、それを知った妻も「あんたが作る料理で唯一おいしいのがサバ寿司だから、これ一本で頑張ってみたら?」って言うわけです。妻は本当にユニークな人で、お店が暇なときにスケッチブックに絵を描いてるんですよ。サバが自転車に乗ってて「サバイシクル~!」とか。

あまりにもしつこく言われたから、宅配バイクにサバのオブジェをのせた「サバイク」を作ってデリバリーをはじめました。

そして、「メディアに取り上げてもらえたら、サバ寿司だけで勝負しよう」と言っていたら本当に取り上げられたので、「鯖や」を立ち上げました。

会社を作るときに彼女と2つだけ約束したんです。ひとつは、サバ一本でどこまでできるか挑戦してみよう、ということ。もうひとつは、面白くなかったらやめようね、ということ。

── キャンピングカー「サバス」や、テーマソング「サバババーン」など、あの手この手でサバをPRされていたそうですね。

話題作りをしなくてはならないので、最初の3年くらいは「PR会社か!」ってくらいPRばっかりやってました。実際、「何の会社なの?」って言われることもあって、ちゃんと自分たちのやっていることで取り上げてもらわなくては先がないぞ、と。

いろいろと取り組んでいく中で、ずっとサバ一本でやってきたからこそ、「われわれ好みの本当においしいとろサバを作ろう」と、第一次産業である漁業を知るために、川上にのぼっていったんです。

川上にのぼっていくと見えてきた、日本の漁業問題

── 外側から入っていった右田さんだからこそ見えてくる、漁業の課題もあったのではないですか。

僕らがサバ寿司に使っているものを「とろさば」と呼んでいるんですが、定義は3つあって、東北で獲れたもので、脂質21%以上、そして重量550g以上であることです。「鯖や」をはじめた11年前は、とろさばっていっぱい獲れていたんですよ。

でも、ここ3~4年で確実に獲れなくなってきているんです。そこで漁師さんに話を聞きに行ったら、「まったくもうからない」って言うわけです。なんでも、漁業者全体の平均年収は200万円台※だと。

※農林水産省『漁業経営に関する統計』によると、沿岸漁船漁家の平均所得は、平成27年261万円、28年235万円となっている。
参照元:http://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/20.html

── 300万円にも満たないんですね......。漁師はもうかるイメージでした。

そうなんです。もうからないから兼業で他の仕事もするし、後継者は50年前に比べると3分の1以下なんだと。じゃあ養殖はどうなんかなと思ったら、養殖にかかるエサ代の原価率が6~7割もかかっていることがわかりました。

日本の養殖はほとんどが稚魚から育てる「蓄養」なので、その稚魚を購入するコストも考えると原価率は8割くらいになるわけです。そんな商売、あり得へんですよ。なんでそんなことがまかり通るんですかって聞いたら、指定のメーカーからエサを買うことを条件に、育った魚を買い取る仕組みがあると言われたんです。

── エサを高く売って、魚を安く買い取っているということですか?

そういうわけではないんです。メーカーの言い分としては、「相場の値段で買い取ってる」って言うわけです。明らかに高いエサを売って、稚魚まで売ってもうけているのにですよ。じゃあなんで自分たちで売らないんですか? と、サバの養殖業者さんに聞いたら、「エサ代に莫大な費用がかかっているから、育てたものを確実に売るためにそこに頼るしかない」と。

── よくないループから抜け出せなくなってしまう。仕組みの問題なんですね。

そんなときに、島根県の隠岐島にある海士町っていうところから連絡があったんです。「サバが獲れても捨てられてます、助けてサバ博士~」って。「サバが助けを求めてるなら!」と、大阪から車で4時間、さらに1日1便しかないフェリーで3時間半かけて行ったわけです。そしたら、サバよりも、アジがもっと捨てられている。

なぜそんなことになっているかというと、小さい島なので卸売市場がなく、競りが行われないんだと。だから境港まで行かなきゃいけないんだけど、ここのフェリーは、運賃が日本一高いんです。発泡スチロールと氷を輸送するだけで900~950円くらいかかるんですよ。魚を乗せずにです。そうすると、競り値が1,000円以上じゃないと赤字になるんですが、そもそも大衆魚のサバ、アジ、イワシって、そんなに値段がつかないんです。

じゃあ食べたらええやんって言ったら、隠岐島では魚を食べる消費量が、獲れたうちの18%しかないから、どっちみち捨てなきゃいかんって言うわけです。人口が少ないから食べる人がいない。

── それで、せっかく釣れても捨ててしまうと。もったいない。

IoTやドローンを活用した「クラウド漁業」の立ち上げ

ここで前の話とつながってくるんですけど、「蓄養」にかかっている莫大なエサ代も、この捨てられてしまう「未利用魚」を活用することで、コストを抑えられるのではないかと考えたんです。それによって漁業者の所得がきっと上がるんじゃないかって。定置網だと、小さい魚は捨てられるのに、水揚げせざるを得ない。でも、そういう魚が、生きた状態でまるまる生け簀に入れたら、半年後にちゃんと値段がついて出荷されていくわけです。

まるまる生け簀に入れることで、同じ環境の中で食物連鎖が起こるから、自然に近い環境で育てることができるだろうという仮説を立てました。今の日本では単魚種の生け簀しかやっていないので、混合養殖と呼んでいます。水族館でも、例えばジンベエザメとブリが一緒に泳いでるじゃないですか。複数回、複数種類のエサを与えているから、食物連鎖が起こらず共存共栄できている。それに環境を近づければ、できるのではないかと。

── なるほど。安定的にエサを与えて、共食いせずに育てるということですね。

はい。それで、福井県の小浜で立ち上げたのが「クラウド漁業」です。KDDIさんと一緒に、IoTを活用した養殖事業を始めました。水温、塩分濃度、酸素濃度をリアルタイムで計測していて、ネット上のクラウドに送信されるので、タブレットで管理できます。

また、現状では自動給餌器でエサが与えられていますが、このやり方だと2割くらい食べ残しがあると考えられています。エサ代がめっちゃ高いのに、2割も無駄打ちしているわけです。

そこで将来的には、水中ドローンを使って調査したいと思っています。蓄積したIoTの情報も踏まえて、魚がエサを食べている時間を割り出していくと、魚たちが食べたい時間に食べたい量を食べられる。しかも、ドローンでエサを与えることもできる。そしたら労働力も確保できるし、無駄なエサを与えなくてすむ。めちゃくちゃコストが減るはずなんです。

── おおお、それはとても画期的です。

実は水産業って、他に類を見ないくらい、超スーパー分業制なんですよ。漁業って一言でいってもハンティング(漁師)とファーミング(養殖)って分かれてるでしょう。水揚げしたら今度は漁協があって、仲買がいて、卸がいて、加工する人がいて、スーパーに並んで、最終的に消費者の手に届く。細かく仕事が区切られてるんです。

── 人の手を渡るたびにコストがかかっているわけですよね。

そこで、自分たちで魚を作って、自分たちで手売りまでする「漁業版SPA(製造小売業態)」を目指すことにしました。熱海の漁業者さんたちと一緒に合同会社をつくるのですが、2月中には設立予定です。

水産業って分業制だけども、だからこそ専門性がめちゃくちゃ高いんです。専門性の高い方たちが、点々とやっているのを、僕らは事業としてひとつにまとめたい。魚にとっては産地で加工されるのが一番いいので、加工して輸送する。魚の可食部って50%くらいなので、そもそもまるごと輸送するのが最善ではないですし。

── そうすれば、水産業に関わる人々の仕事を奪うこともない。

一次産業の人も出口が見えたらがんばるじゃないですか。今は、魚が消費者に渡る一歩手前の場所はスーパーですよね。そこでは規格をそろえて安定的に供給することが求められます。漁業は規格に合わせるのが難しいものなのに、手間をかけて選別するわけです。ときには、近くの産地まで行って卸値より高い値段で魚を買って、頭数をそろえたりさえしている。おかしな話ですよね。

それなら卸すターゲットをスーパーじゃなくて飲食店にすれば、調理されて出てくるから個々の大きさも魚種も関係なくなります。「本日の鮮魚」っていう便利な言葉があるでしょ。

── 飲食店を長くやってこられた右田さんならではの発想ですね。

飲食店って、いいものをダイレクトに伝えられる「メディア」なんです。われわれが伝えたいことを、料理を通してお客さんにインプットできる。
仮にね、テレビでお店を紹介されたとしても、「いらっしゃい」から「ごちそうさま」まで、せいぜい5分くらいです。でも、もしお客さんがお店に2時間いるとしたら、その間、拘束してプレゼンできるようなものなんですよ。

「手のひら漁業」は、お店選びのきっかけづくりになる

── 飲食店として、消費者の魚離れに対する課題はありますか?

今後は、お店側が「魚を食べる理由づけ」をしてあげる必要があると思います。例えば、自分が育てた魚だったら食べたいと思いませんか? そこで今、スマホを通して漁業に参加できる「手のひら漁業」を作ろうと思っています。

みなさんが持っているクレジットカードのマイレージや保有ポイントって、時期がくると失効してしまいますよね。そこで、「臓器提供意思表示カード」のように、「失効するなら一次産業に寄付します」って、事前にチェックを入れられるという概念をつくりたいんです。「半分寄付型」という仕組みを使って、自動的にポイントを半分寄付できたり。

── 失効されるはずのポイントを使って、養殖にかかるお金をまかなうと。

はい。支援者は、水中ドローンで撮られた生け簀の映像をスマホで見ることができたり、養殖地で加工された品が自宅に送られたりといったリターンを得られるわけです。また「回転寿司チェーンのなんとか店で、あなたの育てた魚がそろそろ食べられますよ」ってアナウンスをもらえるとか。

── クラウド漁業を通して、自分たちで作った魚を食べられるのがわかれば、お店へ行くきっかけになりそうです。


「今日は焼き肉とイタリアンと中華のどれにしようか」、と考えるときに、「それとも自分たちで作った魚を食べに行こうか」というもうひとつの選択肢を当たり前にしたいんです。グルメサイトで「一次産業応援」みたいなアイコンをつくっても面白いだろうし。そういう概念があってもいいんじゃないかなって思っています。

── お店側としては宣伝にもなるし、支援者は自分が育てた魚だと思えば感動もひとしおだし、養殖業者は資金を得られるし、みんなが幸せになれますね。

僕がやっているのは、「困りごとを解決していく」というビジネスモデル
なんです。いろんな方向から問題を見て、それらをつなぎ合わせていくと、必要なピースが明確になってくる。もともと漁業の部外者だからこそ見えてくるものがあるし、漁業者同士の交流ってないので、僕らみたいなのが人を結んでいくこともできると思っています。「海を守る」という同じ目的で連携していけば、もっとお互いの技術や長所を取り入れることができるはずです。

おわりに

「IoT」と「漁業」。

一見すると対極にありそうなものだが、「だからこそ、この分野で成功例をつくれば、他の産業にも必ず転用が可能になります」と、右田さんは話す。

「はじめはサバ好きから入ったけど、日本の漁業の現状を見ているうちに、ほっとけなくなってきたんです。専門性の高い人には知恵を貸してもらって、お金を持っている人には支援してもらう。たくさんの人の手を借りれば、解決できるんじゃないかって思ってしまったんですよね。夢物語でも、僕は言い続けていこうって思っています」

最新技術を駆使してはいるが、右田さん自身のしていることは、とても原始的な "人と人をつなぐ"ということだ。

ひとりではできないことも、多くの人の手を借りれば、かなうかもしれない。

サバを愛する男が描いた夢物語は、人と人をつないで、現実になるときを待っている。

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ひとりでも多くの人に、海のイマを知ってもらうことが、海の豊かさを守ることにつながります。

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Gyoppy! は、ひとりでも多くの人に、海と海にまつわる人、もの、ことに興味を持ってもらうこと、海の課題に関心を持ち、解決へのアクションを起こしてもらうことで、海の豊かさを次世代へつなぐことを目指します。